花王は、皮脂中の不飽和脂肪酸(※1)が皮膚のバリア機能を低下させ、乾燥を引き起こす可能性があることを明らかにしたと発表した。また、不飽和脂肪酸を皮膚の上でトラップする技術を開発したとのことだ。

HPC-オレイン酸作用後のHPC塗膜

皮脂は、皮膚を乾燥から守る働きがある。一方で、肌悩みに関する調査で、肌が脂っぽいと感じる人でも、約4割が冬の洗顔直後には乾燥するという悩みを持っていることが分かったという(※2)。花王は、この課題を解決するために、皮脂の皮膚状態との関係性と皮脂の皮膚への影響を調査。

具体的には、25~45歳の男女125名を対象に、洗顔から90分後の右頬の皮脂を採取し、同時に角層水分量およびバリア機能の指標となるTEWL(経皮水分蒸散量)の計測を行い、その関連性を調べた。

一定の皮脂分泌量がある人(※3)と分泌量が少ない人に分けて解析を行ったところ、一定の分泌量があるグループにおいては、バリア機能が低いと角層水分量が少ないという関係性が明らかに。さらに皮脂に含まれる成分の質的な解析を進めた結果、皮脂中の不飽和脂肪酸比率が高いほど、バリア機能が低いことを確認したという。

つまり、一定の分泌量があり不飽和脂肪酸の比率が高いと、バリア機能が低く角層水分量が少ないことが考えられ、一方、分泌皮脂量が少ないグループでは、これらの関係は確認できなかったとのことだ。

以上の結果から、皮脂の量だけでなく質(不飽和脂肪酸比率)の違いがバリア機能に関与し、角層水分量の低下など、皮膚に悪影響を及ぼしている可能性を初めて明らかにした。

(左)一定の皮脂分泌量がある人における角質水分量と皮膚のバリア機能の関係(右)一定の皮脂分泌量がある人における不飽和脂肪酸比率と皮膚のバリア機能の関係

上記の知見から花王は、皮脂に期待される保湿機能を維持しながらも、皮膚への悪影響の要因となりうる不飽和脂肪酸を低減させるための技術が必要だと考え、不飽和脂肪酸のみをゲル化し、トラップする技術の開発に取り組んだという。

さまざまなポリマーと皮脂に含まれる各成分を混合し、ゲル化するかどうかを観察した結果、ある種のHPCが、不飽和脂肪酸であるオレイン酸(OA)のみを即時的にゲル化することを見いだした。

皮脂に含まれる各成分とHPCを10:1で混合した場合の挙動

さらに、水に溶解しやすいように加工したHPCで、このゲル化が効果的に発現し、多くのOAをトラップできることがわかった。

HP基の比率によるゲル化挙動の違い

HPCにより不飽和脂肪酸であるOAのみをゲル化するメカニズムを探るため、詳細な解析を行った結果、HPCとOAとの間に水素結合が生じることがわかったという。さらに、走査電子顕微鏡を用いて膜の解析を行ったところ、HPCとOAによって形成された膜に、独特のスポンジ様構造を確認。

肌の上で不飽和脂肪酸の1つであるOAをトラップすることで、皮膚に接触しにくくできれば、皮膚への悪影響を抑制する効果が期待できると考えられるとのことだ。

花王は、今回得られた知見を、今後皮脂が引き起こす肌あれや乾燥の悩みを解決するという新たな視点に立ったスキンケア製品の開発につなげていく予定だとしている。

※1 遊離脂肪酸の1種であり、炭素鎖数が18、 二重結合を1つ含む(C18:1)。8Z-オクタデセン酸やオレイン酸など。
※2 2021年5〜6月 花王調べ、肌タイプの意識が異なる日本人女性、20~55歳、129名。
※3 洗顔から90分後の皮脂量5μg/cm2以上 65名。