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マッキンゼーが自社開発のジェネレーティブAIツールを発表
世界最大級のコンサルティング企業マッキンゼーが独自のジェネレーティブAIツール「Lilli(リリ)」を発表した。

これは、同社ジャッキー・ライトCTOの指揮のもと、テクノロジー部門である「ClienTech」チームが設計した社員用のチャットアプリケーション。社内10万以上のドキュメントとインタビュースクリプトデータを基に開発されており、情報やインサイト、データ、プランなどを生成することができる。また、プロジェクトに最も適した内部の専門家をレコメンドすることも可能であるという。
マッキンゼーの発表によると、クライアントとの折衝開始時、プロジェクト計画の作成が重要な第一歩となるが、同フェーズにおいては、関連するリサーチドキュメントを見つけだし、適切な専門家を特定する作業が行われる。この作業では、膨大な情報を検索する必要があり、特に新人社員にとっては、非常に時間のかかるタスクとなる。また、シニア社員でも調査とネットワーキングに2週間を要する。Lilliを活用することで、この作業時間が大幅に短縮されることが期待される。
また、議論を活性化させる役割も担うことができる。Lilliは、会議やプレゼンで想定される質問を予想し、ユーザーの主張の弱点を事前に把握することが可能で、専門知識と品質を向上させつつ、会議準備時間を最大で20%節約できるという。
Lilliのより詳細な情報は、同社のシニアパートナーであるエリック・ロス氏がVentureBeatで解説している。
ロス氏によると、現在マッキンゼー社内では約7,000人の社員がLilliを利用しており、生産性は大幅に改善されている。たとえば、調査や計画タスクにおいて、もともと数週間かかったものが数時間に短縮、また数時間のタスクが数分に短縮されたとのこと。過去2週間、Lilliは5万件の質問に回答し、ユーザーの66%が週に複数回利用しているという。
Lilliは、1945年に同社で初めてプロフェッショナル職に就いた女性、リリアン・ドンブロウスキ氏(Lillian Dombrowski)にちなんで名付けられている。2023年6月にLilliのベータ版がリリースされ、今秋から全社で本格導入される予定だ。
マッキンゼー、自社ジェネーティブAIツール開発でCohereなどのLLMを活用
マッキンゼーは、AIスタートアップCohereなどと提携、スタートアップが開発した大規模言語モデル(LLM)を活用し、Lilliの開発を推進している。一般的に大規模言語モデルを開発するには、多くの投資が必要となり、「AI企業」ではない企業が大規模言語モデルを開発するのは多大なリスクとなる。
そこで、AI企業が開発した大規模言語モデルをファインチューニングする形で、自社に適したアプリケーションを開発するのが慣例となりつつある。
VentureBeatによると、マッキンゼーは、Cohereのほか、マイクロソフトAzureプラットフォーム上のOpenAIの大規模言語モデルも活用しているという。
Lilliは現在も開発が進められており、今後クライアントデータのアップロードなども想定した、プライバシーレベルが非常に高い仕様に進化する見込みだ。
ロス氏によると、現在クライアントが安全かつプライベートな分析を行うために、自社の情報やドキュメントをアップロードできる機能の実験を進めており、将来的には、マッキンゼーのデータとクライアントのデータを組み合わせた分析などもできるようになる可能性があるという。
ちなみに、マッキンゼーがLilliの開発にあたり利用している大規模言語モデルの開発企業Cohere(2019年設立)とは、OpenAIやAnthropicに並ぶ注目のAI開発スタートアップで、2023年6月に、NVIDIA、オラクル、セールスフォースなどから2億7,000万ドルを調達、20億ドルの評価額をつけている。

他のコンサルティング企業でもジェネーティブAI関連の取り組み活発化
マッキンゼーに先駆け、コンサルティング業界では、すでにいくつかの企業がジェネーティブAIを活用する取り組みを開始している。
たとえば、PwCは2023年3月15日、法律業務に特化したAIを開発するスタートアップHarveyとの提携により、法務専門家による文書レビュータスクの効率化などを進めることを発表した。
PwCのグローバル税務・法務サービスAI責任者であるビベク・シャルマ氏がLegal Dive
で語ったところでは、デューデリジェンス、コンプライアンス、契約分析など多岐に渡る領域でジェネーティブAI活用が想定され、それぞれの領域で発生する文章のレビュー高速化や洞察生成、さらにはリスクの洗い出しといった用途で利用する見込みという。
PwCでは4,000人以上の法律専門家が、プロジェクトごとに発生する大量の法的文書をレビューし、文書に内在するリスクや機会の特定を行っている。ジェネレーティブAIを活用することで、これらのタスクを高速化し、付加価値の向上を目指すという。
またシャルマ氏は、規制コンプライアンスとESG分野で、AI活用の可能性があると指摘している。各企業が事業を推進する上で、各社のサプライチェーンがESGルールに準拠しているかどうかは非常に重要な問題で、経営者の特段の懸念事項になっている。ジェネレーティブAIを活用することで、数千に及ぶサプライヤーとの契約をレビューすることが可能となり、各文書に環境問題や奴隷問題に関して適切な条項が記載されているかどうかを迅速に確認することが可能となる。
このほか、コンサルティング業界では、デロイトが2023年4月13日、顧客企業がGPT-4などのファンデーションモデルを活用したソリューションの開発と導入を支援する新しい取り組みを開始すると発表。またベイン・アンド・カンパニーが同年2月21日、ジェネレーティブAIを活用し、顧客企業のオペレーション改善を進めるため、OpenAIとのサービスアライアンス提携を発表するなどしている。
文:細谷元(Livit)