2030年までに運用資産1兆ドルを目指すAllocations、AIで可能になる「投資の民主化」

AIを活用してプライベートキャピタルの資金調達を効率化するフィンテックのスタートアップAllocationsの運用資産が20億ドルを超え、注目されている。

米国マイアミに拠点を置くフィンテックが開発しているのは、プライベートエクイティやベンチャーキャピタル向けのタスク自動化AIツールだ。同社の運用資産は、2021年に2億5千万ドルだったが、1年後の2022年9月には10億ドルを超えており、2030年までに1兆ドルを目指している。

Allocationsの特徴

2019年設立のスタートアップ、Allocationsのプラットフォームは、ファミリーオフィスやエンジェル投資家グループ、ベンチャーファンドのサポートもしており、新興ファンドマネジャーの資金集めを容易にすると同時に、一般投資家にはオルタナティブ投資の機会を広く提供している。

注目すべきはAIを使ったプラットフォームであること。このモデルは機械学習で10万件以上の投資文書を学習し、カスタマイズされたPPM(私募目論見書)や運用契約、その他のファンドの立ち上げに必要な文書を即座に生成できる。また、市場データをスキャンして、潜在投資のデューデリジェンスの実施も可能としており、こうしたプライベート・マーケット投資のバックオフィス作業全体を自動化することで、これまで事務手続きにかかっていた時間と人件費を大幅に節約できるようになる仕組みだ。

これは、従来のやり方では法的な書類仕事やコンプライアンスの確認に、法律家の莫大な時間と、数千ドル単位での彼らに対する費用がかかる作業。AIの採用によって、こうした投資関連業務の効率がはるかにアップし数分で完了できるようになっている。

このAIによる自動化で、同社の社員は1人当たり70件のファンドを取り扱うことが可能になり、これは業界平均の10~70倍に当たると同社のCEOキングスレイ・アドバニ氏は言及している。

投資家のアドバニ氏が体験したAllocations設立のきっかけ

アドバニ氏がAllocationsをスタートさせたのは、自身が直面した課題を克服するためだったとされる。

アドバニ氏の最初の投資は、自分の貯金3万ドルをSpaceXやCoinbase、Robinhoodなどに投資して、1,500万ドル以上に増やしたこととされている。その後、自身の投資ファンドを立ち上げようとした際、迅速さが求められるプライベート・マーケットで生き延びるのに十分なスピード感をもって資金を回転できるツールが市場に存在しなかったことがAllocations設立のきっかけだとしている。

アドバニ氏によるとAllocationsの顧客は、オルタナティブ投資の機会を個人富裕客に提供したいアセットマネージャーたち。彼らの顧客は富裕層で、多くのオルタナティブ投資に要求される規制当局の認定に合致する。

しかしながらオルタナティブ投資は通常、機関投資家に独占されていることが多いのが現実。富裕層である個人投資家からは、今後こうしたオルタナティブ・アセット商品への投資要望がさらに高まり続けると同社は確信しているとのことだ。

特に、ベンチャー投資家が企業から離れ、個人ファンドを立ち上げる流行がある中、Allocationsの価値提案は昨今、ますます魅力的に見える。

ファミリーオフィスからエンジェル投資家、ベンチャーキャピタルファンドまで、2022年の時点で1万以上、2024年の3月の時点では2万以上の個人富裕客を取り扱っているAllocationsは、同社のウェブサイトに、ロサンゼルスに拠点を置くBackstage Capitalやアメリカ各地にオフィスを構えるVitalize Venture Groupなどを顧客として挙げている。

SPVの立ち上げサポート

AIを採用することでバックオフィスの手続きが圧倒的にスピードアップしたAllocationsの、さらに中核となるのはSPV(特別目的会社)の立ち上げサポートと、プールされた資金から1回の投資で資金調達することができることだ。

アセットマネージャーやファミリーオフィス、エンジェル投資家が特定のスタートアップやアセットに集団投資するのがSPVだが、このプラットフォームは、Leeds Unitedへの2,300万ドルの投資をはじめ、SpaceXOpenAIAnthropicなどの著名スタートアップの投資にかかわるSPVも扱っており、前述の通り、遅くて複雑、高額だったプロセスが、AIを利用した自動化によって、通常よりも複雑なSPVの立ち上げすらシームレスにできるとしている。

