NPCが定型文から自由に回答する時代へ ゲーム業界で高まるAIの存在感

企業のAI利用は増加傾向、ゲーム業界も

マッキンゼーの最新レポートによると、ジェネレーティブAIは最大で4兆4,000億ドルもの経済価値をもたらす可能性がある。さまざまな産業における各ビジネス機能で、ジェネレーティブAIツールによる生産性向上が期待されるためだ。

たとえば、ハイテク産業では最大で4,600億ドルの経済価値が生み出される可能性があるとされ、特にマーケティング・営業、カスタマーオペレーション、製品・研究開発、ソフトウェア開発などのビジネス機能がジェネレーティブAIの恩恵を受けると予想されている。

これは20〜30年ほど先の未来予測であるが、現在すでに企業におけるジェネレーティブAI活用の拡大を示すデータも増えつつある。グローバル求人検索プラットフォームであるAdzunaの最新調査によると、米国労働市場では、2023年6月に約760万件の求人があり、このうち16万9,045件の求人がAIスキルを求めており、この割合は増加傾向にあることが明らかになった。

AIを開発するAIエンジニアはもちろんであるが、最近の傾向としては、AIエンジニア以外の職種でもAIスキルを求める求人が増加中だ。たとえば、ソフトウェアエンジニアやプロダクトデザイナーなどでもAIスキルが求められるようになっている。さらには、会計コンサルティング企業におけるジェネレーティブAI利用の増加を反映して、税務マネジャー求人においても、AIスキルを求めるケースが増えている。

こうした中、ゲーム産業においてもAIの波が押し寄せており、ゲーム開発企業幹部の多くは、将来的にほとんどのゲームが制作のさまざまな段階においてジェネレーティブAIの恩恵を受けるとの予想を展開するようになっている。

コンサルティング大手Bain & Companyが2023年9月14日に発表したレポートによると、ゲーム企業幹部の多くが5〜10年後にはゲームの半分以上でジェネレーティブAIが活用されるようになると予想していることが明らかになった。現在すでにゲーム開発ワークフローの一部でジェネレーティブAIが活用され始めているが、今後その活用範囲はさらに広がると予想されているのだ。

ゲーム業界幹部が予想する今後のAI利用

ゲームのライフサイクルには、企画、ゲーム構築(プロダクション)、テスト/ローンチ、そして継続的な運用という4つのステップがある。

現時点でジェネレーティブAIの活用が多いのは、画像生成AIを活用したゲームアートの作成などプレプロダクションの段階といわれている。実際、Blizzard Entertainmentは、自社のヒット作品である「World of Warcraft」を含むタイトルでトレーニングした画像生成AIツールBlizzard Diffusionを作成し、新しいアイデアのコンセプトアートを制作しているという。

ゲームのコンセプトアート生成分野では、Blizzard Diffusionのような社内で構築されたものだけでなく、ゲーム開発者向けに公に提供されているツールも多数存在しており、AAAと呼ばれるゲーム開発大手に加え、多くのインディーデベロッパーによる利用も増えていることが想定される。

ゲーム企業幹部らは、5〜10年後にはジェネレーティブAIの活用は、プレプロダクションを超えプロダクション段階やその他の重要領域で増えると予想している。

すでに試みが実施されている領域の1つとして、非プレイヤーキャラクター(NPC)に自然な会話能力をもたせるというものが挙げられる。ゲームにおいて、非プレイヤーキャラクターは、プログラムされた定型的な応答しかできないが、ジェネレーティブAIを活用することで、ゲームのストーリーから逸脱しない範囲で、自由に会話させるの能力をもたせることが可能となる。実際、中国のゲームパブリッシャーNetEaseは、大規模マルチプレイヤーオンラインゲームJustice Onlineのモバイル版でNPCチャット機能の開発を計画しており、これにジェネレーティブAIを活用することを明らかにしている。

この領域は、ジェネレーティブAIトレンドで注目度が高まったNVIDIAも関心を寄せている。

同社は2023年5月末「NVIDIA Avatar Cloud Engine(ACE) for Games」を発表。これは、ゲームにおける非プレイヤーキャラクターに知性を与え、自然言語による対話とアニメーションを可能にするエンジンだ。

ゲームキャラクターもAIが生成する時代に

ジェネレーティブAIは、Chat GPTなどに見られるようにテキストでのやり取りを強みとするが、上記でも触れたように、ゲームのコンセプトアート生成で用いられるなど、画像生成でも高いクオリティを実現している。

現在、画像分野のジェネレーティブAI活用は2次元画像の生成に限定されるところだが、数年後には3次元のゲームアセット生成やゲームレベル生成などでも広く利用される見込みだ。

この分野では、いくつかのスタートアップが3次元モデル生成AIを開発しており、すでに一部ではベータ版などとして一般利用できるようになっている。

イスラエルの3DFY.aiは、「3DFY Prompt」と呼ばれる3次元モデル生成AIツールを発表。これは、人間のモデラーが作成するものと近い水準の3次元モデルを生成できるAIツールで、パーツを分解でき、さらにはメッシュトポロジーの最適化なども可能という。

3DFY.aiの3次元アセット生成ツールは、ソファ、椅子、机など比較的ジェネリックな3次元アセットの生成に限定され、現時点ではキャラクターなどの生成には対応していない。

一方、Meshyは現在、2次元画像から3次元キャラクターを生成したり、3次元キャラクターのテクスチャ(色や質感)アセットを生成するツールを開発しており、Discord経由で試験版を提供中だ。

Kaedimもこの領域で注目される企業。同社もゲーム業界をターゲットとした3次元アセット生成AIツールを開発しており、すでにBlender、UnrealEngine、Unityなどゲーム開発で広く利用されるソフトウェア向けのプラグインを提供し、ユーザーの拡大を進めている。同社のツールもプロンプトから3次元アセットを生成できるが、ジェネリックなアセットだけでなく、キャラクター生成に対応している点が強みとなっている。

同社ウェブサイトによると、フォートナイト開発で知られるEpic Gamesのほか、NVIDIA、グーグル、The Sandboxなどからも支援を受けているという。同社のAIツールによって、これまで3万2,000以上の3次元モデルが生成され、累計で12万時間以上の節約につながったとのこと。

ゲーム業界で広がるジェネレーティブAIツール利用だが、業界で働く人々からは雇用が奪われてしまうのではないかとの懸念が噴出しているほか、ジェネレーティブAIの生成物に対する著作権はどうなるのかという議論も続いている。ゲーム業界も他の産業と同様に、AIの可能性とリスクに関する議論が巻き起こることが予想される。

文:細谷元(Livit

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