廃棄物の選別作業にAIロボが活躍? 人手不足や業務効率化で環境問題の解決へ

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環境問題・リサイクルを考える上で、真っ先に頭に浮かぶものと言えば、地球温暖化や海洋プラスチックの問題だろう。日本の平均気温は年々上昇傾向で、「プラスチックが地球に悪い」としてエコが盛んに叫ばれている。そんな中、個人でできることは限られており、すぐにできることで言えば、ガソリン車からEVに乗り換えたり電車に乗ったりする、使うプラスチックを減らす、ごみの分別を行うなどが挙げられる。

生活や事業を行う上で排出されるゴミの中には、プラスチックや金属などリサイクルできるものも多く混入しており、これらをうまくリサイクルできれば、焼却処分や最終処分場行きのごみを減らすことができる。廃棄物業界は、環境問題を解決する上で非常に重要な役割を担っていると言って過言ではないだろう。

そうした廃棄物業界では現在、AI・IoTの活用が注目されている。深刻な人手不足や業務効率化の一助になることが期待されているのだ。

今回の記事では、その中でも「廃棄物の収集・運搬の最適化」、「選別・リサイクルの高度化」にテーマを絞り、実際に導入している企業の事例について紹介する。

AIを使った独自の配車アルゴリズムを開発。ルート算出まで5分程度に短縮

一般・産業廃棄物の収集・運搬では、従来の配車業務に課題が存在していた。受注情報をもとに担当者の経験や勘に基づき配車ルートなどを決定するため、業務が属人化してしまっているのだ。また、経験や勘に基づいており、そのルートが果たして一番効率的であるか正解も分からない。

さらに、既存の配車システムでは、顧客の回収時間指定などの制約条件に対応したルート算出ができない、ルートを算出する計算時間が長く、リアルタイムの状況把握・処理ができないといった課題があった。

出典:「産業廃棄物処理におけるAI・IoT等の導入事例集」(環境省)
https://www.env.go.jp/content/900535534.pdf

そうした課題を解決するため、「AI・IoTを活用した収集運搬車の自動配車システム」に取り組んでいるのが、大栄環境(神戸市)だ。同社は、廃棄物の収集運搬、中間処理、最終処分まで一気通貫でサービスを提供。ほかにも、土壌浄化、廃棄物処理コンサル、廃棄物バイオマス発電、森林保全まで環境に関わる様々な事業を展開している。

このシステムの開発に携わったのは、グループ会社のイーアイアイ。実証フィールドで使用している車両を対象に、様々な制約条件を加味した最適な配車ルートの算出を可能にする独自の配車アルゴリズムを搭載した自動配車システムを開発している。

様々な制約条件というのは、物流業界全体に言える「乗務員の作業時間」、「顧客への訪問時間指定」はもちろん、静脈物流特有の条件である、「コンテナやドライバーの指定」、「積載容積上限を加味したルート」、「現場作業時間」、「ドライバーの運行エリア設定」、「車種ごとの制約」などのきめ細かい条件のことだ。このシステムでは、それらの条件を加味したルート算出ができるという。

実際に開発された配車アルゴリズムでは、最適なルートを自動的に算出することに成功した。現在、ベテラン配車スタッフでさえも、1日のタスクを処理する配車ルートを作成するのに、1車種あたり数時間を有する。今回開発されたシステムを活用すれば、配車ルート算出まで計算時間を5分程度に短縮することができたという。これにより属人的だった従来の配車業務よりも大幅な時間短縮が可能になったのだ。

また、算出されたルートは、人の手による配車に比べ、走行時間を約2.5~6.6%削減。この結果、前日配車だけでなく当日の状況に合わせて、都度配車処理を行う運用も可能になったという。

このシステムが実装されれば、配車業務の時間短縮による業務効率化、人件費などの削減によるコスト削減、ドライバーの残業抑制などにつながる。また、CO₂排出量も配車計画業務の熟練者が行った場合と比べて約5%削減できた。

この事業は2019年度~21年度まで環境省事業として、開発・実証実験を行っており、現在は実装・外販に向けて取り組みを続けているようだ。

廃棄物選別の難しさ。リサイクル率を上げるには高度な選別能力が必要

次に紹介するのは「選別・リサイクルの高度化」についてだ。廃棄物処理の工程でいえば、収集・運搬してきた後に行う中間処理のことだ。ここの工程でいかに金属やプラなどを含め種類ごとに選別できるかで、その後のマテリアルリサイクル率の向上につながったり、最終処分場へ持ち込むゴミの量を削減できたりする。

こうした選別作業には、すでにさまざまな機械が活用されている。大きなものを細かく砕く破砕機・粉砕機、混合廃棄物を重量物、軽量物、細粒物に分ける振動選別、鉄を回収する磁選機、アルミや銅・黄銅などを回収する非鉄選別機、紙切れ・ビニールなどの軽量物を排除する風力選別機などがある。中間処理業者は、これらの破砕機や選別機を自社の取扱い品目に沿った形で工場内に設置し、独自の選別ラインを構築している。

ただ、これらの機器に性能の差はあるが、完璧なものはない。例えば、金属であればプラスチックとくっついていて判別できなかったり、色選別できる機器を使っても、錆びて色が変わった金属を誤って別の場所に回収したりというリスクもある。そのため、様々な選別機を通過した後に処理しきれていない品目が数多く残ってしまう。特に、金属などは高価に売買することができるため、取り切れなければその分が売上マイナスに直結する。そこで、大規模な業者であっても選別ラインの中に従業員を配置し、手選別をすることが多い。

