2023年6月、LGBT理解増進法(LGBT法案)が可決された。性的指向およびジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別があってはならないとするもので、多様性に寛容な社会の実現に資することが目的だ。今、LGBTQ+を取り巻く問題は議論の俎上(そじょう)に載せられている。

こうしたなか、2023年7月26日に自身がゲイであることをカミングアウトしたアーティストがいる。AAAのメンバーであり、現在アメリカ・ロサンゼルスを拠点に活動する與真司郎さんだ。ファンの前でカミングアウトした勇気ある姿は、日本のみならず海外からも大きな反響を呼んでいる。

今回は、日々の暮らしのなかにあるサステナビリティを紹介する特集「サステナブック」特別編として、與さんが登場。「ロサンゼルスの友人に出会えたことでオープンマインドになれた」と語る與さんが、自分らしく生きるために必要な考え方を紹介。

また、どのような思いでカミングアウトへと至ったのか、カミングアウトから3カ月(取材時)を経た今何を思うのか。帰国中の與さんに、誰もが生きやすい世の中になるためのヒントを聞いた。

【プロフィール】
與真司郎さん
1988年11月26日生まれ、京都府出身。2005年に日本の男女混合のパフォーマンスグループ、AAA(トリプル・エー)のメンバーとしてデビュー。現在は日本とLAを拠点に活動中。

完全燃焼で方向を見失った2カ月間

——カミングアウトから3カ月が経ちましたが、今どんなことを感じていますか?

カミングアウトしてからの2カ月間は、「本当にこれで良かったのか?」「ファンを傷つけたのではないか?」と考えてフワフワした気持ちでいました。ずっと自分の殻を破りたかったので完全燃焼した感じもあり、「結局自分は何をしたいの?」と、実は方向を見失っていたんです。

でも自分らしく生きたかったですし、本当の姿をわかったうえで応援してくれる人がいたら嬉しいので、今はカミングアウトして良かったと思っています。僕の性格や職業柄、ずっと隠すことはできないと感じていましたし、良いパートナーに出会えたらいつかは結婚もしたいと思っているので。オープンにしたことで気持ちが楽にはなりましたね。

カミングアウトしてすぐにロサンゼルスに戻ってしまったので、日本での反応を正面から受け止めていなかったのですが、こうして日本で取材を受けたりテレビに出たりするなかで、みなさんが意外と“普通”に接してくれるのが本当に嬉しいです。

與真司郎さん

同時にこれが“普通”になるといいな、学校や職場などいろんなところでLGBTQ+の方々がもっと生きやすくなるといいなと思います。

僕が物心ついた時は、今みたいにスマホでセクシャリティについて調べられたわけでもありませんし、LGBTQ+という言葉自体もなかったです。「男同士の恋愛は気持ちが悪い」と笑いのネタにされてしまう時代に育ちました。でも今は、一昔に比べ情報も手に入りやすいですし、LGBTQ+の当事者の方が様々な分野で活躍されているので、今悩んでいる若い世代の当事者の方も「自分は一人じゃない」と感じやすい世の中になってきていると思います。

——ファンの前でカミングアウトする姿に感銘を受けて、新たにファンになられた方もいらっしゃるのではないですか?

そうですね。カミングアウトをきっかけにファンになってくれた方もいます。それと同時に去ってしまった方もいますが、それは仕方のないことだと思っています。僕を異性愛者として見て憧れてくれていたわけですから、その人たちのことを責めたくはありません。でもいつか「また真ちゃんのライブ行こうかな」と思ってくれる日が来たら嬉しいですね。

——ご家族も心配されたと思うのですが、今はどんな反応を示されていますか?

「受け入れてくれる人が多くて良かったやん!」とホッとしてくれています。家族にすら打ち明けづらいなとずっと思っていましたけど、ていねいに説明したら理解してくれました。

僕ら当事者は、LGBTQ+のことをわからない人がいることを理解しないといけないと思っています。「なぜわかってくれないの?」と怒らずに、理解してもらうためにきちんと説明をする必要がありますよね。例えば「好きな人を好きだと言えない環境だったらどう? それが僕たちの人生なんです」と。

100点の人生。本当の自分を解放してくれたロサンゼルス

——カミングアウトに至るまで葛藤があったかと思いますが、ご自身の背中を押したものは何でしたか?

