気候変動への対応としてサステナビリティや脱炭素が叫ばれるようになるにつれ、環境への配慮をアピールする商品やサービスが増えた。日本でも、「サステナブル」や「環境に優しい」「ゼロカーボン」などの枕詞のついた商品や広告を目にしない日はない。しかし今、このように環境への配慮を宣伝する広告表現が、消費者を誤解させるグリーンウォッシュにつながるとして、規制をかける動きが起こっている。
2024年1月に欧州議会で正式な合意に至った新規制は、その動きを反映したものだ。これにより、EU域内で商品を提供する企業は、2026年から以下の3つを行えなくなる。
1.正式な証明書をつけずに、製品を「環境に良い」と主張すること
2.製品を「環境に良い」と主張する根拠として、カーボン・オフセットを用いること
3.公共の機関から発行されているものや、EU域内で承認された証明スキームに基づいているもの以外のサステナビリティ・ラベルを用いること
「『環境に良い』と主張すること」とは、製品の広告において、「エコフレンドリー(eco-friendly)」「生分解可能(biodegradable)」「気候中立(climate neutral)」「気候ポジティブ(climate positive)」といった言葉を使うことを意味する。2026年から、一般的に使われてきたこれらの言葉を使うためには、特定の証明書の提出が必要となる。
さらに、上記のような言葉を使う際に、カーボンクレジットを購入することでCO2排出をオフセットする、カーボン・オフセットを根拠として用いることも禁止される。イギリスでは同様の事例に対する取り締まりの強化を2023年後半から開始しているが、EU全体での規制が敷かれるようになることは、大きな変化だと言えるのではないだろうか。
この新規制の背景には、カーボン・オフセットの透明性や、その気候変動抑制への効果に対する強い懸念がある。
2023年1月、業界最大手である米の民間カーボンクレジット認証企業「Verra(ベラ)」の認証する森林クレジットの約90%が、実際にはCO2の削減につながっていないとする調査結果がイギリスの大手メディアGuardianから発表された。Verraは炭素吸収量の算出方法の違いなどを理由に調査結果を強く否定しているが、これをきっかけにカーボン・クレジットに対する大きな議論が巻き起こることとなった。
仮に特定のカーボンクレジットが気候変動の抑制に寄与していないのであれば、そのクレジットを購入することで「エコ」と宣伝していた商品やサービスも、実際には全く「エコ」ではなくなる。むしろ、エコやグリーンといった「環境に良さそうな」ラベルがついていることが、環境意識の高い消費者を商品の購入へと誘導し、モノやサービスの消費の正当化につなげている、と欧州議会は指摘する。
このほか、新規制には製品の耐久性に関するものも含まれる。具体的には、製品の寿命を短くする可能性のある設計の特徴を持つ製品を広告することや、製品の使用期間や通常の使用環境における強度に関して根拠のない耐久性を主張すること、また実際には修理できない製品を修理できるように見せかけて宣伝することなどが禁止される。
こういった規制が敷かれ、これまで行われてきた見せかけの環境対策が通用しなくなると、気候変動対策の動きが強まるだろう。一方、規制が厳しくなることで環境対策を諦める企業も見られる。グリーンウォッシングだと批判されることを恐れて自社の環境への取り組みの詳細を公表しないグリーンハッシングにつながっていく懸念もあるため、そのバランスをどうとっていくのかが課題になりそうだ。
また、カーボン・オフセットについては、気候変動の抑制に寄与していないものや保全する森林の地元コミュニティでの人権問題など課題も多い一方、これまで資金が流れにくかった環境保全プログラムに経済価値を付与した意義は大きい。実際にオフセットプログラムが森林減少の抑制や生物多様性の保全につながっている事例も存在する。クレジット市場全体に対して透明性の確保などが強く求められているのは事実だが、民間クレジットに関する共通の基準を設定していくなど、今後はその質を高めて運用していくことになるだろう。
企業としては、まずは自社でのCO2排出削減に努め、それでも削減できなかった排出量はできる限り信頼性の高いクレジットを用いてオフセットすること、また今回のEUの新規制が求めているように、消費者に対して真摯に製品を販売していく姿勢が求められるだろう。消費者としては、「環境に優しい」と広告されている商品だからといって安心せず、必要なものを必要な分だけ買ったり、買う際はその商品について調べたりするなど、本質的な持続可能性につながる行動を意識していきたい。
【参照サイト】Stopping greenwashing: how the EU regulates green claims
【参照サイト】EU bans ‘misleading’ environmental claims that rely on offsetting
【参照サイト】Revealed: more than 90% of rainforest carbon offsets by biggest certifier are worthless, analysis shows
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(元記事はこちら)IDEAS FOR GOOD:EU、根拠のない「エコ広告」規制を再強化。その背景とは