給与計算や勤怠管理、年末調整など、企業においてなくてはならない仕事の一つが人事労務だ。近年では働き方改革の推進やそれにともなう業務オペレーションの見直しに対応するため、労務管理の重要性はさらに高まり続けている。
社会の変化に合わせて重要性は増す一方、多くの企業では労務担当者の人手不足に悩まされているのが現実だ。実際、人事労務ソフトなどを開発するfreeeによると、中小企業では2名以下で労務管理を行っているケースが多く、実際に半数以上の労務担当者が「人手不足」を感じているという調査結果もあるようだ。さらに労務担当者は従業員の育休や産休取得時における社会保険・雇用保険手続きなど、休業にともなう労務管理を多く担う一方で、自分自身は人手不足のためになかなか休めない現状もあるという。
こうした現状を、スポット社労士くん 社会保険労務士法人 関根光氏は「労務担当者の人手不足は経営リスクにつながる」と警鐘を鳴らしつつ、その打開策として「アウトソース」が今後一般的になると話す。
今回、こうした人事労務の実態や人手不足が招く企業の経営リスクに触れながら、「アウトソース」の価値について、関根氏、freee 人事労務アウトソース事業部長 塚本 洋敬氏と考えていく。
経営リスクに直結する「人事労務」。今、見直すべき企業の人材配置
2014年に政府によって「働き方改革の実現」が掲げられて以降、働き方の多様化に対応するための労務管理が求められてきた。今後、人材の価値を最大限に引き出す「人的資本経営」の運用が必要とされるなか、従業員が働きやすい環境をつくるためにも労務管理の重要性は増していくと予想される。
しかし、freeeが行った調査によると、日本企業全体の99%を占めると言われる中小企業において「労務管理を重要な業務と認識している割合」が5割を下回っている。
関根氏「採用戦略などを担う人事については、経営者もその価値を重く捉えていると思います。一方で労務と言うと、入退社手続き・給与計算・年末調整など、いわゆるノンコア業務(利益に直結しない補助的な業務)のイメージが強く、どうしてもやって当たり前に思われてしまうのです。そうなると、中小企業などの規模感では労務業務をほかの担当者が兼務する体制が常態化しており、専任担当者を設けるほど重要性を認識されていないというのが現状です」
また、冒頭で述べたように、調査によると中小企業の労務担当者の半数以上(54.8%)が「人手不足」と感じており、その専門スキルを持った人材が少ないことも課題のようだ。
関根氏「私どものクライアント企業を含め、周囲を見ていても労務担当者の人手不足を感じています。人材会社から『本格的に労務担当者を育成して送り込みたいけど、何か良いアイデアないですか』という相談を受けることもありました」
こうした労務担当者の人手不足は、経営上のリスクにつながると関根氏は指摘する。
関根氏「労務業務では、1つのミスが大きな影響を及ぼすことがあります。例えば給与計算をミスすれば、従業員から信頼を失うかもしれません。未払い賃金が発生していれば、労働基準監督署の調査によって高額な支払いを命じられる可能性もあります。例えば、その事実が社外に漏れれば、会社のイメージダウンにもつながるでしょう。また、こうした責任が数少ない労務担当者に集中しているのは企業全体にとっても相当なリスクです。とはいえ、中小企業で専任の担当者を置くと、業務の属人化を招きます。そうなると、担当者が休職したり退職したりした場合、会社に業務を引き継ぐことが出来る人材がいなくなるため、経営リスクをもたらします。つまり、労務担当者が専任でいることも、見方を変えれば経営リスクになりうるのです」
「アウトソース」という選択肢で変える、人事労務戦略
人事・労務担当者の人手不足や属人化を解消し、経営リスクを回避する方法の一つが、アウトソースを活用することだ。実際、人手不足を背景に、労務管理をアウトソーシングして効率的に管理する企業は増えている。矢野経済研究所のレポートによると、2021年度の人事・総務関連業務アウトソーシング市場は、前年度比6.7%増、2022年度は前年度比6.0%増が予測されている。
関根氏「近い未来、少子高齢化でさらに人材が少なくなるなか、労務担当者の確保も難しくなっていくでしょう。そのため、アウトソースしたり、freee人事労務ソフトのようなクラウドを導入して社内で一部の業務を自動化したりするケースは一般的になると思います。また、アウトソースや自動化によって『ミスが許されない』というストレスを軽減してあげることは、担当者自身の働き方改革にもつながっていくと考えています」
自社で完結する以外の選択肢を持つことで企業のリスクを回避し、より業務の効率化を図っていくことは経営としても良いことかもしれない。しかし、これまでのノンコア業務を外部に委託するとなると、社内の労務担当者はどのような役割を担っていくべきか、課題も浮かび上がる。アウトソースと社内の労務担当者は今後どのように共存していけば良いのだろうか。
関根氏「空いた時間を使い、社内の労務担当者には人事制度の見直しやメンタルヘルスケアまで着手する役割が求められるでしょうね。つまり、労務管理ではなく、より従業員の働きやすい環境をつくるための取り組みに注力すべきだと考えています。現在は、freeeのような人事労務ソフトを導入することで、元々知識がない人でも労務業務ができる時代になってきています。だからこそ、理念や想いに共感してくれる人を採用し、労務担当者の視点で従業員のケアや制度づくりまで担える人を育成することが大事ですよね」
freeeの塚本氏も次のように補足する。
