2022年に設立されたAIスタートアップPerplexityが大手検索エンジンに対抗するための「AI回答エンジン」開発を加速させている。このほどシリーズBの投資ラウンドで7,360万ドル(約107億円)を調達し、評価額は5億ドル(約725億円)、これまで合計で1億ドル以上を調達したことが話題になった。Perplexityはこの資金をAIベースの検索エンジン構築に投資し、GoogleやMicrosoftなどの大手と対抗する構えだ。

出資メンバーとPerplexityのバックグラウンド

今回の資金調達は出資者の顔触れにも注目が集まった。Amazon創設者のジェフ・ベゾス氏をはじめ、旧XのVPイラッド・ギル氏や旧GitHubのCEOナット・フリードマン氏、ShopifyのCEOトビ・ルーク氏、Vercelの創設者ギレルム・ローチ氏など、そうそうたるメンバー。この情報だけでも市場に与える影響の大きさは計り知れず、AI市場の景観は2024年にさらに大きく変わるだろうという声が上がるのも納得がいく。

では、創業1年あまりのPerplexityとはどのような会社なのか。

共同創業者でありCEOのスリニバス氏は、DeepMindとGoogleでインターン経験後、AIリサーチャーとしてOpenAIで勤務。同じく共同創業者のヤラツ氏はQuoraで機械学習のエンジニアの後、MetaでのAIリサーチャーサイエンティストとして勤務。同ホー氏はQuoraでのエンジニアの後、ウォールストリートでクオンツとなり、同コンウィンスキー氏はDatabricksの創業チームの一員と、メンバーはバックエンドシステムやAI、機械学習を背景としたエンジニアの集団。スタートアップは2022年の創業だ。

Perplexityの特徴

CEOのアラビンド・スリニバス氏がインタビューで言及するように、PerplexityはAIを活用した対話型の「回答エンジン」であって、検索エンジンではないという大前提がある。これは、ユーザーが自然言語で質問を投げかけるとAIがネット上の情報を収集し、回答を提供するものだ。

例えば、「大阪からハワイ旅行へ行くのにベストな時期はいつ?」と聞くと「航空運賃が比較的安く、現地でのアクティビティも豊富な冬、それも1月がおすすめ」という回答が提示され、回答と共に根拠としたウェブサイトがソースとして表示される。さらに、この回答には「何曜日に渡航するかも大事な要素。例えば火曜日発、火曜日着が最も航空券が安い傾向がある」といったような「聞いていない」情報も組み込まれている。

こうした、質問者の意図を読んでいるかのような「一歩先を行く」回答を生成するのも他の検索エンジンと一線を画する点だ。

Perplexityの優位性

また質問を継続し、深掘りすることもPerplexityの得意分野。先の質問に「大阪からハワイ、東京からハワイ、どちらが便利?」と続けると、これまでの内容に沿ったより詳細な回答が提示されるほか、「足腰の悪い高齢者がハワイを楽しむ方法は?」などといった大雑把な質問を投げかけても、数秒できめ細やかな複数の回答が表示される。

ただ、これだけでは同様にAIベースのChatGPTやBing Chatとさほど変わりがないのでは、と思われるだろう。ただPerplexityは、パフォーマンスレベル、なかでも正確性で優位だとしており、ハルシネーションや回答の創作が問題となっている既存のAIとの差別化を主張している。

CEOのスリニバス氏は「引用することで正確で関連性の高い情報を提供する、これまでにない回答エンジン」だとプレスリリースで言及。世界で最も透明性の高い情報サービスを構築し、一般ユーザーの知識と生産性を高めることがミッションだとしている。

既存の検索エンジンでは、ユーザーの知りたいこと(検索結果)はおびただしい数のウェブサイトの羅列で提供され、しかもそのほとんどが広告やSEOによって操作されている順番で表示される情報だ。さらにユーザー自身がそこから情報を精査して回答を探し出さなければならず、間違った答えへと導かれることも少なくない。その問題を解決すべくPerplexityを立ち上げたとしている。

Perplexityに資金調達をし、取締役会に加わったNEAのゼネラルパートナー、ピーター・ソンシーニ氏は「ノイズから真実を探し出すことはすでに気の遠くなるような作業。そこへ登場した生成AIのとてつもない可能性には、新たな課題が多く伴っている」と述べ、これから飛躍的にAI生成のコンテンツが増加する見通しの中で、これまでになく「量よりも質」が求められると言う。その上で、1年もかからずに透明で信頼のおける、非常にシンプルなサービスを開発し、今後も成長を続けるPerplexityとのパートナーシップを称賛している。

GoogleとMicrosoftへのチャレンジ

GoogleとMicrosoftが長年席巻してきた検索エンジンの領域に、対抗馬となる可能性を秘めたPerplexityは、ユーザーにより良いAI体験を提供することで両社と争えると確信している

PerplexityはシリーズAの投資ラウンドで得た資金で、Copilotを発表している。オリジナルのPerplexityよりもインタラクティブで、カスタマイズされた回答をし、多岐にわたる引用ソースを用いた包括的な体験ができる、これまでにないAIのリサーチアシスタントが「シンプルな質問により深い知識や情報を提供する」というものだ。

