ハーバード大調査、生成AI利用で仕事パフォーマンス40%アップ 人材不足解消に向け拡大する海外のAI人材プログラム

AIを活用で40%のパフォーマンスアップも

ChatGPTが登場して以来、AIツールを利用する機会がビジネス、プライベートに関わらず増えている。

特にビジネスにおけるAI利用は、企業の生産性を大幅に高める可能性が指摘されており、AI活用を推進しようという動きが日本を含め各国で拡大しつつある。

最近になり2022年11月末にリリースされたChatGPT利用の効果に関する調査結果が増えていることも、AI活用推進の動きを加速させる要因になっているようだ。

たとえば、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が共同で実施した調査(2023年9月)では、AIを利用するコンサルタントの生産性が向上、生産品質も40%ほど向上したことが報告されている。

この調査は、BCGのコンサルタント758人に実施されたもの。まず任意のタスクを与え、AIを利用しないで、通常通り実行したときのパフォーマンスを調べ、それをベースラインとした。このベースラインのパフォーマンスに対し、AIを利用し類似のタスクを実行した場合、どのようにパフォーマンスが変化するのかを調べている。この調査で用いられたAIは、OpenAIの最新モデルであるGPT‐4だ。

「AIの能力範囲」として設定されたコンサルティングタスクでは、AIを利用したコンサルタントは、タスクを25.1%迅速に完了、品質も40%以上高い値を達成した。

この調査が設定した「AIの能力範囲」とされるコンサルティングタスクとは、ニッチ市場向けの靴製品のアイデアをコンセプト化し、プロトタイプの説明から市場セグメンテーションまでのすべてのステップを明確にするというもの。より具体的には、「未開発の市場やスポーツをターゲットにした新しい靴のアイデアを少なくとも10個提案してください」や「ユーザーに基づいて靴の市場をセグメント化してください」といったタスクが与えられた。

AIの能力範囲タスクでは、特に平均的なパフォーマンスを下回るコンサルタントの生産性が著しく向上。パフォーマンスの増加率は、43%に上ったと報告されている。一方、平均を上回るコンサルタントもパフォーマンスは17%上昇しており、いずれもAIの恩恵を受けることが確認された。

ただし、「AIの能力範囲外」と設定されたより複雑なコンサルティングタスクでは、AIを利用してもパフォーマンスの上昇は見られなかった。

英国で拡大するAI人材育成プログラム

AI活用の効果が数字として明確になる中、AIを開発・活用できる人材への需要は大きく伸びている。

Quarzが2023年10月11日に報じた求人プラットフォームAdzunaのデータによると、「生成AI」に言及する求人広告は今年1月から驚異の3300%増加を記録したという。

企業側の急激な需要増加に供給は追いついておらず、求人が埋まらない人材不足問題とスキルギャップの問題が拡大中だ。

こうした中、一部の国々では、国家主導によるAI人材育成プログラムが導入されており、国をあげての大規模な人材育成の取り組みが始まっている。

スナク政権のもと「AI超大国」を目指す英国では、英国科学・イノベーション・技術省傘下のAI組織The Office for AIがAIスキルアップフレームワークを構築しており、これを活用したAI人材育成プログラムが増えつつある。

2023年10月には、AIメディアAI Businessなどを運営する英国企業Informa Techが同フレームワークに基づいたAIスキルアッププログラム「AI in Practice Training Programme」を開始。企業の競争力を維持するためのAIプロジェクトの特定・立ち上げ・スケールする方法を学ぶビジネスリーダー向けのプログラムで、マイクロソフトやアランチューリング研究所などのAI専門家らがアドバイザリーボードに名を連ねている。

Informa TechのAI市場部門責任者ジョナリー・ホウェル氏によると、現在AIスキルギャップが世界的な課題になっており、AIをうまく活用できる人材が不足しているという。企業におけるAIモデル運用のスキルが乏しいために、世界的にAIプロジェクトの約80%が失敗に終わっているという。

ホウェル氏は、企業がAIプロジェクトを成功させるためには、ビジネスリーダーや各部門の責任者レベルの人々のAIスキルを高める必要があると指摘する。AIによる機会を特定し、ニーズを明確化、それを実装に導き、運用化する能力が求められる。また同時に、AIの倫理的な課題など、責任あるAI利用に関する事項を理解している必要も求められると述べている。

マイクロソフト、英国でAI人材100万人輩出を目指す

AIスキルアップを推進しようという英国政府の戦略は、テック大手による投資の呼び込みにも成功しているようだ。

2023年10月18日には、マイクロソフトが英国で実施しているデジタルスキルプログラム「Get On」を拡大し、英国でAIスキルを持つ人材を100万人輩出するという野心的な計画を発表した。

YouGovによる調査によると、大規模言語モデルの登場でビジネスモデルが大きく変化する中、ビジネスリーダーの54%が、人材の多くがAIによる機会を最大限に活用するスキルを持っていないと回答しており、大半の企業がスキルギャップを感じていることが分かった。

マイクロソフトは、この課題に対応するために、2025年までに100万人に対しAIスキル学習の支援を行い、AIによる機会を最大限に活用できる環境を生み出す計画だ。

この一環で、オンライン学習市場で初となるジェネレーティブAI関連のプロフェッショナル証明証を発行したり、新しいAI学習プラットフォーム「Microsoft Learn AI」でのコンテンツ・ツール・リソースの拡充、リンクトインにおけるAI学習向けの助成金へのアクセス提供などが実施されるという。

シンガポールでもAI人材育成の国家プログラム開始

シンガポールでも国を上げてのAI人材育成の取り組みが発表されたばかりだ。

2023年9月1日、シンガポール情報通信社会発展庁(IMDA)は、特にAIに注力したテクノロジー分野の人材育成プログラムを通じて、今後3年間で1万8000人のリスキルを推進することを明らかにした。

IMDAは、AIおよびアナリティクステクノロジー分野が重要との認識を示しつつ、その中でも特にジェネレーティブAIの重要性が高くなっていると指摘。この領域に注力しつつ、関連する重要領域であるソフトウェアエンジニアリング、クラウド、モビリティ分野のリスキルも目指す。すでに金融サービス、小売、ホスピタリティ、教育などの業界から20以上の主要企業が従業員のリスキル育成に協力する意向を表明したという。

シンガポールは、AIスキルを自発的に学習する人材が多いことがリンクトインの最新レポートで明らかになっている。国家プログラムとの相乗効果で、AI人材プールの拡大スピードは他国を凌ぐものとなる可能性がある。

文:細谷元(Livit

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