住宅ローンで1,500万円以上の節約、クレジットスコアと借金交渉
米国では国民1人1人に個人の信用度合いを示す「クレジットスコア(信用スコア)」が付与される。範囲は300〜850、スコアが高いほど信用度が高いとみなされ、金融機関によるローン承認、クレジットカード発行、金利の設定などにおける重要指標となる。
個人の信用履歴、借り入れ・返済の記録、支払い遅延の有無など複数の要素に基づき算出されるこのクレジットスコアは100〜200ポイント違えば、日本円換算で1,500万円以上の節約効果を生む可能性があり、特にインフレによる節約意識の高まりを背景に、関心が集まるトピックとなっている。
米国における一般的な住宅ローンの期間と額は30年、30万ドル(約4,500万円)。金利が1%変わるだけでも最終返済額は大きく変わってくる。その差は7万ドル以上となり、日本円換算では1,000万円を超える額だ。クレジットスコア次第では、この差はさらに拡大する。
Bankrateによると、米国におけるクレジットスコアと住宅ローン金利(30年、30万ドルの場合)の関係は以下のようになっている。
● スコア620〜639:
年間利率(Annual Percentage Rate=APR)7.969%、月間支払額2,195ドル、支払総利息49万133ドル
● スコア660〜679:
年間利率6.993%、月間支払額1,994ドル、支払総利息41万8,019ドル
● スコア760〜850:
年間利率6.38%、月間支払額1,873ドル、支払総利息37万4,133ドル
クレジットスコアは300〜579の場合、レーティングは「Very poor」となり、民間金融機関では住宅ローンが拒否される場合が多い。このほか580〜669は「Fair」、670〜739は「Good」、740〜799は「Very good」、800〜850は「Exceptional」と評価されており、高くなるほど利率は低くなる。
上記のスコア620〜639の場合と、スコア760〜850のシナリオを見るとその差は歴然だ。利率では1.6%分の差となり、月間支払額はスコア620〜639が2,195ドルと、スコア760〜850に比べ322ドル多く支払うことになる。また支払総利息は、スコア620〜639が49万133ドル(約7,350万円)であるのに対し、スコア760〜850は37万4,133ドル(約5,600万円)と11万6,000ドル(約1,740万円)の差になってしまうのだ。
AIで借金交渉を支援するCambio
上記は住宅ローンの事例であるが、高いクレジットスコアは、自動車ローンやクレジットカードの優遇利率、保険料の低下につながることがあり、生涯で享受できる恩恵はかなり大きなものとなる。このため、いかにクレジットスコアを改善できるのかというのは、多くの米国民の関心ごとになっている。
AI活用によってクレジットスコアの改善を支援しているのが2021年設立の米フィンテックスタートアップCambioだ。
もともとネオバンクとして設立された同社だが、多くのユーザーがクレジットスコア改善を目的に同社のサービスを利用していることが判明、2022年に事業の方向を転換し、クレジットスコア改善に焦点を当てたサービスの提供を開始した。サービスはスマホアプリとして利用できるもので、当初はフリーミアムモデルだったが、ペイドモデルに移行し、現在では9万人近いユーザーが利用しているという。
目玉機能の1つはChatGPTを活用したリアルタイムのアドバイス機能。ユーザーが債権者と借金の交渉をする際、ChatGPTがその通話内容を聞き取り、リアルタイムにアドバイスを生成する機能だ。
ユーザーの債務状況などを考慮して、債権者にどのような情報を伝えればよいのかアドバイスすることができる。たとえば、ユーザーが債権者に連絡を取る際の効果的なオープニングステートメントの提案、また債権者が納得する可能性のある返済プランの提案、債務減額の提案などが可能だ。
またCambioはAIを使って直接債権者との交渉を代行するサービスも行っている。このサービスは、まずユーザーから委任状を取得し、それを基にAIが債権者に電話をかけ、借金減額交渉や借金完済のための交渉をサポートする。
Cambioは、AIによる交渉サービスを利用したユーザーの70%が交渉60日以内にクレジットスコアが改善したと報告している。
銀行・信用組合による営業AIコール
一般消費者向けにクレジットスコア改善を支援するAIシステムを開発してきたCambioだが、最近その技術やノウハウを銀行や信用組合向けに応用する新しい取り組みを開始した。この取り組みを始めるにあたりCambioはAI子会Aviaryを設立、同子会社を通じて、金融機関向けの営業AIボットの開発を進めている。
Aviaryの営業AIボットは、金融機関の営業に特化しており、電話による金融商品の販売を遂行することができる。
たとえばEncourage Financial Networkは、「Debt Protection」商品の電話販売でAviaryの営業AIボットを導入し、営業の自動化を加速中だ。
Debt Protectionとは、債務者が予期しない事態(失業、病気、死亡など)によって返済が困難になった場合、ローン残高の返済や一定期間の支払い免除・延期を可能にする保護プランで、保険のような金融商品。複雑な商品であるが、Aviaryの営業AIボットは自然かつシンプルな言葉で見込み客に説明し、リードを獲得することができるという。
また、カードのアクティベーションでもAviaryの営業AIボットが活用されている。クレジットカード会社Envisionは、クレジットカード口座を開設したものの、カードをアクティベートしない利用者が多く、また営業もアクティベーションまで手が回らない状況であることを鑑み、Aviaryの営業AIボットを導入した。
営業ボットは、カード口座を開設した顧客に電話をかけ、アクティベーション状況を確認、アクティベーションされていない場合、シンプルなステップで実行できることを伝え、アクティベーションを促進している。このほか銀行などがクロスセルしたい場合などでも十分に活用できるという。
AIコールをめぐる規制議論
生成AIによる電話営業の自動化は、多くの企業が注目するところ。実際、Aviaryのほか、Synthflowなどいくつかのサービスが立ち上がっており、ベンチャー投資も増えつつある状況だ。
しかし米国では、通信当局であるFCC(連邦通信委員会)がAIによる通話に対し、厳しい目を向けており、この技術が広く普及するのかどうかは注視が必要だ。
2024年2月の報道によると、FCCはAIによって生成された声を「人工的」と定義し、これが電話詐欺に使用された場合、違法であると宣言した。米国では電話消費者保護法により、消費者に許可なく自動ダイヤリングシステムや事前録音されたメッセージにより、電話をかけることを制限している。迷惑電話を減らし、消費者のプライバシーを保護するためだ。
FCCはこの数カ月間、AIによってクローンされた声がスクリプトを話すことが「禁止されたカテゴリ」に該当するのかどうかを議論してきたが、該当するという結論に至った格好となる。
ただし電話消費者保護法はすべてのAIコール(ロボコール)を禁止している訳ではなく、消費者が明示的に同意した場合の情報提供など、特定の条件下で利用を認めている。Aviaryは当局との連携を強化することで、同社サービスの普及を狙うという。
文:細谷元(Livit)