塚本氏「freeeを導入しているお客様のなかにも、本当は制度設計側に異動させたいがために、通常の業務はアウトソースを活用するという声を聞きます」
freeeが提供する「アウトソース」で、社内外に労務体制を構築
freeeでは人事労務ソフトに限らず、『freee人事労務アウトソース』というBPOサービスを新たに提供している。これは労務担当者に代わって、労務のノンコア業務をfreeeが引き受けるサービスだ。同サービスならではの特徴について、これから3つ紹介していく。
①タスク/コミュニケーション機能で進捗状況がわかる
freee人事労務アウトソースには3つの特徴があり、1つはタスクコミュニケーション機能だ。
通常、入社手続きなどで必要な各種保険の加入や雇用契約書の用意といった業務は、作業が多岐にわたるため煩雑になりやすい。社内担当者とアウトソース先、どちらのタスクなのか、またどこで止まっているのかもわかりにくい。ただ、freee人事労務アウトソースを使えば、例えば入社手続きの完了まで10のステップがあるとき、現在は5のステップまで進捗しているという状況が可視化され、社内担当者もアウトソース先も常に現状を共有できる状態になる。そのため、Aさんの入社手続きをしているとき、現在はどのステータスなのか、それを社内、アウトソース先のどちらが対応するのかが一目でわかる。
また、タスクの中で従業員に修正を依頼する際はfreeeと従業員で直接コミュニケーションを取る。担当者を経由せずに手続きが進んでいくため、担当者のストレス軽減につながる。
②最新の従業員データを社内外で簡単に共有できる
2つ目の特徴が、最新の従業員データを社内外で簡単に共有できる点だ。
freeeのボード上で手続きされた情報は、基盤となるfreee人事労務に蓄積されていくため、社内担当者もアウトソース先も、1つのシステム上で常に最新の従業員データを見たりダウンロードしたりできる。膨大な情報が整備された状態に保たれることで、メールなどで逐一、従業員データをやり取りする手間も発生しない。
③アウトソースと内製化、2つの選択肢を柔軟に使い分けられる
そして同社サービスにしかなしえないという3つ目の特徴が、企業の状況に応じてアウトソースと内製化を柔軟に切り替えられる点だ。
通常、人が辞めたというケースでアウトソースを利用することが多い。一方で、新たに人事・労務担当者を確保できるケースもある。この場合、多くは人が採用できたとしても、アウトソースもお願いし続けるというねじれ構造が起きてしまう。そうなると、アウトソース先が行った手続きを、社内担当者が二重チェックするという、これまでなかった工数が発生することもある。ただ、freee人事労務アウトソースではクラウド上にアウトソースした情報が蓄積されるため、労務担当者を採用できた場合でも、アウトソース部分だけを解約してもらい、内製化に切り替えるなど業務体制に合わせて柔軟に適応させることが可能だ。
実際に、アウトソースにより人事労務が抱える課題を解決した事例も紹介してもらった。
塚本氏「従業員が200名規模のメーカーの事例ですが、専任の労務担当者がいなかったため1人の個人社労士が業務を担当していました。ただ、社内に労務担当者がずっといなかったために、給与計算の間違いが度々発生し、手続きに対する問い合わせ先もよくわからない状況が続いたことで、従業員からは心配の声が挙がっていたそうです。そこで、アウトソースを利用することになり、freee人事労務アウトソースの導入に至りました。体制を整えて内製化の案もあったのですが、社内に労務の知見がなかったため、いきなり自社でやれるというわけではなかったようです。しかし、freeeであれば内製化でも、アウトソースでも選択肢があることが決め手だったようです。自社でスタッフを一人雇うよりもコストを抑えつつ、労務管理の体制が整ったことで、従業員からの心配もなくなったようです。そのほかにも、労務担当者が休職されたり、産休に入られたりしたタイミングでアウトソースに切り替えていただく機会もあります」
このように担当者が不在になったとき、必要な期間だけアウトソースを利用できるのはfreeeだからこそ実現しえる大きなメリットだ。このような強みを活かしてfreeeでは、2023年6月、産休や育休などによる長期休職期間中の労務業務の代行に特化した「休職支援BPO by freee人事労務アウトソース」というサービスの提供も開始している。
関根氏「freeeのようなサービスを導入することで、これまで属人的になっていた労務管理が仕組み化され、労務担当者も安心して休める環境がつくれると考えています。つまり単に労務担当者の休職期間を埋める役割だけでなく、会社全体として労務体制を整備することにもつながるのではないでしょうか」
経営戦略として人事労務のあり方を考える時代へ
長時間労働の上限規制をはじめとした法改正や過労死問題などを経て、労務管理に関する規制がますます厳しくなる現在。とはいえ、労務担当者の採用が難しかったり、新たに人員を割けなかったりするとなると、人事労務ソフトやアウトソースの利用は必須と言える。
塚本氏「freeeではできるだけ知識がない人でも利用できるような設計にこだわっています。さらに、AIに代表されるような技術革新によって、近い将来アウトソースとプロダクトの境目はなくなっていくと考えています」
関根氏「freeeのようなデジタルツールを使えば誰でも労務担当者になれる。最終的には、そんな世界が訪れるかもしれませんよね」
人事労務という企業にとって欠かせない領域に対し、アウトソースという選択肢や労務担当者自身の働き方改革も視野に入れながら、改めて経営戦略の一環として人事労務のあり方を考えてみてはどうだろうか。