確信する個人投資家の増加

個人投資家の増加を確信し、彼らをサポートするAllocationsのプラットフォーム。

その根拠として同社は2020年の時点で、全世界で100万ドル以上の価値がある個人投資家の投資可能な資産を総合すると79兆6,000億ドルにも上ると試算。市場でのポテンシャルは莫大であるとしながら、2026年までにオルタナティブ投資は23兆ドルになると見込んでいるとする記事もある。

そこで、同社は事務手続きのスピード改善と共に、より低い最低金額でのオルタナティブ投資を顧客にオファーできるのもAllocationsを利用することの利点だと強調する。

これまでのオルタナティブ投資は、その情報公開が制限されていたり、プライベートエクイティは創業者の知り合いや近しい人のみに限られていたり、エグジットが難しかったり、ヘッジファンドは限られた富裕層の大口投資に限られていたりと、個人投資家にはハードルが高いものばかりであった。また、最低でも1万ドルから100万ドルといった高額の最小投資額を要求される。

こうした課題や規制によって、ベンチャーキャピタルは資金調達に苦心し、投資家側は投資したくてもできないというスパイラルに陥り、世の役に立つ新発見や新技術の進歩が遅れている可能性も指摘されてきた。

一方で、Allocationsでは5,000ドル程度の最小金額設定で受け入れ可能とし、アドバニ氏はインタビューの中で総額1万ドルのアフリカのスタートアップへのSPVを例に挙げ、おそらく世界で最小最少のSPVだとしている。「最も多いのは中規模アセットマネージャーからの関心」だとし、彼らは年間何千ものSPVを扱っているため、より自動化のニーズが高いとアドバニ氏は述べている。

テクノロジーによる投資の民主化

資産クラスへのアクセスを広げるためには、額を小さくすることが極めて重要だとされている。

例えば、2022年にアメリカのエクイティ大手のKKRが、一部投資ファンドの運用にトークンを活用して事務手続きを高速で処理できるようになり、少額であっても投資家層を増やすことを第一に目指し話題となった。

一方で、ファンドの管理をより効率化させずに少額の投資を受け入れることは、少額の手数料が事務手続きの労力に見合わないため必ずしもマネージャーの得にはならないことも事実。

投資家層を増やしたいベンチャーキャピタルなどといった被投資側と、投資可能な資産を持ち合わせていながら、幅広く投資したくても、さまざまな制限や金額設定、事務手続きなどの複雑さがオルタナティブ投資では特にハードルとなって個人投資家の前に立ちはだかり、時代の流れと共に打開策が模索されてきた。

そこで、事務手続きをAIに任せてコスト削減し、時間的にも効率化を図ったのがAllocationsだ。

この方法でオルタナティブ投資を「民主化」し、要望の高かった個人投資家を受け入れることで、スタートアップや新しいマーケット、世の中の役に立つニッチな投資先への資金調達が進み、世界を良くしていくというのが同社の究極の目的だ。

今回Allocationsの運用資産が20億ドルを超えたということは、テクノロジーによってウォールストリートの機関投資家を超えたより幅広い投資家に、利幅の大きいオルタナティブ投資の機会を開放することが可能になったことを証明できたということ。

Allocationsはさらに、モバイルアプリのローンチを今年中に計画しており、これが実現すればどこにいてもスマートフォンから数分で口座の開設やSVPの立ち上げも可能になるとしている。

またモバイルアプリへの進出は投資家の世代シフト、つまりスマートフォンでお金を管理するのに抵抗のない若い投資家を取り入れることを視野に入れているからだ。

新世代は消費者向けフィンテックアプリに、より洗練された体験を求めるようになってきており、Allocationsのようなプラットフォームには、オルタナティブ投資の事務手続きをモバイルに集約することで、莫大なポテンシャルがある。

投資の課題解消となるか

運用資産を2030年までに1兆ドルにすることを目指しているAllocations。

最先端技術へのアクセスを大衆に広げることで投資の民主化を促進し、次のユニコーンスタートアップやVCメガファンドに投資できる「投資家層」を根本的に変えていきたいと意気込み、今後も投資家から注目される分野として、宇宙産業、気候テック、バイオテクノロジー、そしてフィンテックの名を挙げている。

テクノロジーやイノベーションのスピードと、規制の更新のスピードの足並みがそろっていないという課題の克服に、Allocationsは大きな一石を投じている。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit

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