INDEX
フォックスコン、カルナータカ州で6億ドル投資へ
世界的にサプライチェーンを見直す動きが顕著となる中、インドに対する関心が高まっている。
半導体分野では、台湾の大手フォックスコンが8月2日、インド・カルナータカ州で2つの製造プロジェクトを開始するとし、計6億ドルを投資すると発表した。1つはiPhoneの部品製造、もう1つは半導体製造装置に関するものであるという。
これまでの報道によると、フォックスコンは、カルナータカ州政府との意向書に署名したことを明らかにし、6億ドルのうち、約3億5000万ドルを州内でのiPhoneケース部品の製造プラント設立に、また約2億5000万ドルを半導体製造装置のプロジェクトに投資する。
フォックスコンは、これらの投資により、州内で1万3000人の雇用が創出されると述べている。半導体製造プロジェクトにおいては、アプライド・マテリアルズと提携する。
フォックスコンは、この発表の数日前に、タミル・ナードゥ州で電子部品製造投資施設を新設するために1億9400万ドルを投じる計画を発表したばかり。
6月末にインドのモディ首相が米国を訪問した際には、米国企業による投資案件が多数締結されており、フォックスコンだけでなく、米国企業による投資も今後さらに活発化する見込みだ。
これまでの報道では、米ゼネラル・エレクトリック(GE)とインドHindustan AeronauticalがTejas Mk2軽戦闘機のGE414ジェットエンジンのインド国内共同生産を進めるための覚書を締結、また米国の半導体メーカー、マイクロンテクノロジーがインド・グジャラート州に新しいチップ組立ておよびテスト施設を建設する計画を発表している。マイクロンテクノロジーは、同プロジェクトで最大8億2500万ドルを出資、一方インド政府とグジャラート州政府が27億5000万ドルを投じる計画であるといわれている。
さらに、米半導体製造装置メーカーであるアプライド・マテリアルズも同国に新たなエンジニアリングセンターを開設する計画で、今後4年間で4億ドルを投資する計画という。
AMDもインド投資加速
米半導体メーカーAMDも7月末にインドでの投資計画を明らかにしている。
AMDは、今後5年間で4億ドルを投じ、インド南部の都市ベンガルールに同社最大規模となるデザインセンターを設立する計画だ。AMDのCTOであるマーク・ペーパーマスター氏がモディ首相の出身地であるグジャラート州で開催された年次半導体会議「SemiconIndia2023」で、同計画を発表した。
デザインセンターの規模は、50万平方フィート。完成すれば、デリー、ムンバイ、グルガオン、ハイデラバードなどに続く、同社10カ所目の拠点となる。ペーパーマスターCTOは、これらの投資を通じて、半導体デザインのイノベーションを促進し、同国の研究開発能力をさらに拡大したいと意気込みを語っている。
AMDがインドに進出したのは2001年。これまでに6500人以上の雇用を創出、また国内のパートナー数は3000に上る。デザインセンターの新設などを通じて、2028年までにインド国内でさらに3000人のエンジニアを雇用する計画もあるという。
AMDが投資計画を発表した「SemiconIndia2023」には、フォックスコンのリウ・ヨン会長、マイクロンのサンジャイ・メヘロトラCEO、アプライド・マテリアルズの半導体製品グループのトップ、プラブ・ラジャ氏なども出席していた。
このように、世界的な半導体企業が次々とインド投資計画を発表する背景には、インド政府による誘致プログラムがある。
モディ首相は2021年に、約100億ドルを投じインドを半導体製造のグローバルハブにするという野心的なプログラムを発表、海外の半導体メーカーの誘致を開始した。当初は、グローバル企業からの反応は少なく、プログラムの修正を強いられたようだが、中国リスクの顕在化とともに、インドへの関心が高まり、一連の投資計画に繋がったものと思われる。
インド投資の現状、サービス投資からハイテク投資にシフト
このほかにも、インド政府は海外直接投資の誘致を加速させるための国家プログラムをいくつか始めており、そうした取り組みとのシナジーによって半導体製造企業の誘致が実現した可能性もある。
