近年、国内でもイマーシブシアターの上演が増えており、2024年春には12種類のイマーシブ体験が集まる完全没入型テーマパーク「イマーシブ・フォート東京」の開業も決まっている。
イマーシブシアターとは、2000年代にロンドンから始まった“体験型演劇作品“の総称。イマーシブ(immersive)とは「没入型の」と訳され、観客が物語に入り込むような新感覚のエンターテインメントとされている。
今回は、西武園ゆうえんちで開催中の「没入型ドラマティック・レストラン~豪華列車はミステリーを乗せて~(以下、豪華列車はミステリーを乗せて)」を筆者が初体験。同公演は、「レストラン」と「イマーシブシアター」を掛け合わせたユニークなエンタメとして人気を集めている。
なんとも斬新だったこの体験をネタバレを含めず、お伝えしたい。
豪華な列車内で巻き起こる殺人事件
「豪華列車はミステリーを乗せて」は、2023年5月20日に開幕。満席が続いている人気アトラクションだ。チケット代は、ウェルカムドリンク・アフタヌーンティーセットを含んで5,400円、上演時間は約90分となる。
決まった客席やステージはなく、空間全体が舞台となるのは、イマーシブシアターの特徴のひとつ。同公演の場合、列車内のすべてが舞台となっている。
「さまざまな秘密を抱えている」とされる8人の登場人物(キャスト)は、全員にどこか“怪しさ”がある。そして、筆者を含む57人の観客は、「ダイニングトレイン レヴァリエール号」の御披露目走行に招待されたゲストとなる。
「最初の15分~20分は、ゆっくりお食事ができます」と事前にアナウンスされていたとおり、冒頭は落ち着いて飲食ができた。しかし、その後は物語が急展開し、のんびり食べている場合ではなくなるのだ。
観客が物語を左右することもある
さまざまなストーリーが展開されていくなかで、徐々に「没入型」の意味がつかめてきた。
登場人物たちは、列車内の端から端までを行ったり来たりしながら演じる。演者のマイクはオンオフが切り替えられており、自分の席から遠い場所で繰り広げられる会話があえて聞こえないこともある。逆に自分たちだけが聞ける会話もあり、秘密を知ったような感覚になる。
不意に登場人物と目が合い、話しかけられることもあった。最初はしどろもどろになるのだが、慣れてくると登場人物のひとりとして振る舞えるようになってくるから不思議だ。
観客の介入が物語を左右することもある。本公演では物語のカギを握る重要な小物があるのだが、観客がそれに触れることもあるようだ。
物語が佳境に入ると、同じテーブルに着席した人たちと「あの人が怪しい」と考察合戦が始まった。こういった周囲との会話も、イマーシブシアターならではの楽しみ方かもしれない。今回、同席したのは初対面同士だったが、上演後も会話が盛り上がった。
座る座席によって聞こえてくる会話や目に入るシーンが異なることもあり、リピートする人も少なくないそうだ。物語が動き始めると飲食よりも演劇に集中したくなるので、食事はサっと済ませて、じっくり演劇に没入するのが良いかもしれない。
お台場の「イマーシブ・テーマパーク」にも期待が高まる
本公演を仕掛けるのは、USJの経営再建で知られる森岡毅氏が率いる刀社。マーケティングやエンターテインメントの領域を強みとする同社は、ハウステンボスや丸亀製麺のマーケティング支援などでも成果を上げている。
そんな刀社の大型プロジェクトが、2024年春に開業するイマーシブ・テーマパーク「イマーシブ・フォート東京」だ。東京・お台場の商業施設「ヴィーナスフォート」の建物を活用し、12種類のイマーシブ体験と6つの物販・飲食店舗を備える完全屋内型のテーマパークとなる。
同施設で提供されるイマーシブ体験は、「豪華列車はミステリーを乗せて」よりも空間の規模が大きなものばかり。繰り広げられるイマーシブ体験は、非日常的なシーンにあふれ刺激的なのだとか。
例えば、魅力的な女性が近づいてきて耳元で「私を助けてほしい」とささやく。道を歩いていたら、突然スパイとテロリストの銃撃戦に巻き込まれる。ヒロインを助けるために毒薬を使って悪者を殺さなければいけなくなる、といった具合だ。
「体験は一人一人異なり、百人百様のものとなります。日常生活では起こり得ないシーンの連続でドキドキワクワクするなど、感情が揺さぶられます。同じ演劇であっても訪れるたびに違った体験となり、その時、その瞬間、その場所でしか味わえない唯一無二の体験です」(刀社 森岡氏)
没入型レストランでの体験を通じて、イマーシブシアターの醍醐味を感じることができた。自身が参加する分、従来の演劇よりも緊張感があり、体験後は心地よい疲労感があった。好みは分かれるかもしれないが、新感覚のエンタメであることは確かだろう。
取材・文:小林香織