ドコモグループの法人営業部ブランド「ドコモビジネス」を事業展開するNTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)は、10月12日から13日の2日間、最新テクノロジーとユースケースを取りそろえたイベント「docomo business Forum’23 」を東京都内で開催した。

“DXのテーマパーク”と称された本イベントは、サステナブルな社会の実現を支える「ビジネスコラボレーション」「従業員エクスペリエンス」「企業プラットフォーム」の3つをテーマに、ドコモビジネスの提供価値を直感的に体感できる展示や講演が用意され、多くの企業や自治体関係者らが熱視線を送った。

本記事では、NTT com丸岡亨 代表取締役社長の基調講演の模様とフォーラムの展示を通して同社が見据えるビジネス戦略に焦点を当てていく。

2022年1月、株式会社NTTドコモはNTTグループのNTT Com、NTTコムウェアを子会社化して再編統合。新ドコモグループが誕生した。その中で新たな収益源として期待される法人事業をNTT Comへ移管し、法人向けサービスやソリューションをワンストップで提供していくことを目指し、同年7月に法人事業ブランド「ドコモビジネス」がスタートした。

今後の展望について語るNTT Com丸岡亨代表取締役社長

基調講演に立った丸岡氏は、「地域・社会・産業の課題解決、サステナブルな社会へ」という企業理念に触れつつ、従来のソリューションに加え、5G、IoT、FMC(インターネット通信を利用するIP電話機と携帯端末を連携させるサービス)等のモバイルソリューション、アプリケーション、クラウド基盤等を組み合わせた統合ソリューションを同社の価値提供の基幹に位置付けると語った。

新ドコモグループの法人事業を担うドコモビジネス

さらに、ドコモグループの一員となることで、ブランド力だけでなく、モバイル事業や約9,000万の顧客基盤、データを活用できる統合によるメリットを強調。同社の知見に各企業が積み重ねてきた価値やレガシーを掛け合わせて、一社が生み出すよりも何倍も大きなインパクトを社会に与えるべく、約500名の専門家集団の配置や、2021年に大手町にオープンしたリアル・リモート・バーチャル多層型共創スペースの紹介など、企業との「共創」「伴走」をアピールした。

ここからは講演で紹介された各企業や自治体との共創事例について紹介していく。

DX推進が課題となる建設業界へのアプローチ

人手不足や高齢化、業務効率化など、長らくDX化が課題となっていた建設業界では、大手建機メーカー コマツと建設業向けデジタルソリューションを提供する株式会社EARTHBRAINとの協業事例が紹介された。

専用のアプリをインストールしたiPhone、iPadで現場を撮影するだけで、最大誤差5センチの点群3Dデータを生成。専門性が必要な3次元の計測を誰でもおこなうことができるという。

またオフィスに設置したコクピットから現場の建設機械を遠隔操作することが可能になり、危険な場所で作業を回避できるようになった。いずれもIoTや5Gなどを活用することで、より生産性・安全性・環境性の高い現場環境の実現が期待できる。

他にも悩みの種だった、現場担当者による工程管理におけるDXも推進する。竹中工務店、清水建設との事例では、紙ベースでおこなわれていた工程管理や日報をデジタル化。従来の工程表では表現できなかった情報を付与して、データを動的に連携することで効率化、精度、安全性の向上に貢献が期待できる。時間外労働の上限か制限され、人出不足が懸念される「2024年問題」に向けたソリューションの1つだ。

建設業界における課題に対して取り組むDX事例

ビジネス領域でのGXへの注目度と意識の高まり

気候変動、生態系破壊などの地球規模での課題に対応するため、企業活動の中でのGX(グリーントランスフォーメーション)をアイコンとした環境配慮が求められている。特に「2050年カーボンニュートラル」(排出CO2の量が差し引きゼロとなる状態)の実現に向け、各企業が様々な取り組みをおこなっている。

ヤンマーマルシェ株式会社と協業した事例では、地球温暖化の原因となるメタンガスの発生源の1つに挙げられる水田に注目した。水稲栽培の過程で発生するメタンガスを一時的に水田から水を抜く「中干し」の期間を延長することで、ガスの排出量を3割減らすことを目的に、水田にIoTセンサーを設置して中干し期間を可視化した。

これにより、カーボンクレジット(温室効果ガスの削減効果を排出権として発行し、他の企業などとの間で取引できるようにする仕組み)を発行して、販売支援に役立てることができるほか、生産者にとってはカーボンクレジットマーケットからの収入や取り組みを通じて“グリーン米”などのブランド化につなげることが期待されている。

農業におけるGX(グリーントランスフォーメーションの事例

鉄鋼業界では伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社とGHG(温室効果ガス)関連事業をおこなう株式会社ウェイストボックスとの取り組みが紹介された。

原材料調達から販売までのサプライチェーンでの温室効果ガスの排出量を表すScope3(スコープ3)に対応する為、2023年9月から鉄鋼サプライチェーン全体の温室効果ガス量を算定、可視化、分析するクラウドサービス「MIeCO2(ミエコ)」を開始。今後はカーボンニュートラルをめざす企業に対し、本サービスを通じて再生可能エネルギーの導入、調達業務への活用による排出量の削減やカーボンクレジットを活用したオフセットなどの支援をめざしていくという。

