国際競争力ナンバーワンのデンマーク人の働き方・キャリア観 ―サステナブル都市開発のイノベーション拠点「ブロックスハブ」より―

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北欧の小国デンマークは、2年連続(2022年・2023年)で国際競争力1位を獲得した。なぜデンマークは国際競争力が高いのか。そのヒントを探りに、サステナブル都市開発のイノベーション拠点でもある、コペンハーゲンの最先端オフィス「ブロックスハブ(BLOXHUB)」を訪問した。

アーバン・サステナビリティ事業の拠点「ブロックスハブ」

ウォーターフロントに道路を跨いでそびえ立つガラス張りの建物「ブロックス(BLOX)」は、オランダの巨匠建築家レム・コールハース率いる建築事務所OMAが設計を手がけた複合施設だ。高額の建設費用をかけて建設され、2018年にオープンした。

その中に、サステナブル都市開発のイノベーション拠点「ブロックスハブ(BLOXHUB)」がある。「ブロックスハブ」は、アーバン・サステナビリティをコンセプトとし、多様なステイクホルダーとのネットワークを活かして、国内外のサステナビリティ都市開発事業を推進する組織だ。シェアオフィスとしての機能も持っている。

「ブロックスハブ」は、「サステナビリティ事業に関わっていること」を会員になる条件としている。フリーランスからスタートアップ企業、グローバルな大企業、大使館まで会員は多岐に渡り、現在、約350の個人や企業が会員になっている。最新のサステナビリティ情報の入手や、サステナビリティ事業のグローバルネットワークに入れるのが魅力だ。

「生産性」はカジュアルな空間で生まれる

シェアオフィスとしての機能も持つ「ブロックスハブ」を見渡して気がつくのは、空間のカジュアルさだ。広々としたラウンジのような空間に、さまざまなタイプのデスクやソファが置かれている。ラフで、開放的で、遊び心のあるインテリアだ。

大きな窓の向こう側には、運河や橋を眺められる。

実は、このカジュアル感や開放感が「生産性の秘訣」なのだ。「ブロックスハブ」のチーフコミュニケーションオフィサーのアンブリットはこう語る。

何よりも大切なのは、自分のなかのいいエネルギーの流れをキープすること。お互いのいいエネルギーが交わり合うことで、いい循環が生まれ、いいアイデアが生まれ、いい成果につながる

いいアイデアは、フォーマルで緊張感漂う会議室から生まれるわけではない。リラックスできる開放的な場所で生まれるものだ。そう考えるからこそ、「ブロックスハブ」では、肩の力が抜けたカジュアルな空間づくりをしている。

業界の枠を超えたネットワークが「ブレイクスルー」になる

閉め切った部屋の窓を開けると、新しい風が入り、部屋の空気がふわっと動く。アンブリットが思い描くのは、そんなイメージだ。

同じ業界内で議論を続けていても、画期的なアイデアは生まれない。イノベーションを起こすためには、新しい風が必要だ。

「ブロックスハブ」では、朝食会やビンゴナイトなどのカジュアルイベントを開催している。分野の異なる様々なステイクホルダーを集めて「スピードデート」も開催することもある。「スピードデート」は、数分以内にお互いの事業を紹介し合って、どんどんデート相手を交代していく企業間のマッチングイベントだ。

イベントでの出会いから新しいコラボレーションが生まれることもある。業界の枠を超えて他の分野の人たちと交流することで、自分たちでは思いつけなかった突破口を見つけられる可能性もある

必要なことは、肩に力を入れて頑張ることでも、同じ業界の専門家同士で肩を並べて議論し続けることでもない。肩の力が抜けるようなカジュアルな場所で色んな人との出会いを楽しむことが、新次元のブレイクスルーにつながるのかもしれない。

「ブロックスハブ」では、その他にも、課題解決にチャレンジするワークショップ、希望に合わせたマッチング、研究機関と民間企業とのネットワーキング、国際的な代表団の訪問受け入れ、会員同士の紹介など、大小さまざまなイベントを開催している。

フラットな心地良い関係で「いいエネルギー」を循環させる

風通しが良く、いいエネルギーが循環することで、高い生産性が生まれる。

その意味で、部下がいいエネルギーで仕事に取り組めるように考慮することはとても重要だ。アンブリットは中間管理職として、部下が働く環境づくりに丁寧に気を配っている。

とても社交的で、みんなと話し合いながらタスクを進めていくタイプの人もいる。でも、1人で集中して仕事したい人もいる。そんな正反対の2人が同じ部屋にいたら、お互いにストレスになる。私の任務は、部下の個性に合わせて、それぞれの部下が働きやすい環境を用意すること

チーフコミュニケーションオフィサー アンブリットさん(Ann-Britt Elvin Andersen)

いいエネルギーを循環させるためには、部下を疲れさせてはいけない。部下のために、時には上司の指示を断ることもある。中間管理職の役割は、上司の指示に従うことではない。

部下の仕事が詰まっているときに、上司から新たなタスクの指示が入ったときには、上司に現状を説明してタスクを断るか、タスクの優先順位について相談する。フラットで意見を率直に言いやすい環境が、職場の「いいエネルギーの流れ」を保っている。

国際競争力が高いデンマーク人にとって仕事とは? キャリアとは?

デンマーク人には「仕事好きな人」が多い。デンマーク人はワークライフバランスを大切にするが、別に、仕事が嫌いというわけではないのだ。むしろ、仕事を「アイデンティティ」「教育機会」「社会貢献」と捉えて、誇りを持って仕事をしている人が多い。ここで、デンマーク人のキャリア観を紹介しよう。

「ブロックスハブ」のグローバルネットワークを担当するヤコブは「自分にとって意味があるかどうか」を基準に、仕事を選んできた。

ヤコブは、まずEUの職員としてエチオピアで2年間働いてキャリアをスタート。その後、デンマークの環境省で短期間働いた後、コペンハーゲン市の職員としてサステナビリティ事業に関わるようになった。そして、その仕事を通じたつながりから、海外の企業や投資家をサポートする機関「コペンハーゲン・キャパシティ」の秘書になり、現在はアーバン・サステナビリティを牽引するシェアオフィス「ブロックスハブ」でグローバルネットワークを担当している。

グローバルネットワーク担当 ヤコブさん(Jakob Norman-Hansen)

ヤコブがこれまで担ってきた仕事にはすべて、「グローバル」と「サステナビリティ」の要素が入っている。ヤコブは今まで4回転職しているが、彼の経歴を見ると、彼が何を目指してきたのか、その道筋がよく見える。ちなみに、デンマーク人の生涯の平均転職回数は、2017年の時点で平均7回に上っていて、近い将来には平均12回に上ると推測されている。

ヤコブにとって、仕事選びで大切なのは「社会的意義」である。

僕は自分の仕事を好きでいたい。仕事に社会的意義があるかどうかは、すごく重要だと思う。僕が自分自身をどう見るか、ということにつながってくるからね

ヤコブは今日も、日本を含めたグローバルなパートナーたちと共に、サステナビリティ事業の推進をしている。

ヤコブのように、自分なりのテーマを追求して仕事を選んでいくスタイルは、デンマーク人にはよくあるキャリア形成方法だ。分野は色々だが、デンマーク人に話を聞くと、特定の分野でプロフェッショナルになりたいという想いが強く感じられる。

いかがだっただろうか。シェアオフィス「ブロックスハブ」を通じて、デンマークの国際競争力が高い理由を少しでも感じていただけただろうか。

デンマーク人の働き方について、詳しくは『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHPビジネス新書)をご参照に。

取材・文:針貝有佳
編集協力:岡徳之(Livit

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