海外企業による投資を活発化させる主な国家プログラムとしては、製造業とロジスティクス/サプライチェーン強化を目指す「Make In India」、1兆2000ドル規模の巨額投資により国内インフラを強化する「PM Gati Shakti」、海外製造企業の誘致を促進する「PLI India」などが挙げられる。
インド政府による積極的な誘致策により、インドの海外直接投資(FDI)額はこの20年で約20倍の規模に膨れ上がっている。2004年のインドの海外直接投資流入額は約43億ドルだったが、2012年に465億ドルと10倍に拡大、2022年には848億ドルを記録した。
最近の対インド海外直接投資の特徴の1つとしては、コンピュータソフトウェア/ハードウェア分野が拡大していることが挙げられる。
2000〜2023年まで対インド海外直接投資の累計額を分野別に見てみると、最大となるのはサービス分野で、その額は1007億ドルとなる。これに次ぐのがコンピュータソフトウェア/ハードウェア分野であるが、直近3年の海外直接投資の内訳では、同分野の投資が突出している状況となっているのだ。
まず、2021年の海外直接投資を分野別で見ると、最大はコンピュータソフトウェア/ハードウェアで261億ドル。50億ドルだったサービス分野の実に5倍以上を記録した。2022年も最大は、コンピュータソフトウェア/ハードウェアで、直接投資額は144億ドル。これに対し、サービスは71億ドル、また直近2023年のデータによると、コンピュータソフトウェア/ハードウェアが80億ドルでトップ、2位はサービスで65億ドルだった。
米国のインド投資額は3番目
主要メディアの報道では、米国の半導体大手、アップル、アマゾン、グーグルなどのテック大手による投資案件がフォーカスされており、米国によるインド投資が活発な印象を受けるが、海外直接投資データによると、対インドの米国投資額は3番目にとどまり、1位の国とはまだ大きな差があることが分かる。
2023年の海外直接投資を国別に見ると、最大となるのはシンガポールだ。投資額は、172億ドルに上る。そして2番目がモーリシャスで、投資額は61億ドル。米国は60億ドルで3番目に位置する。
このほか対インド投資のトップ10には、アラブ首長国連邦(投資額33億ドル)、オランダ(25億ドル)、日本(18億ドル)、英国(17億ドル)、キプロス(13億ドル)、ケイマン諸島(8億ドル)、ドイツ(5億ドル)がランクインしている。
シンガポールは、ソブリンファンドであるGICやテマセクなどが大規模なインド投資を牽引。2023年7月末には、テマセクが今後3年でさらに100億ドルをインドに投じる計画を発表した。
一方インド国内では、特にマハラシュトラ州とカルナータカ州に投資が集中しており、2023年は、マハラシュトラ州に148億ドル、カルナータカ州に104億ドルが投じられたという。
インド投資のリスク
政府支援やインフラプロジェクトなどにより、海外企業にとって魅力的な投資環境が整備されるインドだが、リスクがない訳ではない。半導体分野では特に、「政治」の影響が働き、企業にとって不利な状況での投資になることもあり得る。
インドでは、半導体製造において、カルナータカ州とタミル・ナードゥ州がインフラが整い製造に適した州であるといわれている。しかし、モディ首相の出身地であるグジャラート州に誘致したいという政治的な影響が加わり、海外企業の意向に反した契約になることも少ないといわれている。
インド地元紙DeccanHeraldは、2023年8月6日の記事で、米マイクロンがグジャラート州に製造工場を設立するプロジェクトにおいて、連邦政府はマイクロンに対し、同社がグジャラート州に工場を設立することを条件に財政支援の実施を約束したと指摘している。
冒頭でカルナータカ州での6億ドルプロジェクトを開始する計画を発表したフォックスコンは、インド複合企業ベダンタとグジャラート州で半導体製造の合弁事業を実施する計画だったが、先月この合弁事業からの撤退を明らかにしている。
文:細谷元(Livit)