さまざまな業界で浸透するパーパス経営は、組織づくりの上でも重要な役割を果たす。採用に始まる人財獲得、育成やマネジメント、ワークエンゲージメント向上においては、企業と働き手の目指す方向性が一致していることが重要になるからだ。そして一人一人のポテンシャルを高めることは、結果として事業成長の原動力となるだろう。
現場社員により立案されたボトムアップ型のパーパス「ITと応えるチカラで、カスタマースマイルを拡げていきます。」を掲げ、事業成長を目指しているのが、アルプス システム インテグレーション株式会社(以下、ALSI「アルシー」)だ。DXやセキュリティ、AI、IoTなど、IT領域で幅広いソリューションを展開する同社は、変化に対応するさまざまな人財の採用・育成に積極的であり、2023年に策定したパーパスの浸透にも努めている。
今回AMPでは3回にわたる連載により、同社のパーパスを掘り下げている。第3回となる本記事では、顧客と接する営業部門の3人を取材。IT業界の次世代を担うビジネスパーソンには、パーパスはどのように映り、どう行動に反映されていくのだろうか。セールス&マーケティング統括部 営業部 クラウドソリューション営業課の山下智子氏、新保芽依氏、同部 エンタープライズ営業課の藤村圭氏の3人の声を通じ、その実態を探っていく。
競争の激しいIT業界で、「カスタマースマイルを拡げる」ために
1990年の設立以来、IT領域でソリューションを展開し、事業を拡大してきたALSI。2023年にパーパス「ITと応えるチカラで、カスタマースマイルを拡げていきます。」を策定しているが、この“カスタマースマイル”を最前線で提供しているのが、営業を担う、セールス&マーケティング統括部 営業部のメンバーたちだ。部内のチームは企業、教育機関、自治体など顧客ごとに分かれており、各領域のプロフェッショナルが活躍している。クラウドソリューション営業課の山下氏は、クラウド型のWebフィルタリングソフト「InterSafe GatewayConnection」の拡販リーダーを務める、入社15年目の中堅社員である。
山下氏「販売パートナーさまへの営業活動を基軸に、製品拡販に向けた必要機能の整理、ユーザーニーズのヒアリングなどを行い、社内の企画・開発部門と調整しながらアップデートを実現していく。それが私のミッションです。ALSIの製品は幅広いユーザー層の方々にご利用いただいていますが、機能改善やトラブルなどに細かく対応するためには、販売パートナーさまとの連携が欠かせません。開発部門、営業部門、販売店、エンドユーザーと、密なコミュニケーションにより信頼関係を築くことが、最終的にカスタマースマイルにつながると信じています」
クラウドソリューション営業課には、入社1年目の社員も所属している。2023年4月に新卒で入社した新保氏は、教育機関や自治体へのソリューション販売を担当。中でもALSIのWebフィルタリングソフト(※)は多くの小中学校でも導入されているため、子どもたちもエンドユーザーとなる。
※Webサイトへのアクセスやファイルアップロード、書き込みを制御するセキュリティ
新保氏「取引をするのは各学校でICTを担当する職員の方々ですが、その先には数多くの児童・生徒や先生、保護者がいらっしゃいます。そうした“カスタマー”が、授業などでICT機器を安心・安全かつ有意義に利用できれば、カスタマースマイルを生み出すことができると思います。特に学校でのICT導入は急速に進んでおり、日々トラブルが生じるのも事実。そんな時に“応える力”で課題解決に当たることが、自分と会社の成長につながると考えています」
一方、キャリア採用で入社した藤村氏は、エンタープライズ営業課の所属だ。取引先は大規模な事業会社であり、安全な基幹システムの構築や業務のDXを担っている。
藤村氏「担当しているビジネスは、パッケージ化された箱売りの製品ではなく、顧客のニーズに一つ一つ応える、オーダーメイドに近いソリューションです。各企業はさまざまな業務課題に直面しており、その内容も業態、職種によって変わります。当社の技術力を総動員し、顧客に最適な方策を届けることを、都度考え抜くことが私の仕事。そして、自らの手でものをつくるのがALSIの強みだと考えています」
