ジェネレーティブAI求人、2023年1〜8月に33倍増加
ChatGPTの登場以来、労働市場に大きな変化が起きている。AI人材を求める企業が急増、またそれに呼応した人材側のAIスキル取得の加速が顕著となっているのだ。これは、一般の労働市場だけでなく、フリーランス市場でも明らかなトレンドになっている。
まず、オンライン求人プラットフォームAdzunaが2023年9月1日に発表した最新調査から、海外の労働市場におけるAI求人動向をみていきたい。同調査は、主に英語圏で掲載された2億7,600万件を超える求人広告を詳細に分析したもの。AI人材需要が顕著に増加していることが判明した。
たとえば2023年上半期、「Generative AI(ジェネレーティブAI)」という言葉が記載された求人広告の数は1月の185件から5月には1,496件と800%の増加を記録。さらに、2023年8月「Generative AI」求人広告の数は6,127件に達している。
ちなみに2021年5月時点では「Generative AI」求人は10件のみ。また、「language model(言語モデル)」という言葉を用いた求人広告数も2023年1月の103件から8月には4,344件に急増している。
このほか、求人広告で多く使われているAI関連ワードとしては、「Machine Learning」(2023年8月の求人数、4万1,698件)、「Natural Language Processing」(9,461件)、「LLM」(4,344件)などが多いことが明らかになった。
一般的なAIスキルを求める求人広告の平均給与は11万5,554ドルだったが、ジェネレーティブAIスキルを求める求人広告は平均給与が14万4,993ドルと、若干高くなる傾向も観察された。
同調査では、どのような職種でAIスキルが最も求められているのか、その傾向もあぶり出されている。
2023年8月のデータによると、AIスキルを求める職種で最多を記録したのは、Tax Manager(税務マネジャー)で、その求人数は1,850件だった。このところ、AI活用を進める会計コンサルティング企業が急増しており、AIスキルを持つ税務マネジャーの需要が急拡大しており、それが調査結果に反映された格好となる。
このほか、データサイエンティスト(AIスキル求人数、1,458件)、AIモデルトレーナー(1,032件)、ソフトウェアデベロッパー(958件)、サイエンティスト(692件)などでの職種でAIスキル需要が高いことも分かった。
AI関連求人数を国別で見ると、最多となったのは、21万6,475件を記録した米国。次いでフランスが5万2,119件、インドが3万6,728件、ドイツが3万5,300件、英国が2万1,097件と続く。これらの数字は、AI人材需要の高さだけでなく、空席が埋まらない人材不足の状況も示すものとなっている。
リンクトインの最新調査、AIスキルは2016年比で9倍に
上記Adzunaの調査は、企業側のAI人材需要の急増を示すもの。一方、リンクトインが2023年8月に発表した最新調査「Future of Work」では、人材側のAIスキル習得が加速している状況が映し出されている。
この調査は、リンクトイン利用が活発な25カ国における同プラットフォームユーザーのプロフィールに記載されたAIスキル情報を分析。同調査で定義されているAIスキルを2つ以上もつユーザーの数が2016年から2023年にかけてどれほど増えたのかを調べたものだ。
調査対象となった25カ国は、米国や英国など主に欧米諸国が中心となっており、アジア太平洋地域で含まれるのは、オーストラリア、インド、シンガポールのみで、日本は含まれていない。
リンクトインプラットフォーム上では、ユーザーがプロフィールに記載できるスキルの数は全体で3万8,000個ある。このうち同調査では、121のスキルをAIスキルと定義。AIスキルに含まれるのは、機械学習、自然言語処理(NLP)、ニューラルネットワーク、ディープラーニングなど広く知られたものから、最近話題のプロンプトエンジニアリング、また人気プログラミング言語PythonのAIパッケージであるPyTorchなどが含まれる。
全体では、2016年1月と比較して、2023年6月にはAIスキルをプロフィールに記載したリンクトインユーザー数が、9倍増加したことが明らかになった。これは平均の増加率で、国別では、シンガポールが20倍で最大となり、これにフィンランド(16倍)、アイルランド(15倍)、インド(14倍)、カナダ(13倍)が続く結果となった。
フリーランスプラットフォームUpworkがOpenAIと提携、企業と人材のマッチングへ
上記Adzunaのほか、Indeedも2021年7月から2023年7月までの間に、ジェネレーティブAIに関する求人広告が約250%増加したと報告するなど、さまざまな求人プラットフォーム上でAI人材需要が爆発的に伸びている状況が明らかになっている。
多くの企業がビジネスプラットフォームにAIを統合する方法を探っており、それが求人プラットフォームでの広告急増に繋がっているとみられる。
こうした中、AIスキルを持つフリーランサーの需要も急速に高まっており、正社員向けの求人プラットフォームに加え、フリーランスプラットフォームも活況の様相となっている。
CNBCは、フリーランスプラットフォームFiverrの広報担当者の話として、多くの企業がAI活用を検討・計画しており、熟練したフリーランス開発者を求めるケースが増えていると伝えている。
たとえば、ChatGPTや類似のAIボットをアプリに導入したいと考える企業が増加。Fiverrでは過去6カ月間でAI関連のビデオ制作に対する関心が急増、またAIアプリ開発の専門家を探している企業も増えているという。
この需要を取り込むべく、フリーランスプラットフォーム大手の1つUpworkは、2023年7月末にOpenAIと提携し、大規模言語モデルに詳しい専門家とビジネスを結びつけるプログラム「OpenAI Experts on Upwork」を開始することを発表した。
同プログラムは、UpworkのAIサービスハブの拡張版であり、世界中のAI分野のフリーランスのプロフェッショナルと企業をつなぐもの。AIの専門知識とOpenAIプラットフォームの経験を持つ人材を事前審査し、企業の需要を考慮してマッチングさせる。企業は、1対1のコンサルテーションまたはプロジェクトベースでフリーランサーと契約できるという。
OpenAIは、ChatGPTだけでなくAPIの提供も行っており、多くの企業ではAPIを活用したAIアプリケーション開発の需要が高まっている。OpenAI Experts on Upworkでは、主に大規模言語モデル(LLM)を活用したアプリケーションの構築、モデルの微調整、責任あるAIを考慮したチャットボット開発などで、フリーランス活用が増えることが見込まれる。
AIプロンプトエンジニアなどのフリーランス需要も急増
OpenAI Experts on Upworkに参加するには、フリーランサーには高度なスキルが求められる。一方、フリーランス市場では、参入障壁が低い分野もあり、副業目的でパートタイムフリーランサーとして参入する人も増えている。
CNBCによると、フリーランスプラットフォームFiverrでは、AIコンサルタント、AI動画エディター、AIプロンプトエンジニア、AIコンテンツエディターなどの検索が急騰、それに応じて、サービス提供するフリーランサーも増加しているという。
2023年1〜7月のFiverrでの検索数は、AIコンサルタントが650%、AI動画エディターが625%増加した。
AIフリーランサー需要に対し、供給が追いついておらず、サービス料は比較的高い水準となっている。たとえば、AIコンサルタントは10時間あたり1,000ドル、AI動画エディターはプロジェクトあたり1,120ドル、プロンプトエンジニアは5つのプロンプトに対し100ドル、AIコンテンツエディターもプロジェクトあたり625ドルを提示している。
文:細谷元(Livit)