生成AI訴訟めぐる最新動向、カリフォルニアでは原告の主張が棄却

2022年11月末に登場したChatGPTによって、世界中で生成AIトレンドが巻き起こった。

一過性のブームで終わるのではないかとの意見もあったようだが、現在のところ、そのような兆候は確認されていない。

むしろ、生成AI利用はコンシューマー領域にとどまらず、エンタープライズ領域にも拡大しており、社会経済のさまざまなシーンで本格的に活用され始めている。

短期間で驚異的な進化を遂げ、社会経済に浸透する生成AIだが、米国では著作権をめぐる訴訟が増えており、判決次第では、イノベーションに負の影響が出る可能性が高まっている。このため、生成AIと著作権をめぐる訴訟動向は、世界中で注目されるトピックとなっている。

2023年10月末の報道は、AI企業、投資家、メディアの大きな関心を呼んだ。

米カリフォルニア連邦地方裁判所の裁判官は10月30日、画像生成AIツールを開発するStabilty AI、Midjourney、DeviantArtに対して提起されている集団訴訟における原告側の主張の大部分を棄却したのだ。

論点は多岐に及ぶが、今後の生成AIの行方を考察する上で非常に重要な示唆も多く残しており、注目される動きとなっている。

画像生成AIツールをめぐる集団訴訟の論点

この提起されている集団訴訟は、イラストアーティストであるサラ・アンダーセン氏、ケリー・マッケルナン氏、カーラ・オルティス氏らを原告とし、Stabilty AI、Midjourney、DeviantArtの3社を、著作権など複数の権利侵害の疑いで訴えるもの。

Stabilty AI、Midjourney、DeviantArtの3社は、ユーザーがプロンプトを入力すると、そのプロンプトに従い画像を生成するAIツールを開発・提供している生成AI企業だ。

原告らは、自身が制作したイラストのデータが承諾なしにウェブスクレイピングされ、AIのトレーニングに使用され、著作権が侵害されたと主張していた。

原告らの主張範囲は、1998年に改正された著作権法である「Digital Millennium Copyright Act」や「肖像権」、また「不正競争防止法」などに及んだが、焦点は「著作権」に絞られる形となった。

著作権に関する論点は、大きく6つほどあったが、そのほとんどが主張の根拠が不十分であるとして棄却されたのだ。

1つ目は、米国著作権局(Copyright Office)に登録されていない著作物に関して、著作者が著作権侵害を訴えることができるのかという点だ。

この点に関してAI企業各社は、マッケルナン氏とオルティス氏らが著作権局に著作物を登録しておらず、この2人の主張は棄却されるべきと申し立てていた。また、アンダーセン氏に関しても、著作権局に登録している作品数は16件にとどまり、同氏の著作権主張範囲は制限されるべきと主張していた。

結論として裁判所は、マッケルナン氏とオルティス氏らの著作権主張に関して、「DISMISSED WITH PREJUIDICE」との言葉とともに棄却する格好となった。DISMISSED WITH PREJUIDICEとは、この棄却決定は確定したものとなり、これ以上、原告側は訴えることができないことを意味する。

また、アンダーセン氏側も、AI企業の主張に対し反論しておらず、裁判所はAI企業の主張である、同氏の著作権主張範囲は制限されるべきとの申し立てを受け入れた。

必然的に論点は、このアンダーセン氏が著作権局に登録した16件の著作物に対する権利侵害の可能性に移行することになる。

今後議論される争点、トレーニング時の著作権侵害の有無

主張の大部分が棄却されたが、棄却されなかったものの中には、核心部分ともいえる主張があり、この主張に関して、今後どのような展開となるのかに注目が集まる。

その主張とは、Stabilty AIが直接的に著作権を侵害した疑惑(Direct Infringement Allegations Against Stabilty)だ。

原告らの主張によると、Stabilty AIは、画像生成AIツールStable Diffusionを開発する際、AIのトレーニング用に、大量の画像データからなるデータセットを構築。この過程で、Stabilty AIは承諾なしにウェブサイトから著作物をダウンロードし、Stable Diffusionにそれらの画像が圧縮されたコピーデータを保存しており、これが直接的な著作権侵害にあたると、原告らは主張している。

Stabilty AIは、この主張に対して棄却の申し立てを行ったが、これが認められなかった格好となる。

今後、Stable Diffusionのトレーニング中や実行中に、著作権法違反となるコピーが行われるのかどうかが争点の1つになると予想される。

一方今回の発表では、生成AIツールが生成した画像が著作権侵害にあたるかどうかという点に関して、裁判官から重要な発言があった点にも注目が集まる。

ロイター通信が報じたところでは、裁判官は、AIツールが生成した画像が原告らの著作権を侵害していない可能性が高いというAI企業3社による申し立てに。原告らには主張を修正する機会が与えられたものの、その生成物が原告らの作品に酷似していることを証明しない限り、AIツールの生成物が著作権侵害にあたるという原告らの主張が認められる可能性は低いという。

原告らは、棄却された主張であっても、修正可能とされたものに関しては、30日以内に再度申し立てを行うことができる。

現在米国では、生成AIに関する複数の問題が浮上している。著作権に関しては、生成AIツールが生成した作品の著作権は誰に帰属するのかという問題が挙げられるが、この点に関して現在、米国司法は、生成プロセスに人間が介在しない場合、著作権は誰にも帰属しないとの立場をとっている。

専門家らが指摘するもう1つ重要な問題は、上記でも議論の対象となっているトレーニング時における著作権侵害の有無だ。今後は、トレーニングデータに「Fair Use(公正利用)」が適用されるのかどうかが争点になるといわれている。

文:細谷元(Livit