デジタルで変える地域社会のつながり

またデジタル化は地方自治体の新たな街づくりにも生かされようとしている。

行政、地域住民、事業者が一体となって住みよい地域社会を創ることを目指し、群馬県長野原町と共に、ローカルガマメントプラットフォーム(LGPF)を立ち上げた。住民には専用アプリを通じて公共施設の混雑状況や防災情報などをダイレクトに提供するほか、事業者からはクーポンやイベント情報を提供してもらうことで、地域の魅力向上や地域特性に沿った来訪促進やマーケティングにも寄与できる。2023年7月の時点でアプリの普及率は人口比約56%、40社の事業参画があるという。

静岡県裾野市ではスタンレー電気株式会社と共同で国内自治体初となるAI搭載スマート道路灯と、ローカル5Gを活用した実証実験がおこなわれた。

既設の道路灯を、速度超過検知機能などを備えたスマート道路灯化することで、車の速度超過、歩行者の道路への侵入の検知などのほか、都市計画にも活用していく。

静岡県裾野市との共創事例

社会や企業の課題に挑戦するサービス・ソリューションを体験

イベント会場では「ビジネスコラボレーション」、「従業員エクスペリエンス」、「企業プラットフォーム」のエリアに分けて、ドコモビジネスの提供価値を直観的に体験できる展示がおこなわれた。中でも画期的な技術で特に来場者の注目を集めていた3つの展示を紹介する。

当日の会場では多くのビジネスパーソンが参加し、各エリアごとに賑わいがあった

●自動走行ロボット管制サービス「RobiCo」

今年4月には遠隔操作型小型車として登録されたロボット活用促進を目的に道路交通法が改正され、物流業界における「2024年問題」などの社会課題解決の手段としてロボットに注目が集まる。遠隔操作で複数のロボットを安全かつ効率的に運用できる体制を構築したのが自動走行ロボット管制サービス「RobiCo(ロビコ)」だ。様々な外部情報と連携し、複数ロボットを管制する運行管理システムを活用し、主に交通結節点から最終目的地までの「ラストワンマイル運送」を担う。

ブースでは東京都中央区月島に配置したロボットと、展示会場の港区芝公園を遠隔でつないだデモンストレーションがおこなわれた。ロボットメーカーが提供する遠隔映像データを基に操縦をおこなうオペレーターと、独自に開発した運行管理システムの2つのモニターが設置され、運行計画管理から、運行、配送完了報告までの一連の流れのデモが披露された。

今後は、天候や路面状況、工事情報等とのリンクが予定されているほか、試供品提供など、広告ロボットとしての活用も期待されるという。

自動走行ロボット管制サービス「RobiCo」のデモシーン。左側のモニターがロボットの遠隔映像、右側に運行管理システムが表示される

●コミュニケーションAI

NTTドコモR&Dのブースでは最新の生成AIを活用した接客デモ体験がおこなわれた。

コンピュータープログラムの発展により、近年は人間に代わって一定のタスクや処理を自動化するためのプログラム「チャットボット」が普及している。一方で、あらかじめパターン化された応対したできず、人間の細かい要求や感情の起伏に対応する能力はなかった。

コミュニケーションAIサービスは、応対する人間の話すスピードや声の大きさなどを認識する「音声DX技術」、顧客の過去の行動ログから、要求や目的などを推測し提案する「CX分析技術」、大量のテキストデータを用いて学習された自然言語処理モデル「LLM」を総合的に活用し、人間の感情や行動特性に寄り添った接客を可能にした。現状、8割の正確性で的確な応対ができるという。

目下、社内の顧客対応に向けた準備を進めており、オペレーターが対応できない夜間や休日の応対や、待機時間の省力化等に貢献していく。今後、データのフィードバックを重ねて精度向上が進めば、スケジュールや体調管理をおこなうパーソナルな秘書としての役割も期待できそうだ。

コミュニケーションAIを活用した接客デモ。アバターは用途に応じて変更できる

●企業のカーボンニュートラルを支援する先進のグリーンICT基盤

デジタル化による電力使用の拡大にともない、CO2排出量も増加する中、企業の長期的成長のためには、サステナブルな社会の実現に向け、環境や社会に配慮した健全な管理体制の構築が求められている。NTT Comのデータセンターやクラウドでは、実質100%可能エネルギーを活用して、脱炭素化を支援するサービスを提供する。

ブースでは、生成AIやHPC(High Performance Computing)など、従来よりもプロセッサに高い発熱量をともなうシステムに対し、より効率的に冷却をおこなう「液冷サーバー」が展示された。従来の空冷のタイプと比較しても30%以上冷却能力が優れ、サーバー以外の電力をほとんど使用しないという低消費電力。

現在、一基、5000万円から1億円と高価だが、「高発熱のプロセッサを入れて効率的に冷やせるデータセンターは日本にはないので、それも顧客価値につながる」と担当者は自信をのぞかせた。

生成AI等、高発熱のシステムにも対応できる液冷サーバー

産業、農業、地域だけでなく、顧客や従業員までも情報でつなぐ様々な事例や実証実験を紹介した本イベントからはドコモビジネスの強い意気込みを感じた。

会見に臨んだ丸岡氏は「お客様への提供を見据えて今後はコミュニケーションAIを中心に累計100億円単位での投資は必要。将来的にはコミュニケーションAIやグリーンデータセンターをNTTグループが発明した『光電融合技術』を用いた次世代ネットワーク・情報処理基盤『IOWN』につなげることでコミュニケーションの質やデータ処理を劇的に向上させたい」と展望を描いた。ビジネスと情報がつなぐ“新しい社会”はすぐそこまで来ているはずだ。

取材・文・撮影:小笠原大介