GAFAM企業が注目するデジタルマップ市場
テック分野の中で話題になることが少ない「デジタルマップ」であるが、市場ポテンシャルは非常に高く、GAFAM企業の取り組みも活発化しつつある。
Mordor Intelligenceによると、デジタルマップ市場の規模は2023年に225億3,000万ドルになると予想されるが、今後年率13%以上の成長が続き、2028年には422億3,000万ドルに拡大することが見込まれる。
デジタルマップ市場は、ソリューション(ソフトウェア、サービス)、デプロイメント(オンプレミス、クラウド)、産業(自動車、エンジニアリング/建設、物流・輸送、エネルギー/公益事業、通信)に分類される。自動車産業での先進的なナビゲーションシステム、地理情報システム(GIS)への需要増加などが市場拡大の要因になるという。
また、IoTデバイスが急増することが予想され、それに伴うデジタルマップ利用の増加も見込まれている。2025年には、IoTデバイスの数は754億4,000万台に達する。
デジタルマップ市場規模を地域別で見ると、現時点で最大となるのは北米市場だが、成長率ではアジア太平洋地域が世界トップとなっており、今後テクノロジー開発取り組みや投資活動の活発化が予想される。
アジア太平洋地域で、デジタルマップ技術の採用に大きな変化が見られるとして特に注目されているのは、インド、中国、シンガポール、日本、オーストラリア、韓国。Eコマースセクターにおけるトラッキングなどでの利用が増える見込みだ。また、都市計画、サプライチェーン/物流管理、環境モニタリングなどの領域でもデジタルマップ技術の活用が増えると予想されている。
グーグルの牙城、アマゾン、マイクロソフト、メタが対抗
そんなデジタルマップ市場であるが、現在大きなシェアを占めているのが、「Google Map」を展開するグーグルだ。
2020年時点ですでに、月間ユーザー数は10億人以上で、サービス展開する国・地域の数は220を超えていた。
グーグルが支配するデジタルマップ市場で、同社に対抗しようという動きが、他のGAFAM企業を筆頭に昨年末頃から活発化している。
2022年12月、アマゾン、マイクロソフト、メタ、そしてオランダのデジタルマップ企業TomTomは、相互運用可能なオープンマップデータの開発を目指して、Overture Maps Foundationを設立した。正式なホストは、リナックス・ファウンデーションであるが、アマゾン、マイクロソフト、メタ、TomTomが取り組みを推進する。
この取り組みの目的は、参加企業が自社のデータとリソースを提供しあい、オープンに利用可能なデータセットを構築し、さまざまなデジタルマッププロダクトの開発を促進することにある。
リナックス・ファウンデーションのエグゼクティブディレクターであるジム・ゼムリン氏が指摘するところでは、物理環境と世界中のすべてのコミュニティをマッピングすることは、それ自体が常に変化を続けているため、大規模かつ複雑な課題であり、1つの組織で管理することは不可能だという。
現在、地図データは、ローカル情報の検索や発見だけでなく、ルーティング、ナビゲーション、物流、モビリティ、自動運転、データの可視化など、数千のアプリケーションの基盤となっている。将来的には、地図データはAR技術と統合され、ゲーム、教育、生産性アプリケーションとして広く利用されることが期待される。
Overture Maps Foundationは、具体的にどのようなことを行うのか。
1つは、マップビルディングだ。Overture Maps Foundationの参加企業、市民団体、オープンデータソースなど複数のソースをまとめデータセットを構築する。
また、異なるデータセットに含まれる同一のエンティティ(ローカル情報や企業情報など)を実世界のエンティティとリンクさせることで、異なるデータセット間でも簡単に利用できる相互運用性を向上させる。さらには、地図データのエラーや破損検出ための検証を実施し、地図データの品質保証を行うという。
Overture Maps Foundationは、このデータセットを2023年上半期中にリリースする予定だった。
データセットをリリース、デジタルマップアプリ開発の促進へ
予定より若干遅れたが、Overture Maps Foundationは2023年7月末に待望のデータセットをリリースした。
このデータセットには、5,900万件の「point of interest(POI)」と呼ばれる情報が含まれている。たとえば、レストランやランドマーク、さらには交通ネットワークや行政範囲が含まれる。建物データは、米国政府の3DEPプログラムからのオープンデータと、米企業Esriやスイス企業Nomokoのデータの組み合わせを使用して作成。またOverture Maps Foundationで「theme」と呼ばれる場所のレイヤー情報は、主にメタとマイクロソフトによって収集されたという。
Overture Maps Foundationの執行役員であるマーク・プリオロー氏は発表声明で、今回リリースした「The Places」データセットは、大小さまざまな企業やポップアップマーケットなどあらゆるものをマッピンできる可能性を秘めたもので、これまで存在しなかった大規模なデータセットだと説明している。
このデータセットは、多くのアプリ開発者らが、低価格でマップアプリを制作することを念頭に作成されており、今後さまざまなアプリケーションが登場することが期待される。
Techcrunchによると、現在開発者がGoogle MapのAPIを利用する際、そのアクセスには料金が発生する。また、アップルのApple Mapでも、アップルのネイティブアプリでは、無料アクセスできるが、ウェブアプリなどの開発ではアクセス料金が発生する。Overture Maps Foundationのデータセットは、グーグルとアップルの2つの支配的プレイヤーに対抗するものであり、開発コストが下がることで、アプリ開発の促進が見込まれる。
今回初のリリースとなり、今後Overture Maps Foundationに参加する企業の特性によってデータセットも変化することが予想される。たとえば、自動車メーカーが多く参加する場合、交通データが洗練される可能性があるという。
また、メタバース、空間コンピューティング、AR、MRなどの領域でも活用される可能性もあり、データベースがどのように活用され進化していくのかが注目される。
文:細谷元(Livit)