リクルーティング/採用分野でも進む生成AI活用、スキルテストの自動化などコスト削減の動きが加速

人材リクルーティング/採用にかかるコスト

生成AIの強みを生かしたアプリケーションがさまざまな領域で活用され始めているが、リクルーティング/採用分野でも生成AIの可能性を模索する動きが拡大している。

背景にはコスト意識やデジタル変革(DX)意識の高まりがある。

テクノロジー人材不足が叫ばれる昨今であるが、求人が埋まらない場合、米国ではその空室となるポジションのコストが1日あたり平均500ドルに上るといわれている。人材が確保できないことで起こる生産性の低下や機会損失などを含むコストだ。空席が長引くと、そのポジションで行われるべきタスクが遅れたり、他の社員にかかる負担の増大などが発生。また、プロジェクト遅延やサービス品質の低下など、直接的・関節的にさまざまな悪影響が生じ、それがコストに転嫁されることになる。

またデロイトの分析によると、米国における1人あたりのリクルーティング/採用コストは、産業別に、銀行・金融サービスで4,232ドル、ビジネスサービス/コンサルティングで4,300ドル、テクノロジーで4,325ドルかかることが明らかになった。

多くの企業では、テクノロジーを活用しこのようなリクルーティング/採用にかかるコストを削減しようという機運が高まっているのだ。

たとえば、マイクロソフト傘下のビジネスSNSリンクトインは、生成AIを活用したリクルーター/採用者向けの機能を同プラットフォーム上で提供する計画を明らかにしている。リンクトインは、10億人近いユーザーベースを有する巨大なプラットフォームで、海外ではリクルーティング/採用活動、ヘッドハンティングなどで頻繁に利用されている。しかしその巨大さゆえ、採用担当者の人材検索プロセスも広範なものとなり、負担増の問題を招いている。

そこでリンクトインは「リンクトイン・リクルーター2024」と呼ばれる仕組みを導入することを発表した。これは生成AIを活用することによって、同プラットフォームの膨大なデータから、採用担当者が自然言語で適切な人材をフィルタリングできるようにする機能。これまでの検索プロセスを大幅に短縮できる可能性に期待が集まっている。

生成AI × リクルーティングで注目されるスタートアップ

「生成AI × リクルーティング」領域では、リンクトインのような大手プラットフォームだけでなく、スタートアップの取り組みも活発化している。

注目株の1つは、2021年に創業したばかりのロサンゼルス発Micro1だ。

同社はもともと受託開発ビジネスを生業としてきたスタートアップだが、その知見を生かしたテック人材リクルーティングに特化した生成AIプラットフォームをリリースしたことで、投資家の関心を集めている。

同プラットフォームは、テック人材の採用にかかるプロセスの大半を自動化しつつ、ハイスキル人材のみを抽出することを売りとしている。想定されるユーザーは、上記のようにテック人材が不足している企業だ。

ユーザー企業は、同プラットフォームを介してグローバルなテック人材プールにアクセスすることができる。その際、すでに登録・評価されている人材を選び、その上で自社でカスタマイズしたテストやインタビューを行うことが可能となる。スキルが保証された人材プールにアクセスできることになり、検索プロセスを大幅に短縮することができる。

注目したいのは、30人ほどの小規模チームであるMicro1がどのようにグローバル労働市場からハイスキル人材のみを抽出できるのかという点だろう。

テック人材の採用プロセスでは通常、プロジェクトで使うプログラミング言語をどれほど理解しているのかを測るコーディングテストが実施される。しかし、テスト内容やその結果を解釈できる人材が必要であり、プロセス自体も煩雑になりやすく、リクルーティングコストの増大要因となっている。

Micro1は生成AIを活用することによって、まずプラットフォーム上で応募者の履歴書スクリーニングを行う。同社によると現在、世界中のテック人材による登録応募が1日200件発生しているという。

履歴書スクリーニングの後に実施されるのが、コーディングテストだ。このテストでは同社が開発した「gpt-vetting」と呼ばれる仕組みにより、自動で出題され、その回答が評価される。テストは各プログラミング言語の理論問題とコーディング問題で構成されている。理論テストではOpenAIの音声認識AI「Whisper」が活用されており、受験者は口頭で回答することが求められる。その際の音声は、不正防止分析にかけられ、最終的にテスト結果の「信頼度(trust score)」として算出されることになる。

Micro1プラットフォーム上で実施されるコーディングテスト
Micro1ウェブサイトより

コーディングテストが終了すると、Micro1の担当者による受験者インタビューが実施される。1〜2回のテクニカルスキルに関するインタビュー、そしてソフトスキルインタビューという流れだ。インタビュー内容は、AIによる分析にかけられ評価される。

AIによる自動化だけでなく人間によるインタビューも交え、世界各地から高度スキルを持つテック人材を抽出し、その人脈を自社のアセットとして構築している点がMicro1の大きな強みだ。この点に注目する投資家は多く、最近同社が実施した資金調達ラウンドでは、目標調達額を大きく超える額を獲得している。

Micro1によると、同社はプレシードラウンドで200万ドルの調達を予定していたが、投資家からの申し込みが予定を超え、調達額は当初予定を130万ドル超える330万ドルになったという。これにより同社の評価額は3,000万ドルに増加した。

SAPも採用プラットフォームに生成AI導入

このほかにも「生成AI × リクルーティング」分野では、SAPが同社の人材採用管理ソリューションである「SAP SuccessFactors Recruiting」に生成AIを活用した新機能を導入するなどの取り組みも始まっている。

生成AIを活用した新機能の1つは、職務内容を説明するジョブディスクリプションの自動作成機能。この機能を使うことで、採用担当者は、求人要件や職務プロファイルに基づくジョブディスクリプションを素早くカスタマイズ・作成できるようになる。ジョブディスクリプションは、候補者を魅了するための重要な要素。生成AIによってカスタマイズすることで、その魅力を高めることが可能となる。

もう1つの新機能は、ジョブディスクリプションに基づくインタビュー質問の生成機能だ。インタビューにおける的確な質問をジョブディスクリプションの詳細情報から生成することで、インタビュー準備時間を短縮しつつ、効果的なインタビューを行うことができるようになる。

企業のビジネス機能のうち、2023年はマーケティング分野での生成AI活用が急速に拡大した年となった。2024年は、これに続きリクルーティング/採用分野における生成AI活用が増える見込みだ。

文:細谷元(Livit

モバイルバージョンを終了