GAFAMに続くIBM、生成AIに焦点当てた5億ドルのベンチャーファンド設立 法人向けAIテックへの投資を加速

IBM、5億ドルのAIベンチャーファンド設立

マイクロソフト、グーグル、アマゾンによる巨額のスタートアップ投資が続く生成AI領域だが、GAFAM以外のテクノロジー大手も投資を拡大中だ。

IBMは2023年11月7日、エンタープライズ向けAIテクノロジーに特化したベンチャーファンド「IBM Enterprise AI Venture Fund」の設立を発表。特に生成AI領域に焦点を当て、アーリーステージからハイパーグロースまで幅広いスタートアップに計5億ドルを投じる計画だ。

IBMの生成AIスタートアップ投資は、2023年下半期から活発化していたが、このベンチャーファンド設立によりさらに加速することが見込まれる。

同社は2023年8月、生成AI領域における注目スタートアップの1つHugging FaceのシリーズDラウンドに参加。同ラウンドは、IBMだけでなく、グーグル、アマゾン、NVIDIA、インテル、AMD、セールスフォースなどの大手企業が多数参加し、計2億3,400万ドルが投じられたメガラウンドとなったことで大きな注目を浴びた。このラウンドでHugging Faceの評価額は45億ドルに拡大したと報じられている。

Hugging FaceはAI版GitHubとも呼ばれるプラットフォームで、生成AIなどのAIモデルを幅広く提供。同プラットフォームは、特に企業のAIアプリケーション開発や研究開発で活用されている。ChatGPTを開発したOpenAIのGPT‐2やGPT‐3、またメタが提供するオープンソースの大規模言語モデル「Llama」シリーズなどを含め、現在40万を超えるAIモデルが保存されており、ライセンス条件に沿った形で利用することが可能だ。

このHugging Faceへの投資に続き、IBMは9月にも別のAI関連スタートアップHiddenLayerのシリーズA調達ラウンドに参加している。同ラウンドはマイクロソフト傘下のベンチャーキャピタルM12とMoore Strategicがリードしたもので、IBMのほかBooz Allen HamilitonやCapital Oneなどが加わり、計5000万ドルが投じられた。

HiddenLayerは、2022年3月に設立された新しい企業で、機械学習や生成AIモデルのトレーニングに使われるデータセットを保護したり、安全性を確保するソリューションを開発している。

昨今、生成AIの利用が増えているが、生成AIを含む機械学習モデルの開発では、モデルのトレーニングにデータセットが用いられる。サイバー攻撃の一種に、このデータセットに対し偽情報や誤ったデータを挿入するものがあり、攻撃を受けると誤った情報をもとにした予測やテキストを生成するリスクが高まる。

また、データセットへのノイズ挿入やバイアスデータの挿入などの攻撃も起こり得るといわれており、対策が急務となっている。HiddenLayerのソリューションは、AIモデルの挙動を監視し、異常なパターンやサイバー攻撃の兆候を検出し、それに応じた対策を講じることが可能という。

GAFAMの生成AI投資動向、数十億ドルの投資続々

5億ドルのベンチャーファンド設立により、生成AIスタートアップへの投資を加速するIBMだが、GAFAM企業による生成AI投資も活発化しており、同領域における投資は今後さらに拡大する公算が高まっている。

直近のGAFAMよる生成AI投資の事例としては、アマゾンによるAnthropicへの40億ドル投資が挙げられる。

2023年9月末、アマゾンはOpenAIの競合企業Anthropicに最大で40億ドルを投じ、少数株を取得することを明らかにした。この投資によりアマゾンはAnthropicとの提携関係を強化。同社のクラウドサービスであるAWSの生成AIサービスを拡充する方針だ。

報道によると、この40億ドルは転換社債の形で投じられることになる。40億ドルのうちまず12億5,000万ドルが投じられ、2024年に残りの27億5,000万ドルが投じられる見込みであるという。

Anthropicは、OpenAIの元幹部らが立ち上げたスタートアップ。OpenAIの主力対抗馬と目されており、同社が開発する生成AIモデル「Claude」は、OpenAIのGPTモデルに比べ遥かに多いデータを処理できるとして多くのユーザーを魅了している。

Anthropicに注目するのはアマゾンだけではない。アマゾンがAnthropicへの40億ドル投資を発表したわずか1カ月後には、グーグルがAnthropicに20億ドルを追加投資することが明らかになった。

2023年初頭、グーグルはすでにAnthropicに5億5,000万ドルを投資、この時点でAnthropic株10%を取得していたと報じられている。今回これに加え20億ドルを追加投資する格好となる。この投資もアマゾンと同様に転換社債の形で実施されるもので、グーグルはまず5億ドルを投じ、将来的にさらに15億ドルを追加する予定だ。

Anthropicは、投資家との交渉において200億〜300億ドルの評価額を提示していたとされるが、一部の投資家らは高すぎると評価しており、現在のところ同社の評価額は50億ドルほどと推定されている。

またグーグルは2023年8月末に、イスラエルのAIスタートアップAI21が計1億5,500万ドルを調達したシリーズCラウンドに参加したほか、グーグルのAI研究者らが立ち上げた生成AI企業Cohereへの投資/提携を行うなど、手広く投資活動を進めている。

一方、メタは「Llama2」などオープンソースモデルの開発に注力、アップルは生成AIプロダクトの開発に10億ドルを投じるなど、GAFAM企業は総じて生成AIの投資・取り組みを拡大中だ。

生成AI分野のベンチャー投資動向

スタートアップアナリティクス企業dealroomの分析で、2023年は生成AI投資が爆発的に拡大した年であることが明らかになった。

生成AIスタートアップへの投資額は、2021年に36億ドル、2022年に39億ドルと過去2年は特に大きな動きもなく推移してきたが、2023年には前年の4倍以上となる178億ドルに急騰したのだ。このデータは2023年9月19日までのものであり、上記のアマゾンによるAnthropicへの40億ドル投資やグーグルによる20億ドル投資などは含まれておらず、これらを含めるとさらに大きな成長になる。

この生成AI投資の成長をけん引したのは、やはりOpenAIやAnthropicなどの大規模言語モデル開発企業への投資だ。dealroomの分析によると、生成AIスタートアップ投資全体のうち、71%が大規模言語モデル開発企業への投資であった。OpenAIやAnthropicのほかにも、Adept AIやInflection AIなどにも投資資金が集まっている。

大規模言語モデル開発企業に続き、投資額が多かったのは、生成AIアプリケーション企業だ。投資全体のうち、17%が投じられた。このカテゴリでは、ライティング生成のJasper、またその競合となるTypefaceが評価額で先行する。また画像・動画分野では、Stability AIやRunwayなどが注目される存在となっている。

今後は大規模言語モデルを活用し、各産業や職種に特化した生成AIアプリケーションを開発する動きが活発化すると予想されている。それに伴い生成AIアプリケーション企業への投資も拡大する見込みだ。

文:細谷元(Livit

モバイルバージョンを終了