2021年頃から始まったミートショック(輸入牛肉の価格高騰)は、アメリカで続く干ばつや、人手不足による生産数減少が背景にある。さらには円安も影響し、アメリカ産牛肉の価格高騰には拍車がかかり、人々の消費は鶏肉へとシフトしている。
こうしたなか、イオントップバリュが展開する「タスマニアビーフ」が50周年を迎えた。牛肉の輸入が規制されていた1974年当時、“特別なごちそう”であった牛肉需要に応えるべく誕生。以来、変わらずに安全・安心の牛肉を食卓へと届けている。
イオントップバリュ株式会社 代表取締役社長の土谷美津子氏は「もう一度牛肉を好きになってほしい」という思いを込め、新たに50品目を発売することを発表した。牛肉離れが加速するなかで大きく打ち出す「タスマニアビーフ」の魅力を探る。
世界一空気がおいしい場所“タスマニア”で生産
島の2割が原生林であるタスマニアは、空気中の二酸化炭素濃度が最も低い水準にあり「世界一空気がおいしい場所」ともいわれている。
50年前にタスマニアの大自然に惚れ込んだイオンは、現地に赴きイオン初となる直営牧場(タスマニア フィードロット社)を設立。手軽に気軽に、そして安全・安心なおいしい牛肉を届けるべく奔走してきたという。
1997年には、抗生物質や成長ホルモン剤不使用の認証をタスマニア州政府により取得。また、2003年には食品安全規格である「SQF2000」を取得し、BSE(牛海綿状脳症)流行の際には、安全性の高さから輸出を拡大。土谷氏は「安全・安心に加えて、おいしいお肉をみなさまにお届けできている」と強調した。
また、タスマニア フィードロット社 社長のアラン・ハワード氏は「タスマニアは自然の宝庫。タスマニアビーフは豊かな自然の恵を最大限に活かしながら大切に育てている。これからも変わらず、安全で安心なおいしいお肉で、日本のお客様に笑顔になっていただきたい」とメッセージを寄せた。
50年前から続く「タスマニアビーフ」3つの特徴
そんな大自然で育まれる「タスマニアビーフ」の特徴は以下の3点だ。1974年から50年間、変わらずに守り続けているという。
① ストレスフリーな環境で肥育
牧場は2,500ha(東京ドーム500個分)と広大な土地を有し、牛にストレスを与えない環境で肥育。肥育後期の1カ月間は、海外では珍しい屋根付きの畜舎で肥育されている。
② 持続可能な食の開発
敷地内にあるサイロ(貯蔵庫)を自社で管理。規格外のジャガイモを活用した飼料を製造し、食品廃棄物の削減に貢献。また、牛の糞尿から作られる堆肥は、近隣の農園や施設などに配布し、地域の循環にも取り組む。
③「安全・安心」へのこだわり
成長ホルモン剤・遺伝子組み換え飼料・抗生物質は不使用。また、BSE(牛海綿状脳症)流行の際に取り沙汰された肉骨粉も誕生当初から使用していない。
1974年当時、安全・安心、そして持続可能な生産という概念は一般的ではなかったが、なぜ50年前からそのような取り組みができたのだろうか。
土谷氏は、イオンの名誉会長である岡田卓也氏が、当時問題となっていた公害の四日市ぜんそくに触れ、何よりも大切なのは安全と環境問題だと実感したことが原点にあると明かした。
ニーズに応えた50品目で110億円超を目指す
以前は割安であったアメリカ産牛肉は高騰し、国産牛肉と変わらない価格となった今、注目されているのがオーストラリア産の牛肉だ。円安の影響で多少の値上がりはしているものの、生産体制が整っているため割安感を維持している。こうしたなかでイオンは自信を持って「タスマニアビーフ」を展開していく。
土谷氏が「素材のおいしさを充分に生かしながら、ご家庭でも簡単に牛肉を楽しんでいただけるラインナップ」と紹介する新商品は、生ハンバーグや生ミートボール、コーンドビーフなど50品目に及び、順次発売していく予定だ。
なかでも注目は、ダイス状にカット(チョップドカット)されたローストビーフ。ローストビーフは薄切り(シルキーカット)が主流だが、ブラックアンガスの血統100%を素牛とするジューシーできめ細やかな肉質を楽しんでもらうため、あえてダイス状にカットされている。
土谷氏いわく、市場に求められているのはお手軽で食べやすい牛肉。ほとんどの新商品が、調理のしやすさと食べやすさ(食べごたえがありながら噛み切りやすい)を考慮して製造されている。
家計を重視する主婦層や簡単に食を楽しみたい単身者、そして新たに牛肉のおいしさを知り、持続可能な生産にも目を向けるミレニアル・Z世代もターゲットに見据えているという。幅広い層の需要を取り込み、2025年度には110億円超を目指す。
現在はイオンリテールを中心に製造・販売しているが、他社からの問い合わせも多く「供給体制が整えば目標の達成は可能」と語る土谷氏。牛の肥育に関わるため、長期的な計画は必須だ。消費者のニーズに応える商品開発と持続可能な生産を両立させながら、イオンは次の50年を視野に入れて邁進している。