アマゾン、アレクサをジェネレーティブAIで大幅アップグレード
現在、ウェブやスマートフォンでの利用が圧倒的に多いジェネレーティブAIチャットツールであるが、今後はスマートホームデバイスなどを介した利用も増える可能性が高まっている。
スマートスピーカー市場で最大シェアを占めるアマゾンもこの動きに備え、ジェネレーティブAIを活用してアレクサを強化する方針だ。
同社は、2023年9月20日に開催した秋のイベントで、大規模言語モデルを活用し、アレクサの会話能力をアップグレードする計画を明らかにした。
このイベントでは、アマゾンのデバイス部門責任者であるデイブ・リンプ氏が登壇、新アレクサは会話の文脈を理解し、適切な応答が可能となり、1回の指示で複数のリクエストを実行することも可能になると説明した。
リンプ氏は、イベント前に米The Vergeのインタビューに応じ、アレクサの大規模言語モデルは、アレクサ向けに最適化された真に汎用化した大規模言語モデルであり、グーグルのBardやOpenAIのChatGPTとは異なると指摘している。
ジェネレーティブAIが統合された新アレクサは、今後数カ月にわたり米国のみでプレビュー版として段階的に展開される予定だ。
新アレクサの能力
今回のジェネレーティブAIによるアップグレードで、アレクサの能力は大幅に高まることが期待される。これに伴い、今後もしかすると現在無料で利用できる同サービスが有料化される可能性もゼロではないという。
リンプ氏は、アレクサがスマートホームを強化し、より複雑なタスクを代行する超人的なアシスタントに進化すれば、将来的に何らかの料金を請求できるほどの実用性を有する存在になるかもしれないと述べているのだ。
以前のアレクサと新アレクサの大きな違いの1つは、会話を理解する能力にある。ジェネレーティブAIを活用することで、ユーザーの発言と文脈を理解し、具体的な名称を連呼しなくても、ユーザーが求めることを理解し、スムーズにアクションを実行することが可能となった。
スマートスピーカー利用におけるフラストレーション原因の1つとして挙げられるのが、要求するアクションをスマートスピーカーが理解できず、そのアクションを実行させるために、要求を何度も繰り返す必要があることだ。部屋の温度を変更するだけでも、その要求を何度も繰り返さなければならないシーンはよくあると報告されている。
一方、新アレクサは、「アレクサ、寒いです」というユーザーの発言に対し、その意図を理解し、部屋の温度を変更することが可能であるという。
新アレクサには、1回の指示で複数のタスクを実行できるマルチタスク能力も備わる。現時点でも「アレクサ、ライトを消して、ドアを施錠して」という基本的なマルチタスクをこなす能力があるとされるが、新アレクサはより複雑なマルチタスクを実行できる能力を持つようになる。リンプ氏は例として、「アレクサ、スプリンクラーを起動して、ガレージのドアを開けて、外のライトを消して」という複雑な指示にも対応できるようになると説明している。
スマートスピーカー市場の攻防、OpenAIもハードウェア参入を画策
スマートスピーカー市場でトップシェアを誇るアマゾンだが、その地位は安泰ではない。
Statistaがまとめた2022年の米国スマートスピーカー市場のシェアは、アマゾンEchoが67%でトップ。これに、グーグルHomeが27%、アップルHomePodが21%、グーグルNestが16%、ソニーが10%と続く格好となっている。
グーグルは、HomeとNestを合わせると43%となり、アマゾンを脅かす存在となる。また、グーグルはAIチャットボットBardを展開、ジェネレーティブAIとスマートスピーカー分野の関連技術を有しており、新アレクサのような取り組みを推進することも不可能ではない。
また、グローバルのスマートスピーカー市場でも、アマゾンは競合の厳しい追い上げに晒されている。
2016年第3四半期時点では、アマゾンは93.5%という圧倒的シェアを持っていたが、競合企業の参入により、2022年第1四半期には、28.2%まで落ち込んでいるのだ。グローバル市場のシェアは、アマゾンの28.2%に続き、グーグルが17.2%、アップルが12.7%、アリババが12.3%などとなっている。
さらに、今後ジェネレーティブAIを活用したスマートデバイス展開を狙うプレイヤーによる新規参入も見込まれ、競争はさらに厳しいものになることが予想される。
この分野で注視されるのは、ChatGPTの開発企業として知られるOpenAIの動向だ。
現在、OpenAIは主力サービスであるChatGPTをウェブ上とスマホアプリで展開しているが、今後独自のハードウェアに搭載してAIサービスを提供する計画であると報じられているのだ。
Techcrunchは2023年9月27日、The Informationの報道として、OpenAIのサム・アルトマンCEOが同社のハードウェアプロジェクトに関して、元アップルのプロダクトデザイナーであるジョニー・アイブ氏と交渉中であると報じている。
The Informationによると、OpenAIのハードウェアプロジェクトは、初期段階にあり、具体的な機能や能力、またはターゲット市場についてはまだ議論されていないという。
OpenAIはかつて、ロボティクス研究部門を運営しており、機械がルービックキューブのような複雑なタスクを学ぶ方法を研究していたが、技術的な障壁やコスト増加などから、2021年7月に同部門を閉鎖している。
OpenAIからどのようなハードウェアが登場するのかは不明であるが、スマートホームデバイスやスマートスピーカーという選択肢が議論される可能性はゼロではないはずだ。
Anthropicへの大型投資で、次世代基盤モデルへのアクセス確保したいアマゾン
OpenAIやグーグルなどジェネレーティブAI分野で先行するプレイヤーがアマゾンの牙城であるスマートスピーカー市場に参入する可能性が高まる中、アマゾンは大規模言語モデルへの投資を一層拡大している。
2023年9月末の報道によると、アマゾンは、ジェネレーティブAIスタートアップAnthropicに最大で40億ドルを投資することに合意した。この合意で、アマゾンはまず12億5,000万ドルを投じ、Anthropicの少数株式を取得するという。
一方、Anthropicは、安全性研究や基盤モデルの開発などミッションクリティカルなタスクにおいて、アマゾンのクラウドサービスAWSを使用する。また基盤モデルの構築・トレーニング・デプロイメントにおいて、AWS TrainiumおよびInferentiaチップを使用する計画だ。
元OpenAIの研究幹部らが立ち上げたAnthropicは、ジェネレーティブAIスタートアップの中でも、OpenAIの主力対抗馬として特に注目を集める存在となっている。
Techcrunchは2023年4月、Anthropicが次世代基盤モデル「Claude-Next」の開発に向け、今後2年間で50億ドルの調達を計画していると報じていた。Claude-Nextは、現時点で最も強力なAIの10倍の能力を持つモデルといわれている。
マイクロソフトがOpenAIに多額の出資を行い、OpenAIのAIモデルへの優先的なアクセスを得たように、アマゾンはAnthropicへの投資を通じて、強力なAIモデルへのアクセスを確保したい考えのようだ。
文:細谷元(Livit)