SNS内でもAIの利用が主流に? 10億ユーザーを狙うリンクトインの戦略とは

海外のビジネスSNSスタンダード、リンクトイン

日本ではフェイスブックやX(旧ツイッター)ほどの存在感を持たないリンクトインだが、海外では就職・転職・スキルアップで広く活用されるビジネスSNSのスタンダードとなっている。

最新データよると、リンクトインのユーザー数は9億5,000万人以上。30億人のユーザーを有するフェイスブックや20億人のインスタグラムには及ばないものの、世界で8番目に大きなソーシャルプラットフォームに拡大している。

国別ユーザー数で最大となるのは、2億人を超える米国。これに、インドが1億500万人、ブラジル6,500万人、英国3,500万人、フランス2,600万人、インドネシア2,300万人、カナダ2,100万人、メキシコ2,000万人、ドイツ・オーストリア・スイス地域(DACH)2,000万人、イタリア1,800万人、スペイン1,700万人、オーストラリア1,300万人、フィリピン1,200万人などが続く。一方、日本のユーザー数は、300万人ほどにとどまる。

2023年第2四半期時点で、リンクトインに登録する企業の数は6,100万社。また、リンクトイン上で求人検索する人々の数は、1週間あたり6,100万人に達するという。

ユーザーが10億人に近づくリンクトインだが、今後ユーザー30億人を獲得するという目標を掲げ、プラットフォームのエクスペリエンス向上を進めている。

さまざまな取り組みを進める中で、リンクトインが最近特に注力しているのがジェネレーティブAI機能の統合だ。マイクロソフト傘下という立ち位置を生かし、同社が多額の投資を行うAI企業OpenAIのジェネレーティブAIテクノロジーを活用しつつ、リンクトインプラットフォームの機能拡張を推進しているのだ。

リクルーティング・人材採用でもジェネレーティブAI活用へ

リンクトインは2023年10月3日、ジェネレーティブAIを活用した一連の新機能を発表した。

その1つ「リンクトイン・リクルーター2024」は、GPTモデルと独自のAIモデルを組み合わせて構築されたリクルーター向けの対話型検索ツールだ。

上記でも触れたが、リンクトインは10億人近いユーザーを持つプラットフォーム。既存の検索システムでは、最適な人材を見つけるために、適切な検索キーワードを用いる必要があり、リクルーターや採用担当者の検索/フィルタリングプロセスには多大な時間を要する。間違ったキーワードを使ってしまうと、たちまち大量のデータに埋もれてしまうことになり、負担は大きなものになってしまう。

リンクトイン・リクルーター2024は、ジェネレーティブAIを組み込み、対話形式かつ自然な言葉で検索できる仕組みを提供することで、リクルーターや採用担当者の検索負担を大幅に減らすことを目的としている。

たとえば、「当社に近い場所に在住し、高成長企業に務めるシニア・グロース・マーケティング・マネジャーを探してほしい」というプロンプトを入力すると、リンクトインのインサイトとジェネレーティブAIの組み合わせによって、採用担当者が求めている候補者のタイプを推測、従来の検索デフォルトであった大手企業に加え、より広範囲な候補者プールから精度の高い候補者をレコメンドすることが可能となる。

採用担当者は依然、候補者プールの絞り込みにフィルターを利用できるが、ジェネレーティブAIが組み込まれているため、候補者プールの中から、たとえば、「最近新たに仕事を始めた人は誰か」や「当社の近くに住んでいるのは誰か」など、自然言語による絞り込みもできるようになるという。

ジェネレーティブAIによって、リンクトインユーザーの投稿情報などからどのような価値観を持っているのかを分析することも可能となるため、候補者の価値観が採用企業に合うのかどうかといった質問も投げかけることができそうだ。

この機能は2024年10月から一部ユーザーに提供され、2024年中にリクルーター/採用担当者向けのプラットフォーム「LinkedIn Recruiter」ユーザー全員が利用可能になるとのこと。

ビジネスパーソンに個別のスキルアップ提案も

リンクトインは、スキルアップのための学習コンテンツ提供も行っており、Eラーニングプラットフォームとしての側面も持っている。

今回の発表では、同プラットフォームの学習体験においてもジェネレーティブAIによるアップグレードが実施されることが明らかにされた。

発表によると、ジェネレーティブAI、ユーザーのプロフィール情報、そしてEラーニングプラットフォームであるLinkedIn Learningのライブラリ情報を活用した、学習パーソナライズチャットボットが提供される予定だ。

グーグル検索やChatGPTなど、既存の検索エンジンやAIチャットツールは、さまざまな質問に回答することが可能であるが、その回答はジェネリックなもので、個人の文脈に沿ったものではない。

新たに導入されるリンクトインチャットAIは、ユーザーが質問すると、AIがさらに詳細な質問を行い、その質問の文脈や意図を明らかにし、パーソナライズされた回答を生成することが可能という。

その際、チャットAIは、LinkedIn Learningの学習動画コンテンツを参照し、ユーザーの役職、スキルセット、キャリアの目標などの情報を踏まえ、関連性のある提案を生成するという。

LinkedIn Learningには「エクセルの使い方」や「Pythonの使い方」などのハードスキルを学習するものから「マネジメント」や「コミュニケーション」などソフトスキルを学べるものまで、約3,000人の専門家による動画コンテンツがある。チャットAIは、これら大量のスキルアップコンテンツから、ユーザー個人のスキルレベルに合わせた情報を選定し、動画リンクとともに、アドバイスを生成する。

このチャットAIツールは、現在一部のユーザーに提供されており、今後数カ月でLinkedIn Learning Hubの全ユーザーに展開される見込みとなっている。

このほか10月の発表では、リンクトイン内で利用できるB2BマーケティングAIツール「Accelerate」も明らかにされた。これは、マーケティングキャンペーンのプロセスを大幅に自動化するAIツール。キャンペーン管理ページで、宣伝したいプロダクトのウェブリンクを提供するだけで、AIが企業のリンクトインページおよびユーザーの広告データを分析し、キャンペーンをレコメンドする。また、顧客データを活用して、クリエイティブとオーディエンスも自動で構築できるという。

ジェネレーティブAIに多大な投資を行うマイクロソフトを親会社にもつリンクトイン。今後もさまざまなジェネレーティブAI施策が登場しそうだ。

文:細谷元(Livit

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