日本におけるヘルスリテラシーの課題 人生100年時代に必要な考え方とは

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人生100年時代。長寿化が進むなか、健康は単に長生きするための手段ではなく、質の高い豊かな人生を送るための必須条件だ。そして今、情報化社会とデジタル技術の進歩が、私たちの健康管理に大きな変革をもたらしている。

しかし、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 メディカル カンパニーが実施した『人生100年時代×デジタル社会の総合的なヘルスリテラシー国際調査』によると、日本はこの変革に対応するための“ヘルスリテラシー”、つまり健康情報を理解し活用する能力が、他国に比べて後れを取っていることが明らかになった。

この記事では、日本が直面するヘルスリテラシーの課題と、それに対処するための方法や考え方について、本調査結果と本調査の監修者である京都大学大学院医学研究科健康情報学の中山建夫教授の話から探っていく。

6カ国中最も低い評価。日本におけるヘルスリテラシーへの課題

調査は、日本・アメリカ・イギリス・オーストラリア・中国・フィンランドの6カ国において、働き世代の20代〜60代の3,000人を対象に行われた。

まず、ヘルスリテラシーの自己評価について。日本は10点満点中5.4点と、他国が7点を超えるなかで最も低いスコアが示された。

ヘルスリテラシーの自己評価

特に情報の取り扱いについての迷いが目立っている。「正しい情報か間違った情報か判断基準がわからない」と回答した人は、他国では1〜2割に留まったのに対して日本は3割以上であった。

医療に関する情報で困っていること

そもそも「健康とは何か?」を考えたことはあるだろうか。

WHO(世界保健機構)では、健康の定義を「病気や不調などを抱えていないこと」ではなく、「肉体的にも精神的にも、そして社会的にもすべてが満たされた状態であること」としている。心身の状態に限らず、社会生活においても“満たされているか”まで考えている人は少ないだろう。実際に、日本ではWHOが定める健康の定義を認識している人の割合も最も少なく、25.2%止まりとなっている。

デジタル時代の健康管理とヘルスコミュニケーションの重要性

近年、スマートデバイスの普及により、健康管理アプリの活用が広まっている。食事や運動、睡眠、女性の生理まで、その内容はさまざまだ。しかし、実際にそうしたデジタルツールを使った健康管理に取り組んでいる人の割合も日本が最も低く、39.2%となっている。最も高い中国では81.0%と、40%以上の差が開いている状況だ。

デジタルツールを使って健康状態を把握している

健康管理のデジタル化やデータ活用が広がることで期待できることの調査では、「病気の早期発見・早期治療」「自分の健康管理」「より適切な治療が受けられる」といった項目への回答割合が高い。しかし、こちらも日本では多くの項目で他国を下回る結果となっている。

一方、健康管理への意識が高いといえる国はフィンランドだ。日本と同様に高齢化が進む同国では、各項目においてデジタル化やデータ活用への期待が高い傾向であると示されている。

「医療現場の負担が軽減される・医療現場の労働生産性が高まる」「予防行動を促進し、国の医療費の最適化につながる」など、自身の健康管理の先にある項目はどの国も高いポイントではない。しかし、電子カルテの導入率がほぼ100%で、健康関連データの一元化が進むフィンランドでは、当該回答を選択した割合が最も高かった。

日常生活での健康管理において、デジタル化やデータ活用が広がることで期待できること

また、日頃の健康管理への意識は、医療機関を受診した際に対峙する医療関係者とのコミュニケーションにも影響すると考えられる。

「受診の際に医療関係者(医師・看護師・薬剤師など)と対話(※)ができるか」を尋ねた項目では、日本は「できる」と答えた割合が4割以下となり、こちらも5割を超える5カ国に比べて最も低い結果となった。自身の治療方針を決定する際に意思を伝えることができるかどうかの割合も、他国はいずれも7割を超えるのに対し、日本は7割以下となっている。

受診の際に医療関係者(医師、看護師、薬剤師など)と対話ができる

健康管理のデジタル化、そしてデジタルツールの活用が個々人のヘルスリテラシーを高めるとともに、その恩恵が日本の医療や社会の未来にどのように生かされていくのかを考えることが必要だろう。

※対話=医療関係者による説明への理解を深めたり、質問や自分の意見を伝えたりすること。

ヘルスリテラシーを高めた健康管理が、人生を豊かにする第一歩

日本のヘルスリテラシーが低い理由には、平均寿命が長く医療水準の高い日本だからこそ、どこか安心している側面があるのかもしれない。しかし、そこに改善の余地があるならば、私たちはさらに健康で豊かな人生を送れる可能性を秘めているといえる。

中山教授はこの一連の調査結果をどのように捉えているのだろうか。

中山教授「デジタルツールを健康管理に活用している人は6カ国中最も少ない結果でしたが、活用している人はその利便性にメリットを感じているようです。『生活や人生における健康の現在地を知る』という観点で、健康診断やがん検診の受診に加えて、まずは身近なデジタルツールを日常の健康管理に取り入れてみることも良いと思います。また、他国ではデジタルツールを『受診時の自身の症状の伝達に生かす』という回答が日本と比較して多く見られ、医師とのコミュニケーションにも活用している点で、総合的なリテラシシーの高さにつながっている様子がうかがえます」

他国ではデジタルツールの活用が予防行動促進による国の医療費の最適化につながると考えている割合も多いといい、日常のその先における有用性も期待できると語る中山教授。また、医療関係者から伝えられた医学知識を「納得・理解できること」は重要だが、さらには「自分の人生において、健康・医療の事象や状態にどう対応していくかを自ら考えていく姿勢」も重要だと訴えた。

最後に中山教授は、「難しい医学情報を極めようとは思わず、『判断できる情報の捉え方』『自分の健康の現在地を知る』『自分がどんな人生を送りたいのか整理する』などを意識してみてください」とコメントを寄せている。

ヘルスリテラシーの向上は、健康寿命の延伸に寄与することだろう。人生100年時代を豊かに暮らすため、そしてサステナビリティが叫ばれる社会を生きるため、まず私たちが活動を持続できる健康を手にする必要がある。

そのためには、中山教授のコメントにあるように、情報の捉え方を学び、自分と向き合うことが重要となる。その第一歩として、身近なデジタルデバイスを活用した健康管理に取り組んでみてはいかがだろうか。

健康管理自体は個々人の取り組みではあるが、社会全体としてヘルスリテラシーの高い文化が醸成されることで、ひいては日本の医療があらゆる側面から最適化され、社会が持続可能なものになることが期待される。

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