2024年、企業におけるAI普及を促す安全性の枠組み
2024年のテクノロジートレンドに関する予想がさまざまな組織・企業から発表されている。その中でも特に注目されるのは、テクノロジーのハイプ・サイクル理論で知られるガートナーの予測だ。ガートナーは最新発表で2024年のテクノロジートレンドとして、10のトピックを挙げている。
やはり2024年もAI関連のトピックが大半を占めるが、サステナビリティやサイバーセキュリティ分野でも注目されるテクノロジートレンドが生まれる見込みだ。
AI関連で特にガートナーが注目しているのは「AI TRiSM」トレンドだ。
AI TRiSMとは、AIのtrust(信頼)、risk(リスク)、security management(セキュリティ・マネジメント)に関するフレームワークで、企業がAIを活用する際に検討すべき項目を指し示すガイドラインとなる。
このAI TRiSMフレームワークは、「説明可能性/モデル監視」「ModelOps」「AIアプリケーションセキュリティ」「プライバシー」4つの柱で構成される。
「説明可能性/モデル監視」は、AIモデルがどのようにして特定の結果や予測に至ったのかを理解し、説明する能力のこと。AIの決定プロセスを透明化し、ユーザーやステークホルダーの理解を高めることを目的とする。モデル監視とは、AIモデルが本番環境で予測通りに機能し、予期せぬ事態やパフォーマンスの低下が発生しないように監視するプロセス。モデルの精度、パフォーマンスの変化、入力データの変化などを定期的にチェックすることなどが含まれる。
「ModelOps」は、ソフトウェア開発におけるDevOpsに似たコンセプトで、AIモデルの運用において、AIがコンプライアンスを遵守し、倫理的・公正な状態を保てるようにするためのリスク管理プロセスのこと。
「AIアプリケーションセキュリティ」は文字通り、AIアプリケーションにおけるセキュリティ保護に関するコンセプト。サードパーティが提供するAIアプリケーションを利用する際、不正アクセスやサイバー攻撃のリスクを念頭に、データの暗号化およびサイバー攻撃対策、セキュリティ脆弱性に対する継続的な認識と修正を促すもの。
最後の「プライバシー」は、AIシステムが個人データを収集・使用する際のプライバシー保護に重点を置くコンセプト。データの匿名化、個人情報の取り扱いに関するポリシー遵守、GDPRを含むデータ保護法規の準拠などが含まれる。
2023年は、ChatGPTに端を発する生成AIトレンドが起こり、多くの企業で生成AI活用への関心が高まった。しかし、セキュリティ/コンプライアンスの観点から、本格利用を足踏みするケースも少なくなかった。ガートナーは、2026年にはAI TRiSMフレームワークを組み込むことで、生成AIの活用・導入が50%増加する可能性があると予想している。
このほか2024年のAI関連トレンドとしては、AIをソフトウェア開発プロセスに統合するAI-Augmented Development、生成AIのより広範な利用を促進するDemocratise Generative AI、そして独自の意思決定機能を持つ機械やAIが顧客として行動するMachine Customersなどが注目される。
サステナブル・テクノロジー、先端技術を活用しESGを促進
ガートナーは2024年のテックトレンドの1つとして「サステナブル・テクノロジー」を挙げている。
これまでCSRの範疇にとどまってきた企業のサステナビリティの取り組みだが、2027年には、最高情報責任者(CIO)の25%が自身の評価軸にサステナブル・テクノロジーの影響を組み込むことが予想されており、2024年からこの動きが活発化する可能性があるという。対象となるテクノロジーには、クラウドやAIが含まれる。これに伴いサステナブル・テクノロジー分野ではいくつかの領域でESG目標推進の機会が拡大すると予想されている。
1つは、社内のITオペレーションだ。企業はソフトウェア、ハードウェア、ベンダーを選ぶ際の採用基準にサステナビリティを組み込むことで、間接的な排出(スコープ2やスコープ3)抑制を目指すことが可能となる。たとえば、より効率的かつバランス良くエネルギー分散されたデータセンターへの移行やサステナブルなデータセンター運用を可能にする管理ソフトウェアの利用などが挙げられる。
2つ目は、最新テクノロジー活用による事業運営を通じたESG推進の可能性だ。たとえば、自動化技術を活用することで、資源を大量に使う事業活動を減らしエネルギー消費を抑制することができる。またAIを活用することで、ビジネスにおける環境インパクトを予想するなども可能だ。さらにクラウド活用によるリモートワーク促進もこの範疇に入る。
AI活用拡大で温室効果ガスの削減も
サステナブル・テクノロジーはガートナーだけでなく、AIに注力するマイクロソフトも大きな関心を示す領域。マイクロソフトがPwCに委託した調査レポートでは、AIが環境にどのような影響を及ぼすのかが分析された。
農業、水、エネルギー、交通の4セクターを対象に実施されたこの調査では、AIを活用することで、2030年までに温室効果ガスを4%削減できる可能性が示された。これは二酸化炭素当量2.4ギガトンで、2030年時点のオーストラリア、カナダ、日本の年間排出量を合わせた量に匹敵する。
また、これら4セクターにおけるAI活用の推進は、生産性の大幅向上を実現、2030年には5兆2,000億ドルの経済価値を生み出し、3,820万人の純新規雇用を創出すると予想されている。
サステナブル分野におけるAI活用事例として、たとえば、コンピュータビジョンを用いた水漏れ検知システムが挙げられる。世界的にみると、ビルにおける水利用では平均して25〜30%の水が無駄に排出されており、ビル一棟あたり年間3万〜4万ドルの無駄なコストが発生しているといわれる。たとえば、老朽化したトイレでの水漏れなどが主な要因となっている。コンピュータビジョンを用い水漏れを防ぐだけでも、水資源の節約効果は計り知れない。
温室効果ガス発生の要因になるだけでなく農業にも多大な影響を及ぼす山火事においても、AIで防ぐ取り組みが進められている。ドイツではDryad Networksという企業がAIを活用した検知システムを森林の木々に設置し、山火事の発生を早期に検知する取り組みを進行中だ。
文:細谷元(Livit)