出典:「建設混合廃棄物処理の効率化に向けた AI・ロボティクス導入の検討」
(東京都環境局)https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/resource/recycle/various3Rroutes.files/R3report_EII.pdf

ただ、この手選別はかなりの熟練技術が必要となる。例えば、建築物を解体・工事した際に発生する建設混合物であれば、引火性や有害物のあるものを含め、大きさ、多様な形状、がれき、金属スクラップ、木くず、廃プラ、紙くず、複合建材、表面に土砂が付着したものなど多岐にわたる。それらを一定時間で流れてくるラインに合わせ、目視でそれぞれの場所に選別することは、スクラップの知識はもちろん、勘と経験が非常に重要となる。同じ作業量でも、ベテランと新人では選別した品質(正確に選別できたか、間違い・金属の取りこぼしの少なさなど)に違いがあるだろう。

また、少子高齢化の影響で労働人材不足が叫ばれている中、人材確保はより深刻な問題だ。その結果、作業員は高齢化したり、外国人人材を雇用したりするケースも多いだろう。こうした人材不足の問題を解決し、手選別に変わる存在として昨今注目されているのがAI選別ロボットだ。

続々と導入されるAI選別ロボット、手選別の負担を軽減することに成功

「ゼンロボティックス社のAI選別ロボット」(参照:サナースプレスリリース

産業廃棄物処理業を行うシタラ興産(埼玉・深谷市)は2016年に、アジアで初めてゼンロボティックス社のAI選別ロボットを導入した。さまざまな選別機とAI選別ロボットを併用したラインにより、リサイクル率は90%を実現。このロボットによる選別は人の手に比べ数倍のスピードを誇り、手選別の作業員を減らすことに成功した。

まずAIに、あらかじめ数種類の形や色などの性質をセンシングさせる。可視光カメラや近赤外線、カメラ、金属センサ、レーザースキャナーなどを活用して、ベルトコンベアから流れてくる廃棄物の情報をリアルタイムで取得。そして、事前に学習させたデータと照合し、座標でその対象物を読み取り、ロボットアームが種類ごとにピックしていく。重なっていたり間違ってしまったりした時は、エンジニアがその都度センシングし、AIを学習させることでさらに選別精度を向上させている。

また、同社のAIロボット選別機の導入に関しては、業務効率化やコスト削減のほかに業界のイメージアップの狙いもあったという。

AIロボット選別機「URANOS」 出典:ウエノテックス(https://www.uenotex.co.jp/blog/product1/3804/

ほかに、産業廃棄物処理業を行う石坂グループ(熊本市)は、破砕機メーカーのウエノテックスとともに2016年からAI選別ロボットの開発に着手。4年間の開発期間を経て、AIロボット選別機「URANOS」を同社の工場に導入した。主にペットボトルの選別ラインで活用しているという。

近赤外線センサや画像によって得られた情報をもとに、AIで素材や形状を判断し、垂直多関節ロボットとパラレルリンクロボットというそれぞれのアームで選別を行う。PETボトルであれば、年間4,000-5,000トンの処理が可能だという。

AI選別ロボットの導入後、作業員の省人化や処理産物の品質向上、ロボットを使うことによる労働災害リスクの低減などを実現できたとのことだ。

環境ビジネスの大規模展示会である「2023NEW環境展」(2023年5月24~26日、東京ビッグサイトで開催)でも、展示の目玉としてAI選別機ロボットがずらりと並んだ。開発するメーカーも増えているため、今後は大規模な業者を中心にさらに導入が加速していくことが予測される。

“AI”に使われるのではなく、あくまで“人”が使うという意識が重要

今回、廃棄物の収集・運搬、中間処理におけるAI・IoT機器の導入事例を紹介してきた。地球上の限られた資源をリサイクルし、最終処分場行きや焼却処分するごみの量を削減することは環境問題を考える上で重要なことだということは考えるまでもないだろう。一方で、日本では超高齢化社会に突入していくに従い、働き手は減少の一途をたどる。人材不足が深刻な廃棄物業界において、AI/IoTの導入はメリットが多いだろう。

ただ、勘違いしないでおきたいのは、AIを導入するからと言って人の手が必要なくなることはないということだ。AI配車システムであっても、そのシステムを扱う人が必要で、選別作業も全てAIに任せるのではなく数人の作業員は残しているだろう。また、AIのセンシングを考えると、エンジニアを外部から呼ぶか、自社内で育てるなどIT人材を育成しなくてはならないといった課題も発生してくる。

AIに使われるのではなく、こちらが「使ってやる」という気概を持って有効活用していくことが重要ではないだろうか。

<参考資料>

https://www.env.go.jp/earth/ondanka/cpttv_funds/pdf/db/247.pdf
https://eii-net.co.jp/images/jaem_ads.pdf
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/resource/recycle/various3Rroutes.files/R3report_EII.pdf
https://www.env.go.jp/content/900535534.pdf
https://axia-japan.com/wp-content/uploads/2021/11/01%E3%82%BC%E3%83%B3%E3%83%AD%E3%83%9C.pdf
https://www.shitara-kousan-group.co.jp/about/efforts/
https://www.saitama-j.or.jp/links/search.php?t=1&v=2&p=21
https://www.n-expo.jp/past/n-expo2023/images/2023_NewsRelease.pdf

文・太田祐一

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