今年公表された厚生労働省の調査によると、2021年の子どもの相対的貧困率は11.5%だが、ひとり親世帯では44.5%と全体の5割近くとなっている。特に母子家庭では全体の75.2%が「生活が苦しい」と答えており、その貧困の状況は深刻だ(※)。
背景には、住居が安定しないことや、非正規雇用など女性の低賃金の問題がある。シングルマザーたちの苦境は、子の教育格差や体験格差を生み、貧困の連鎖を引き起こす。彼女たちに対する支援は、世界でも大きな社会課題だ。
そんななか、世界ではどんな支援策があるのだろうか。今年2023年から米国インディアナ州の「アンダーソン・スカラー・ハウス」が、一風変わった取り組みを始めた。シングルマザーたちに住居を保障し、大学の学位を取らせるのだ。その目的は明確で、貧困の連鎖に終止符を打ち本人とその家族を自立させることにある。
教育がシングルマザーの抱える多種多様な問題を解決する「特効薬」になるのだろうか。支援に当たるスタッフは、次のように米国の非営利メディアChalkbeatに語る。
「これは人々の問題に一時しのぎの対処をするだけでなく、終了しても彼らをより良い状態にしてくれるプログラムです」
選ばれたシングルマザーは「奨学生(スカラー)」、その子どもは「ジュニア・スカラー」と呼ばれる。奨学生とジュニアは、安定的な住居を提供されるだけではない。ここで重要なのは、様々な支援プログラムが充実している点だ。
8部屋ある奨学生の部屋に対して、4人のスタッフが行政とのやり取りや書類作成の手伝い、生活支援、奨学生の悩み相談と、多岐にわたって手厚くフォローする。他の機関とも連携しているため、メンタル面や学習内容、学資助成金についてなども含め、幅広い相談もできる。さらに、納税方法や財務会計、栄養バランスのとれた食事プランに至るまで各種ワークショップに参加することも可能だ。
奨学生たちは、大学にフルタイムで在籍し、75%以上の出席率が義務づけられている。就職に結びつきやすい分野での学位取得が奨励されており、そこで一定の成績を維持すること、ワークショップの参加やスカラー・ハウスの雑務を手伝うことも必要だ。子どもを託児所や保育園、学校に通わせ、他の大人の宿泊などは禁止。要するに、子育てをしながら真面目に勉学に励む必要があり、なかなかハードだ。それでも、このプログラムは人気を博し、いまや30名近くが待機中だという。今後、より多くの人々に提供できるよう、拡大が期待される。
スカラー・ハウス1期生の、あるシングルマザーは、ソーシャルワークの修士号を取得して、悩みを抱えた母親たちの支援に当たりたいと夢を語っているという。
ひとり親支援は複雑に問題が絡み合っているため、一人ひとりの状況に応じて対応することが不可欠だ。たしかに、教育は万能ではない。だが、可能性を開花させ、生きる意欲につなげられるのも学びの力だ。新しい職業に就くために、必要とされるスキルの大幅な変化に適応するため、必要なスキルを獲得する「リスキリング(Reskilling)」の重要性も問われている昨今。こうした女性たちの「学び直し」の選択肢も増えていくことを願う。
※厚生労働省(2023)「国民生活基礎調査」
【参照サイト】令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告
【参照サイト】JobSource社、アンダーソン・スカラー・ハウス公式ホームページ
【参照サイト】Housing Help Turns Indiana’s Single Mothers Into Scholars
【参照サイト】A college degree starts with housing help at this program for single mothers in Anderson
(元記事はこちら)IDEAS FOR GOOD:シングルマザー向けの大学進学と住居支援、米国インディアナ州で始まる