超急速充電器1,000基を無料導入。テラモーターズの大胆な「新プラン」はEV環境をどう変えるか

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EV充電インフラ事業で国内シェアNo.1(※)のTerra Motors(テラモーターズ)は、2023年9月26日、EV充電インフラ事業のTerra Charge(テラチャージ)において「超急速充電器1,000を無料導入する新プラン」を発表した。

記者発表会に登壇した同社の取締役会長 徳重 徹氏は、「日本から世界最先端のEVの都市を排出したい」とプロジェクトへの意気込みを話した。

費用総額が100億円を超えるという同事業は、日本のEV環境にどんなインパクトをもたらすのか。日本のEV充電インフラ環境における課題とともに、テラモーターズの新プランの詳細を伝えたい。

※2022年度以降のテラモーターズの受注実績より(同社調べ)

日本のEV充電インフラ環境における3つの課題

新プランの発表会に登壇した取締役会長の徳重 徹氏(筆者撮影)

今回テラモーターズが発表したのは、90〜150kWの超急速充電器1,000台を今後2年間のうちに東京を中心に設置する新プランだ。EVに明るくない人にとってはピンとこないかもしれないが、現状の日本のEV充電インフラ環境を知ると革新的なプランだとわかる。

欧米などのEV先進国と比較して、徳重氏が強調した日本のEV充電インフラ環境の課題は、以下の3点だ。

(1)充電スピードが遅い

テラモーターズのプレゼンテーション資料より

日本ではEV充電器の設置数自体は増えているが、3kWや5kWの普通充電タイプが主流であり、20kW以上の急速充電タイプは少ない。急速充電器であってもEV先進国でスタンダードと言われる120kWに届くものはほとんどない。国内の急速充電器の平均出力は40kWとなっている(経産省の資料より、2022年12月時点)。

充電時間は車種や出力によって変動するが、普通充電なら数時間、急速充電なら30分が1回の目安だ。もし満充電にするなら、さらに時間を要することになる。

(2)時間課金である

テラモーターズのプレゼンテーション資料より

2023年10月現在、日本のEV充電器は、世界のスタンダードである「従量課金制」ではなく「時間課金性」が主流となっている。その要因は規制などにあるようだ。例えば30分間充電した場合の充電量が20kWhでも、50kWhでも同料金になってしまうのだ。高速であればあるほど充電器を設置した側が儲からない仕組みであり、不動産オーナーがEV充電器の設置を避ける理由の一つになっている。

(3)機械式駐車場が多い

テラモーターズのプレゼンテーション資料より

都市部のマンションは機械式駐車場を採用しているケースが多いが、EV充電を念頭に置いて作られていないため条件面が厳しくなる。場所が狭い、メンテナンスしづらい、充電器の管理における責任問題などが発生しやすい。

東京電力エナジーパートナーの調査によれば、2023年上半期の日本のEV普及率は、販売台数に対して約1.67%と、ごく少数にとどまる。対照的に中国、欧州、米国などは着々とEV化が進んでおり、中国は約20.5%、欧州は約14.2%、米国は約7.2%、(いずれも2023年上半期)となる。EV最先進国として知られるノルウェーは、2022年のEV普及率が約79.3%と群を抜いている。

EV利用者の「心理的不安」を解消する新プラン

これらの課題を払拭するべく、テラモーターズが打ち出したのが「超急速充電器1,000基の無料導入」だ。同プランで設置するのは90〜150kWの超急速充電器で、150kWの場合、6分の充電で約100kmを走行できる充電スピードとなる。もちろん時間課金制ではなく従量課金制だ。

設置されるのは、写真の超急速充電器が基準となる(提供:テラモーターズ)

普及促進のため、充電設備・設置工事・電気代・電気代基本料・メンテナンス等のイニシャルコストとランニングコストは、テラモーターズが負担する。通常、同規模の超急速充電器を導入すると、1台あたり1,500~2,500万円の初期コストに加え、年間で数十万円のメンテンナンス費用と100万円以上の電気料金が発生するというから、いかに大胆なプロジェクトであるかがうかがえる。

今後2年以内に、高速道路やガソリンスタンド、コンビニ、商業施設、郵便局、高層マンションやビルなど1,000箇所の施設への設置を目指し、誰でも利用できるパブリック充電器として運用する。現時点で、大手家電量販店のコジマへの設置が確定している。

1,000箇所は、東京にあるガソリンスタンドの数と同様だ。機械式駐車場に充電器がなくとも近場で充電ができる

これぐらいの規模で超急速充電器が普及すれば、EV所有者が抱える「電池切れへの不安」を解消できるだろうと徳重氏は、本プランの意図を語った。

「日本のEV環境を著しく向上させるには、より踏み込んだ試作を行うべきだと当社は判断しました。自治体や不動産オーナーの負担をゼロにして5〜10年間の運用を行い、EVの利用者を増やしたい。当社のプランが実現すれば、東京が世界最先端のEV都市になるかもしれません」(徳重氏)

超急速充電器を設置する自治体や不動産オーナーやEV利用者にとっては、いいこと尽くしのプラン

総費用は100億円超え。どう捻出するのか

本事業にかかる費用は、総額で100億円を超えるという。テラモーターズは設置や維持にかかる莫大な費用をどう捻出し、その投資をどう回収するのか。

「国の補助金と資金調達によって運用する予定です。2023年のEVインフラ事業の補助金は従来の3倍となり、来年はそれ以上の額になるだろうと見込んでいます。また、世界の投資マーケットにおいて充電インフラ事業の将来性は高く評価されており、投資環境は非常に好調です。

6月に40億円の資金調達を発表しましたが、今後はより規模の大きな調達も視野に入れています。実績さえ出せれば十分に確保できると考えています」(徳重氏)

当然リスクはあるが、徳重氏いわく「日本ほどEVインフラに補助金が出る国はまれ」とのこと。リスクを取っても巻き返せる環境があり、日本の未来にとって必要なことである。だからこそ覚悟を持って挑んでいるという。

テラモーターズのEV充電器の受注数は、2023年6月時点で4,700基と国内シェアNo.1

国内EVインフラ事業への参入は2022年4月と後発だったにもかかわらず、技術開発力・資金力・工事力・補助金対応力・圧倒的スピードを強みとして、国内シェアNo.1となったテラモーターズ。

同社では、EV普及を阻む一番の壁が「消費者の心理的不安」だと考えている。新プランによって、その不安を取り除くことができれば、国内のEVインフラ環境は劇的に向上する。加えて、補助金を考慮してガソリン車と同等の価格帯で購入できるようになれば、国内のEV環境は一気に変わると徳重氏は主張した。

革命的な新プランは本当に実現するのか。テラモーターズの今後に、ますます目が離せない。

取材・文:小林香織
編集:岡徳之(Livit

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