推し活グッズの新ブランド「推部屋plus」が好調。聞いて分かった売れる理由

2021年11月に誕生した、推し活グッズの新ブランド「推部屋plus(オヘヤプラス)」の売上が好調だ。3名と少数精鋭のチームながら、2023年の年間売上高は1億円を達成する見込みだという。

同ブランドを手がけるのは、衣料品の製造販売を展開するクロスプラス社。コロナ禍を機にアパレルにとらわれない事業にも目を向けようと方針転換があり、そこで社員から出たアイディアが「推し活グッズ」だった。

自らもオタクである女性社員が中心となって開発した推し活グッズの数々は、若年層のオタク女性にヒット。テレビや雑誌などのメディアに多く取り上げられ、アイドル雑誌『POTATO(ポテト)』との共同開発商品も販売している。

どのようにして人気ブランドが誕生したのか。ブランド責任者の菊池武行氏に聞いた。

オタクが作るオタクのための推し活ブランド

「推部屋plus」の強みは、推し活当事者の視点で開発されていることだと菊池氏。現在のラインナップは13品で、5,000円以下の雑貨と衣類が並ぶ。以下の人気トップ3を見ると、推し活をする層の需要が見えてくる。

<推部屋ケース>(2,999円)

推し活の定番アイテム・アクリルスタンドを収納できる携帯ケース。「推しをいつでも持ち歩きたい」「推しを眺めて気分を上げたい」といったオタクの人の需要に寄り添って開発された。アクリルスタンドの代わりに名刺や小物、アクセサリーを入れたり、アクリルスタンドを立てたりすることも可能だ。

<推部屋トートバック (キャンバス素材)>(4,999 円)

コンサートやイベントなどで使用する応援アイテム・ジャンボうちわが収納できる大きめサイズのトートバック。うちわが折れたり、汚れたりしないよう両側面に樹脂加工を施し、強度を高めている。好みのキーホルダーを取り付けられるDカンや、ペンライトなどを収納しやすい中ポケットも人気のポイント。

<マルチファイル>(888円)

チケット・L判サイズ写真・アクリルスタンド・会員証など、推し活に必要なグッズを収納して持ち歩けるマルチファイル。推しのカラーが選べる9色展開や細々としたグッズを一つにまとめられる実用性が喜ばれているようだ。

「購入者は圧倒的に女性が多く、25〜30歳がボリュームゾーンです。企画のメンバーは私を除いて20代で、自身も推し活に熱心。だからこそ、まだ世の中にない、オタクの人たちが欲しいと思う商品のアイディアが生まれやすいんです」(菊池氏)

そのほか、うちわをかわいくデコレーションする「ティアラうちわクリップ」(1,999円)や「推部屋デコうちわキット」(499円)なども。公式グッズにシンデレラフィットする仕様はマストであり、推しのカラーに合わせて選べる多色展開も特徴的だ。

「実は私、オタクなんです」社員の告白からブランドが誕生

今や年間の売上高が1億円規模に成長している「推部屋plus」。誕生の背景には、コロナ禍での事業危機があった。

「緊急事態宣言が出された際、代表取締役社長の山本から『これから既存のビジネスが難しくなる可能性が高い。アパレル製品にこだわらず生活者の助けになる、もしくは楽しみを追求できるといった視点でアプローチしよう』と話がありました。リモートワークにはなるが、とにかくオンラインでコミュニケーションを取って企画を立ててほしいと」(菊池氏)

オンラインでのブレストを重ねるなかで、ある社員が発した「実は私、オタクなんです」という告白が周囲の共感を呼んだ。「私も」「僕も」と推し活をしている社員が現れ、彼らの話を聞きつつ市場調査をしてみると、十分に勝機があると手応えを得たという。

キャプション:2023年2月に開催した博多阪急でのポップアップの様子

「当社では、コロナ禍に『新規商品検討会』の仕組みを作りました。推し活をする女性社員を発案者として、推部屋plusの事業計画を役員の前でプレゼンしたところ、『やってみよう』とGOが出ました。数字情報などもしっかり提示しましたが、役員の心を動かした一番の要素は『熱量』だったと思います」(菊池氏)

プレゼンを担当した社員は、「なぜこれが売れるか」をオタクの視点で熱弁。現場で大きな笑いが起こったという。

矢野経済研究所によれば、2021年のオタク市場は約6,700億円にのぼる。なかでも「アニメ」(2,650億円)、「アイドル」(1,500億円)が市場を牽引しており、コロナ禍からの回復が進む2023年は、さらに市場が伸びる可能性もある。

矢野経済研究所のプレスリリースより

人気雑誌や有名企業とコラボし、より刺さる商品開発へ

事業開始後、しばらくは自社内で商品を企画していたが、2022年からは他社との共同開発にも着手。その第一弾がワン・パブリッシング社が発売するアイドル雑誌『POTATO』とコラボレーションした「推部屋マシュマロポーチ(全9色)」(2,999円)と「推部屋マルチストラップ(全9色)」(3,999円)だ。

「推部屋マシュマロポーチ(全9色)」(2,999円)

ポーチは、コンサートやイベントで使用頻度が高い双眼鏡がすっぽり入るサイズ感で、大事な推し活アイテムを保護するクッション性が高い素材が使用されている。マルチストラップはスマホ、双眼鏡、ポーチなど、いろいろなアイテムに取り付けて使用できる便利な一品。荷物が多くなりがちな推し活中に、おしゃれにモノを携帯できる。

「推部屋マルチストラップ(全9色)」(3,999円)

アイドル雑誌と組み、紙面でタイアップ記事を掲載したことで、効率的にターゲット層にリーチできているという。現在は、高速バスの運行等を展開するWILLER社や大手CDチェーン店と共同開発が進んでいるそうだ。

「POTATOさんとの共同開発では、非常に良い結果を残すことができました。オタクの心理を理解しているとはいえ、世の中に必要とされる商品開発には、より幅広い視点が求められることも感じました。今後は、同じターゲット層を狙う他社さまとの共同開発で新商品を開発していく方針です」(菊池氏)

消費者の目が肥えている現代だからこそ、手当り次第で開発しても通用しない。オタクの人たちは「好きなモノには糸目なくお金を使う」と言われるが、実際は「お金を使う、使わないのメリハリがハッキリしている」という言い方が正確かもしれないと菊池氏は話した。

ブランドの認知が高まるにつれ、販売先も増えている。自社、及び外部のECサイトに加え、この7月からは雑貨店のロフトでも販売が始まった。百貨店でのポップアップも複数回にわたって開催している。

2023年2月に開催した博多阪急でのポップアップの様子

「ロフトでは大型の5店舗で販売しています。その他、アニメイト池袋本店や一部のアパレル店でも取り扱いがあります。店舗での販売は売上に直結するより、情報拡散の効果が大きいように思います。特に百貨店でのポップアップは意外性があるためか、メディア取材が多く入ります」(菊池氏)

今後の展開をたずねると、「大人の推し活グッズを作りたい」という。

「40、50代向けの大人の推し活グッズを作れないかなと。実はリクエストが結構届いているんです。この年代の方は、より一層目が肥えていますし、それこそ中途半端なモノづくりは通用しません。本物志向のリッチな商品を考えています」(菊池氏)

一社員の興味関心から始まった新ブランド「推部屋plus」。今後、他社とのコラボレーションでどんな商品が生まれるのか、気になるところだ。

※表示価格はすべて税込

写真提供:クロスプラス
<取材協力>推部屋plus
取材・文:小林香織

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