DXが幅広い企業へと浸透しつつある現在、現場課題をITソリューションで解決するだけでは、他社との差別化を図れない。顧客の業務や課題を深く理解し、最適解を提示することが、ALSIとしての矜持なのだろう。
藤村氏「私にとって“カスタマースマイル”は、結果です。顧客のリクエストに対して100点ではなく、120点、150点の提案を行うプロセスに、当社の価値があるのだと思います。企業は無数のベンダーから最適なパートナーを選ぶことができる時代。常にプラスアルファを届けなければ、カスタマースマイルも実現しないと考えています」
三者三様の視点から、自身にとってのカスタマースマイルを語るALSIの社員たち。彼らの強い思いは、どのようなキャリアから育まれてきたのだろうか。
ものづくり精神が根付いた風土に、“応える”人財が集まる
2021年にALSIへ入社した藤村氏は、前職でも法人営業を担当してきた。自身のキャリアを見直し、新たな環境にゼロからチャレンジしようと、ALSIへの転職を選択したという。
藤村氏「ALSIのルーツは電子部品と車載情報システムを手掛けるアルプスアルパイン(ALSI設立時の名称はアルプス電気)ですが、私が勤めていた以前の会社も同じく製造業を母体としており、そこでエンタープライズ向けのアカウント営業をしていました。30代の半ばでキャリアを見直し転職しましたが、ものづくりの精神が根付いているALSIであれば、前職の経験も生かせるはずだと考えたんです」
IT業界でキャリアを築いた藤村氏にとって、入社後のALSIはどのように映ったのだろうか。
藤村氏「何より優しい人が多いという印象でした。また、開発部門には、もの静かで職人かたぎな人が多いのも特徴だと思います。そうした実直な姿勢が、パーパスの“応えるチカラ”という言葉に表れているのでしょう。私自身としては営業担当なので、いい意味で騒ぎ立て、現場のコミュニケーションを活性化させるのが役目だと感じています」
新卒入社の新保氏は、大学時代には生物学を専攻。ITに関する知識がほとんどない中で、ALSIを志望したという。
新保氏「細胞の研究室に所属していたのですが、社会に出たら新しいことに挑戦したいと思っていました。授業で触れたプログラミングがきっかけで、IT業界を志望し、企業説明会でALSI社員の話を聞いたことで、生き生きと働く姿勢に引かれていきました。当時話した人事担当者のことはしっかりと覚えていて、ALSIに縁を感じましたね」
営業として活躍する新保氏だが、入社時は技術職を希望していた。自身の適性を見つめ直したきっかけは、3カ月間の新人研修だ。
新保氏「新人研修中に人と接する力を磨きたいと思うようになった私は、配属前の面談で営業部長が語る仕事の醍醐味に共感しました。お客さまに直接サービスを届ける仕事に魅力を感じ、営業としてのキャリアをスタートさせることにしたんです」
知識や経験がゼロの状態からキャリアをスタートできるのは、研修やOJTの体制が充実しているからだろう。山下氏は新保氏のような新人社員とタッグを組み、日々現場を巡ることで、育成にも努めている。
山下氏「会議への同席、製品紹介、議事録作成、クロージングなど、できる仕事から業務の全体像を学んでもらっています。私自身も経験ゼロからキャリアをスタートさせたので、特に知識面のフォローには注意しています。多様化する現代のニーズに応えるためには、多様な人材の活躍が欠かせません。異なるバックグラウンドの出身者も組織に取り入れることで、より強い企業に成長できると考えています」
人財交流で“スマイル”を形作る、ALSI式のチームビルディング
多様な人財はどのようにチームとしてまとめ上げられていくのだろうか。3人の視点から、現場の動きを語ってもらった。