ロサンゼルスの友人が「絶対いける、頑張れ!」「救われる人がたくさんいると思うよ」と言ってくれたことが大きかったです。

ロサンゼルスでは、最初の1〜2年は現地で信頼できる友人を探すのに必死でした。自分の感覚と合う友人が見つかってからは、さらにその友人も僕を受け入れてくれて、どんどんオープンになっていった気がします。彼らに出会えていなかったら今の自分はなかったでしょうね。

——ロサンゼルスはLGBTQ+の方々に寛容なカルチャーがあると思いますが、それが移住の決め手になったのでしょうか?

そうですね。20代の前半、街中でキスをするゲイのカップルを見て「生きる道がある!」と思えたのがロサンゼルスだったんです。いつかここに住まないと自分の人生は明るくならないと思っていました。正直、セクシャリティに悩んでいなかったら日本での活動にもっと打ち込みたかったという気持ちもあります。

でも、ゲイだからこそアメリカ行きを決め、英語を話せるようになり、いろんなカルチャーを知ることができてオープンマインドになれた。自分が苦しんだ分、人の痛みがわかるようになった。キャリアを見ればもっと頑張れる隙間はあったかもしれないけれど、人生において僕自身は充実していると思えています。

——ロサンゼルスではなぜLGBTQ+に対して寛容なカルチャーが築かれているのだと思いますか?

エンターテインメント界でカミングアウトしている大物がたくさんいますし、アップル社のティム・クックをはじめビジネス界の人もオープンにしているのが大きいと思います。政界にもいますよね。いろんな業界で影響力のある方々が勇気を振り絞って声を上げてくれたおかげだと思います。

僕がカミングアウトしたことで、隠している方々に「オープンにしないとダメなの?」と思わせたとしたら申し訳ないですが、その人たちが将来自信を持って暮らせるように、いずれ日本もオープンな空気になることを望んでいます。

苦しんでいる当事者はあなたの周りにも必ずいる

——これまで日本ではLGBTQ+の方々とオープンに話す機会はなかったのですか?

ゲイであることをオープンにしているスタッフもいましたが、僕はバレるのが怖かったのでその方にも言えませんでした。

「周りに当事者がいません」と言われることが多いのですが、カミングアウトできない世の中だから見えていないだけで、誰にも言えずに苦しんでいる人がいます。ストレートの方々がそのことを少し意識してくれるだけでも、僕たちは救われます。

具体的な例を挙げると、同性愛者の映画を観たときに「気持ち悪かった」と言われてしまっては、当事者からすると「この人には打ち明けることができないな」と心を閉ざしてしまいます。でも性的指向によって人をジャッジしない感想が聞けたら、当事者は「この人なら話しても大丈夫かも」と思える瞬間があるかもしれません。こうした瞬間が増えればカミングアウトしやすくなるし、いずれはカミングアウトというカタチを取らなくても大丈夫な社会になるんじゃないかな。

LGBTQ+は、左利きやAB型と同じくらいの割合でいるといわれています。だからいるのが普通なんです! いつか「與真司郎のカミングアウトは大げさだったよね」と笑い話になる日がくるといいですね。

トライ&エラーを繰り返して見つける自分らしさ

——世の中には「自分らしく」という言葉が溢れていますが、自分らしさって何だろう?と悩んでいる方もいると思います。どのような状態であることが自分らしくあることだと考えますか?