同社のデモ版では「京都への旅行計画を手伝って」という質問を基に、Copilotが「質問を理解」するまでの数秒の待機の後、ユーザーに「旅行に出かけるのはいつですか?」と逆に質問を投げかけてくる。あえて月を指定せずに「桜の季節」と回答すると、Copilotがその意味を理解し、桜の季節という条件を踏まえた検索をした後、京都の人気観光地をリストアップし、「興味がある場所をお選びください」とさらに要求してくる。ここまでに、広告が表示されることもウェブサイトのリンクが長々とリストアップされることもなく、各ステップ数秒で処理されていく。

最終的に回答が提示される際にも「桜の時期に京都へ旅行したいあなたへの回答」として、ユーザーの質問から理解したことを要約している。また、回答が意図しないものであった場合は、「やり直し」ボタンをクリックすれば「予算はいくらですか?」などといった別の質問を投げかけてくる。別のアングルから最初の質問を理解し直して、別の回答を生み出す仕組みで、旅行代理店のカウンターさながらの対応力を見せているのがこのCopilotだ。

2024年の市場予想

ヨーロッパのテクノロジーの専門オンラインジャーナル「Tech.eu」は今年初め、2024年の予測を発表している。AIが身近な存在となる象徴的な2023年が終わり、新たな幕開けとして2024年には何が期待されるだろうか。

北欧最大のプライベートラボSilo AIのCEOピーター・サルリン氏は「ChatGPTが遂げた大躍進は科学ではなくユーザーエクスペリエンスだ。だが同時に、目を見張るような投資の波を引き起こした」と2023年を振り返っている。その投資のほとんどが「エンジニアリング」に対する投資で、2024年もこの傾向が続くと予想している。

またTech.euは、AIモデルのトレーニングの費用と、インフラやハードウェアの不足が主な問題になるとも指摘。「データは新たな石油」と称されるように、トレーニング用のデータは開発に欠かせない存在であり、ウクライナのディープテック、Zibra AIのCEOアレックス・ペトレンコ氏は「十分なデータを持ち合わせていない企業が、リリース可能なソフトウェアを展開するには、データを所有している企業とのコラボでワーキングモデルを開発し、有料でリリースするしかない」と指摘しているのも興味深い。

Perplexityには、広範なテキストやコードデータセットでトレーニングされた大規模言語モデルが使われているため、さまざまな質問により的確で感覚的な回答が生成される。同社のAIはディープラーニングのアルゴリズムを基に構築されており、絶えず進化し正確性を改善していることや、同社のAIが人間の言葉のニュアンスを理解すること、さらにリアルタイムに最新のトレンドやインサイトをアップデートし続けているために精度が高いとしている。

Perplexityの広告表示と商業化は始まるのか?

このように、GoogleやBingといった検索エンジンだけでなく、ChatGPTやBardとも一線を画すPerplexityが、名だたる投資家を魅了し巨額の資金を集め注目を集めた今回の投資ラウンド。

BloombergでのインタビューでCEOのスリニバス氏は、調達した資金を「広告」にも利用するかと問われ「支出の大半は技術開発になる。これまでもユーザーはソーシャルメディアでの紹介や、口コミ、既存のユーザーへの紹介といった形で有機的に(広告なしで)増やしてきた経緯がある」と述べ、広告支出への言及を明言しなかった。Perplexityの月間アクティブユーザー数は1,000万人とされ、2023年10月の時点で4,035万の訪問数を記録するなど、急成長を遂げている。

なお同じインタビューで、商業化についての質問には「成長と共に収益化することは可能だが、ユーザー数を増やすこと。これは弊社の投資家も同じ考えだ」と述べている。

Perplexityは、基本的に利用料無料(Pro版やCopilotの無制限使用は有料)、アプリをインストールする必要もなくすぐに利用でき、広告が表示されることも、回答が広告に左右されることが無いのも魅力の一つではあるが、持続可能性を鑑みて遅かれ早かれ「商業化」される日が来るのだろうと、薄々感じずにはいられない。

AI市場への影響

より精度が高く、人間に近い回答エンジンを開発したいとするエンジニア集団が立ち上げたスタートアップ。Perplexityの革新的なエンジンの開発が、巨額の投資によって加速することは明らかだ。

スリニバス氏もまたブログで「私たちのテクノロジーだけでなく、それを人々がどう利用するか(が重要)。現在、人々がオンライン情報にアクセスする方法が大きく転換する曲がり角にある」とした上で、「最速で、最も精度が高いプラットフォームの構築を続けることによって、地球をよりスマートにする」ことが同社の壮大なミッションだと言及。

一流の投資家や技術者、それに同社に信頼を寄せている何百万ものユーザーに敬意を表しつつ、同社の創設者集団は商業化よりも精度のアップやより人間らしい対話を目指していることがうかがい知れる。

Perplexityの技術革新が加速すれば、今年中にもAI検索市場に大きな影響を与えるであろう。GoogleとMicrosoftの牙城に迫るべくスタートアップに投資した投資家たちは、まずは市場の混乱、そしてゆくゆくは収益化、そして市場でのトップの座を奪うことを狙っているだろう。

このAIの時代に、Perplexityが巨額な資金を得てどのような動きを見せるのか、非常に興味深い。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit