円谷プロに聞く、ウルトラセブンが55年の時を経て伝える「対話と共生」への思い

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1967年10月、ウルトラセブンはモロボシ・ダンの名をかりて地球にやって来た。円谷プロダクションが手がけたこの不滅のヒーローの55周年を祝う「シモキタソシガヤウルトラタウンフェス」が、東京の下北沢と祖師谷エリアにて2023年10月1日より行われている。「対話と共生」をテーマに、グルメ・ファッション・アートなどさまざま角度から『ウルトラセブン』の世界を堪能できるイベントだ。

なぜ「対話と共生」をテーマに開催しているのか——。円谷プロダクションの営業本部、デピュティエグゼクティブマネージャー 佐藤浩氏、マーチャンダイジンググループ 月脚知美氏、コーポレートセールスグループ 高橋俊哉氏の3名に話を伺う。そこには、55年も前からウルトラセブンが発信してきた、現代を生きる私たちが大切にしたい価値観があった。

下北沢と祖師谷で共同開催『シモキタソシガヤウルトラタウンフェス』

ウルトラセブンは怪獣や異星人との対話を大切にし、共生を目指してきたヒーローである。そして、対話と共生の先には、私たちが生きていくうえで模索している多様な世界があるはずだ。「対話と共生」に加え、今回のイベントでは「多様性」もキーワードに掲げられている。

かつて円谷プロダクションがあったウルトラマンシリーズ誕生の地である祖師谷に加え、今回なぜ下北沢での開催に至ったのだろうか。佐藤氏は下北沢の“多様なカルチャー”が鍵だと語る。

佐藤氏「20〜30代の方にもウルトラセブンの魅力をお伝えしたく、若者の多様なカルチャーが交差する下北沢に協力を仰ぎました。街もひとつのメディアです。リアルなイベントは訪れる人たちがその場の“熱”を共有できます。下北沢が持つ多様なカルチャーを受け入れる空気が、ウルトラセブンの魅力をより良く伝えてくれると思いました」

営業本部 デピュティエグゼクティブマネージャー 佐藤浩氏

グルメ・ファッション・アート・街歩きで体感するウルトラセブンの世界

下北沢では“怪獣・星人の街”として個性や多様性を楽しむカルチャーを発信。祖師谷では“ウルトラセブンが見守る街”として、ウルトラセブンにちなんだ企画を展開している。

複合施設「ミカン下北」の各店(10店舗)では、怪獣・星人をイメージしたユニークなコラボメニューを提供している。人気アパレルブランド「WEGO VINTAGE下北沢店」では、劇中の印象的なシーンをオマージュしたアイテムを発売中(一部オンラインでも購入可能)。

また、新旧のファンが共に楽しめる「発見!怪獣・星人の潜む街 下北沢謎解き大散策」「カタカナ穴埋めウルトラセブン街探検クイズ」といった街歩き企画や、若手アーティストが下北沢に棲みついた怪獣・星人を表現したストリートアートが街を盛り上げる。

その他にも、子どもたちが参加できるハロウィンイベント(10月28日終了)やチョークアートイベント(11月19日開催予定)もあり、大人から子どもまで楽しめる企画が盛りだくさんだ。

「TSUTAYA BOOKSTORE下北沢」ではポップアップストアを展開。アパレルや雑貨、文具などウルトラセブン55周年関連グッズやオリジナルグッズが並ぶ(10月31日終了。以降は、ツブラヤストア ONLINEにて販売)。

今回のイベントでは、怪獣や星人たちが下北沢に棲みついているという設定があるのだが、そこにはどんな思いが込められているのだろうか。

佐藤氏「今回、怪獣や星人は敵ではありません。残念ながら55年前は侵略したりされたりする関係でしたが、共生が進んだ未来が“今”だとしたら、怪獣や星人は一緒に暮らすべき存在かもしれません。ウルトラセブンが実現したかった共生できる多様な世界を、イベントの間だけでも実現したいと思っています」

イベントの詳細はこちらから

次世代にも伝えたいウルトラセブンの魅力

円谷プロダクションでは、この55周年事業に取り組むプロセスにも「多様性」を大切にしてきたという。佐藤氏は「ウルトラセブンに親しんできた世代だけではなく、若手社員や若手のクリエイターを起用して次世代の感性を取り入れました。街やお客さまに寄り添った企画にできたと思います」と振り返る。

実際に、企画に携わる若手社員の月脚氏と高橋氏は、昭和に生まれたウルトラセブンにどのような魅力を感じているのだろうか。

月脚氏「深刻な社会問題のテーマも取り扱っているので、大人が観ても考えさせられる作品です。怪獣や星人のキャラクター設定もおもしろく、ほかのウルトラマンシリーズとは違った切り口で楽しんでもらえると思います。興味深いのは、ウルトラセブンも宇宙人であること。宇宙人として地球人と対話をしている存在です。格好良いヒーローというだけではないところに魅力があります」

マーチャンダイジンググループ 月脚知美氏

高橋氏「55年前の作品ですが、過去のものという印象はありません。現代社会が抱えている問題に通じるテーマやストーリーがあり、若い世代にも刺さり得るポテンシャルを持った作品です。そして、登場するキャラクターがバラエティ豊かで、常に新しい発見があります。怪獣や星人が遠い存在ではなく、地球人に不気味なほど近い存在として描かれていることも、新鮮に感じられるのではないでしょうか」

コーポレートセールスグループ 高橋俊哉氏

不滅のヒーローを通して伝えたい円谷プロの思い

長きにわたり親しまれてきたヒーローは、どのような使命を背負い続けているのか。最後に、円谷プロダクションがヒーローを創造するうえで大切にしていることを伺う。

佐藤氏「地球人も宇宙人であり、すべては同じ“命”です。ウルトラセブンでは立場や価値観の違う者が共生を目指しますが、対話が成立せず、互いの正義が行き違った結果、地球人がほかの文明を滅ぼしてしまうエピソードもあります。これは紛争が起きている現代社会と同じではないでしょうか。今だからこそ作品から感じる何かがあると思います」

『ウルトラセブン』の作品づくりには、戦中戦後を生き、命やアイデンティの危機に直面してきた方々が携わってきた。そのことからも、ウルトラセブンが共生する大切さと難しさを描くことにリアリティがあるのだという。

佐藤氏「創造性豊かで革新的な作品、商品、サービスを通じて“勇気”と“希望”と“思いやり”を世界中の人々に届けるグローバルエンターテイメントカンパニーになることを企業ビジョンとしていて、この勇気・希望・思いやりという三つの言葉は僕らが責任を持って伝えていかなければなりません。そして、子どもたちがヒーローに興味を持つきっかけは腕力的な強さだと思いますが、本当の強さ、真の勇気、誠の優しさとは何かに気づいてもらうことが、僕らが作るコンテンツ、ヒーローの役割です。勇気・希望・思いやりの先には、みなが共生できる多様な世界があるのだと信じています」

勇気・希望・思いやり、そして対話と共生の先にある多様な世界。これらの真っ直ぐな言葉は、ときにくすぐったく聞こえてしまうかもしれないが、55年も前からウルトラセブンを通して伝えてきた円谷プロダクションの思いに嘘偽りはない。

『ウルトラセブン』の作品に込められた数々のメッセージは、確かに血の通っているリアルなものだ。今、ウルトラセブンは下北沢と祖師谷の地から、争いが絶えない現代を生きる私たちに大切なものを投げかける。

取材・文:安海まりこ
写真:西村克也

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