藤村氏「毎日の朝礼の中で、メンバーが一日のプランを共有し、プロジェクトの不明点や未定事項を洗い出すことで、その一つ一つを解消していきます。そうすることで、若手社員の質問の機会にもなるため、OJTという意味でも機能していると思います」
新保氏「ALSIの相談しやすい職場環境は、入社間もない私にとって魅力的でした。いつでも相談できる先輩がいるから、お客さまの課題に対しても胸を張って向き合い、安心して働けるのだと感じます」
藤村氏「ささいなコミュニケーションを大事にするのは、営業部のよいところですよね。普段は案件ごとにチームが分かれているので、直接的に一緒に仕事をするわけではないのですが、ふとした時に話しかける文化がある。他チームの社員でも、名前と担当業務は把握していて、うまく組織が交流しているんです。休暇取得といった働き方関連の調整ごとも、同僚に相談してフォローし合うなど、助け合う雰囲気も強いと思います」
山下氏「部署を超えたコミュニケーションが活発化し、“スマイル”が社内で共有されることで、初めて世の中にも笑顔を届けられるので、人財の交流も大切な要素なんです」
新保氏「お客さまが抱える課題、提供したい価値など、共通のゴールに向かって連携する力は、私も強く感じます。今回パーパスが策定され、部内でも改めて方向性が確認されました。組織力をパーパスが加速することに期待しています」
パーパス策定後、ALSIのソリューションの一つ「ECOASクレームマネジメント」の導入事例動画が公開されている。顧客企業が登場し、自社の課題とソリューションの効果を訴求する内容であり、カスタマースマイルが具現化された一例といえるだろう。この動画の制作を推進したのは藤村氏だ。
藤村氏「インタビュー形式の動画で、クライアントに製品の魅力を語っていただきました。営業担当としての私の対応についても話していただき、改めて自分の存在意義とやりがいも再認識できたと感じます。このような形で社内外のステークホルダーに協力していただき、自社の強みを発信できれば、ALSIのパーパスも自然と広がっていくのではないでしょうか」
エンドユーザーの笑顔を想像し、常にソリューションを改善していく
パーパスが策定された上で、今後3人はどのように活躍していくのか。おのおのが描くビジョンを語ってもらった。
山下氏「お客さまとの信頼構築はもちろんですが、中堅社員として、社内のハブのような機能を果たしていきたいと思います。多様性が重視される中で、従業員の年齢やキャリアの幅も広がり、ライフスタイルにおいてもそれぞれが課題を抱えているはず。上も下も見渡せる自分の立場を生かしながら、組織を良くしていきたいですね」
新保氏「営業担当としては独り立ちしたばかりですが、カスタマースマイルを届けるために一番大切なのは、自分が仕事を楽しむことだと思います。そのためには、取引の向こう側にあるエンドユーザーの視点、実際にソリューションが使用されるシーンを想像する力も必要です。ITや生活者、社会の本当の姿を自分の目で確かめながら、パーパスを実現していきたいと考えています」
藤村氏「ALSIのパーパスは、現場から生まれたボトムアップ型のパーパス。トップの命令ではないので、個々が無意識のうちに体現しているのが、正解なのかもしれません。同時に、自分や会社の存在意義を自問自答し続けることは、顧客のためにも大切です。より多くの人にカスタマースマイルを拡げられるように、ある意味では自然体で、ある意味では努力をしながら、成長を続けていきたいです」
以上、3回の連載にわたり、ALSIのパーパスがどのように策定され、体現されていくのかを追ってきた。時代のキーフレーズとして流行するパーパスだが、掲げて終わっては意味を成さない。本当に重要なのは、従業員一人一人がその本質を理解し、日々の仕事へと落とし込むことで、事業が成長していくことなのだろう。当事者意識を起点にした企業成長の加速において、現場から生まれたパーパスは、大きな効力を持つのかもしれない。
【ALSI パーパス特設サイト】
https://www.alsi.co.jp/lp/purpose/
取材・文:相澤優太
写真:示野友樹