社内で使うSaaSアプリが多すぎる問題と「ツール疲れ」
デジタルトランスフォーメーションの進展に伴い、生産性向上を謳うさまざまなデジタルツールが企業内で導入されている。
思惑通り生産性が向上するケースもあるが、一方でデジタルツール過多によって生産性が低下するリスクがあることも認知されつつあり、デジタルツール管理の重要性にも関心が集まっている。
デジタルツールの中でも特に利用が急増しているのが、SaaS(Software as a Service)アプリケーションだ。代表的なSaaSアプリとしては、セールスフォースやSlack、Google Workspaceなどが挙げられる。アクセスの容易さ、スケーラビリティ、またニッチなニーズ対応などの優位性から、企業内では部署ごとにもさまざまなSaaSアプリが導入されている。
2015年頃、企業内で利用されるSaaSアプリの数はそれほど多くはなかったものの、リモートワークが増えた2020年から急増、現在どれほどのSaaSアプリが利用されているのか、企業内でも把握するのも難しくなっているとのが現状だ。
BetterCloudの調査によると、企業で利用されているSaaSアプリの平均数は2015年に8個、2016年に12個、2017年に16個とゆっくりしたペースでの増加していた。しかしリモートワークが始まった2020年、SaaSアプリの数は80個に急拡大、その後も拡大の勢いを維持し、2021年には110個、2022年には130個に達したことが判明した。
企業内で100以上のSaaSアプリが利用されているという驚きの数字であるが、企業におけるビジネス機能の多様化の加え、各ビジネス機能に対応するSaaSアプリが多数登場していることを鑑みると、ある程度納得させられるものがある。
たとえば、顧客管理(CRM)としては、セールスフォースのほかHubSpotやZohoなどの選択肢がある。プロジェクト管理ではClickUp、Trello、Asana、コミュニケーション/コラボレーションではSlack、マイクロソフトTeams、Zoom、マーケティングではMarketo、Mailchimp、人事管理ではBombooHR、Workday、財務管理/会計ではQuickbooks、Xero、FreshBooks、ドキュメント管理ではGoogle Workspaceやマイクロソフト・オフィス365、ドロップボックス、ITサービス管理ではServiceNow、Zendesk、サイバーセキュリティ/コンプライアンスではMcAfee、Oktaなど枚挙にいとまがない。
このほか企業内では、各社で定められた正式なプロセスを踏まず社員/部署が各々導入する「シャドウIT」ツールが多数存在することも明らかになっており、それらを含めるとSaaSアプリは200〜300に上るとの推計もある。
Productivが調査したところでは、企業で利用されているSaaSアプリの平均数は2021年254個、2022年には前年比24%増の315個に拡大したことが分かった。この調査では、同じ企業の中でも部署ごとに同じようなSaaSアプリを個別に導入するなど、連携の欠如やそれに伴うコストの増加が観察されたという。
生産性アップのツールで生産性低下につながるリスク
生産性を高めることを目的に導入するSaaSアプリだが、これが過剰になると、生産性低下を招く可能性があり、最適化の視点が求められる。
コーネル大学のEllis Idea Labが実施した調査によると、企業における社員はクラウドストレージ内の検索やメッセージアプリの検索などにより、1日あたり平均59分を無駄にしていることが分かった。またこの調査では、43%がさまざまなアプリケーションの行き来に時間を浪費していると回答、45%が生産性が下がったと回答したことが報告された。さらに、アプリケーションが多すぎるため、何が起こっているのか社内の最新情報をキャッチアップできないとの回答も48%に上った。
たとえば、社内でコミュニケーション/コラボレーションツールとして、Slack、マイクロソフトTeams、Zoomを使っていたとすると、どのスレッドに、誰がどのメッセージを残したのか、それを検索するだけでも多くの時間を要することになる。プロジェクト管理でも、部署・チームにごとに、異なるプロジェクト管理ツールを使用している場合、すべてのツールの仕様に慣れていないと、混乱や間違いのもととなり、生産性は大きく下がってしまうことになる。
生成AIで解決目指す動きも
SaaSアプリの急増に伴いSaaSアプリを管理するためのツールに対する関心も高まりつつある。そんな中、生成AIを活用したソリューションを開発しているとして注目を集めているのが、Y Combinatorが支援するスタートアップGoLinksだ。このほど、企業の内部データやツール間における検索の効率化を目指すAI搭載の検索エンジン「GoSearch」を発表、昨今のSaaSアプリ過多のよる生産性低下の問題に取り組み姿勢を明らかにした。
もともと同社は、独自の検索アルゴリズムに定評のあったスタートアップ。GoSearchは、生成AIを統合し、検索機能を大幅に向上させたプロダクトとなる。企業内のデータ検索に関して、従来の検索ツールが関連性や機密性に関わらず、すべてのデータをインデックス化するのに対し、GoSearchは、全社員が利用可能なドキュメントのみをインデックス化するより繊細なアプローチをとっている。これにより、アクセシビリティを維持しつつ、セキュリティ/プライバシーを強化することが可能となる。
生成AIによる拡張機能としては、ユーザーがドキュメントを検索した際、その意図を理解し、必要に応じてコンテンツを要約したり、関連する情報を追加したりする機能が追加された。またセールスフォースやGoogle Workspaceなどの主要SaaSを含む100以上のデータソースのインデックスが可能で、目的の情報を探すために、何度も異なるツールを行き来することも必要なくなるという。
直近のアップデートとして、OpenAIの最新モデルGPT4-Turbo-Visionを活用したマルチモーダルな検索機能も追加されている。マルチモーダルな検索とは、テキストだけではなく、写真、スクリーンショット、メモ、URLなどさまざまなソースを検索入力として利用できる仕組みのこと。さまざまなユースケースが想定できるが、たとえば、製品開発チームが新しい製品のプロトタイプを作成し、その画像を入力情報としてGoSearchにアップロードすると、以前の類似プロジェクトを参照し、関連する市場調査レポート、競合他社分析、顧客フィードバック情報を提供するなどが考えられる。
DXに伴うアプリ過多/情報過多問題への関心の高まりとともに、GoSearchのようなAIベースの検索ソリューションが今後さらに増えてくることが見込まれる。
文:細谷元(Livit)