自分の気持ちに正直でいること。今はSNSが盛んで便利ですけど、要らない情報まで入ってきてしまいますよね。人と比べてしまって自分を見失うことが多い時代です。だからこそ、何をしたら自分が幸せなのかを常に追い求める。僕もいまだに「自分は何をしたいの?」と立ち止まることがあります。そういうときは、運動をしてみたりメディテーションしてみたりして、いったん頭をクリアにする。それを繰り返しています。

あとは、興味のあることにトライすればいいと思います。自分の軸を持つためには、まず挑戦してみないとわからないですから。これは人に対しても同じで、誰といたら幸せなのか、誰といると成長できるのか。それを追い求めることも必要です。

100人いて99人が自分と違う方向を見ていても、自分が指を差す方へと進む——。今改めてその気持ちが大切だと気づきました。人の意見に耳を傾けながらも、最終決断を下すのは自分なんです。カミングアウトしてからは特にそう思います。

——今年は独立もされたようですし、変化の大きな年ですね。

そうなんです。今慣れている環境を変えて、ゼロからスタートするのは大変ですし、歳を重ねるほど怖さも増してきます。でも自分が動かないと何も変わらないので再スタートを切りました。

僕の場合AAAのメンバーもいるので、当時はメンバーの姿を見て自分の方向を定めていたこともあったんです。でも今はそれぞれやっていることが違うので「自分らしく生きていこう!」と心が軽くなりました。

自分の気持ちに正直に、何をしたら幸せだと思えるのか、誰といたら心地よく過ごせるのか。常にそれらを選択の軸にする。もし間違った選択をしてしまっても、失敗から学べることはたくさんありますからね。トライ&エラーを繰り返すなかで自分らしさを見つけられるのだと思います。

自分らしく生きるため、メンタルヘルスもオープンにしたい

——最近は「多様性」も社会のキーワードになっています。多様な生き方を尊重する社会にしていくには何が必要だと思いますか?

人を自分の尺度でジャッジしないこと。ロサンゼルスに住んで思うのは、日本人は本当に優しくて人のことを考えて行動できる人が多いですよね。その反面、人の目を気にしすぎてしまう人も多い。でも、たとえジャッジされても「何か問題でも?」と言えるくらいの気持ちでいることも大切だと思います。

SNS時代、芸能人でなくとも人からジャッジされてしまう場面があるので、自分をしっかり持っていないと簡単に精神を病んでしまう世の中ですよね。だからこそ、メンタルヘルスに関してはもっとオープンに話せる環境になることを望んでいます。

アメリカではセラピストやカウンセラーに相談するのが当たり前です。調子が悪いときはもちろん、調子が良いときも話しに行きます。僕も何回か受けたことがあるけれど、話した後はスッキリします。セラピーやカウンセリングに関して、日本はまだオープンではない気がしますが、「セルフケアできていいね」くらいの感覚になれば素敵ですよね。

——オンラインサロン『You Only Live Once』の開設おめでとうございます! どのような思いで立ち上げられたのですか?

僕はロサンゼルスの地で助けられたので、カミングアウトする前から何か悩みを抱えた人の助けになりたいと考えてきました。ただ、カミングアウトした時はすべてが終わってしまう可能性もあったので、こうした取り組みができるとは想像もしていなかったです。

オンラインサロンには「LGBTQ+」や「メンタルヘルス」などのトピックがあるのですが、みんなが相談し合っている素晴らしいコミュニティになっています。僕もおもしろい動画を上げたり心に響くような名言をシェアしてみたり、少しでも前向きになれるコンテンツを考えているところで。「嫌なことがあってもここに来ると安心できる」とか「ひとりぼっちじゃない」とか、そう思ってもらえる場所にしたいです。

——最後に、與真司郎としてどんな人生を歩みたいかお聞かせください。

今まで葛藤してきたので、自分らしく楽しんで生きることが一番です。自分が悩んできた分、人には同じような思いをしてほしくはないので、僕の存在によって一人でも多くの人が救われれば嬉しく思います。

歌も何を歌えばいいのか悩んでいましたが、今は見えてきたものもあります。歌だけじゃなくトークでも人を勇気づけられるかもしれないので、カタチにはこだわりません。今までは「AAAだからこうしないといけない」と自分でリミットを設けていました。でも今は「自分が好きなことをやって、それを受け入れてくれる人がいたら嬉しい」という感覚で歩んでいます。

まずは自分が前を向いて人生を楽しまないと、応援してくれる人に伝わってしまいますからね。みなさんも、自分らしく生きてください!

取材日:2023年11月2日