2022年若干落ち込んだAI投資、ジェネレーティブAIにより活発化
企業によるAI投資は、2022年に前年比で若干落ち込んだものの、ジェネレーティブAIの登場によって大きく加速することが見込まれる。
Statistaのまとめ(2023年4月23日)によると、企業によるAI投資額は、2015年に127億5000万ドル、2016年に177億ドルにとどまる水準だったが、2017年に440億ドル、2020年に678億5000万ドル、2021年に935億ドルと右肩上がりで拡大してきた。一方、2022年は919億ドルと前年からマイナス成長を記録していた。
しかし、2022年11月末のChatGPTのリリースを機にジェネレーティブAIトレンドが到来、様々なAIツールが登場し、企業による投資機運も高まっている。その兆候を示す事例が最近増加傾向にある。
たとえば、グローバルコンサルティング企業のPwCは2023年4月26日、今後3年間にわたりAIサービス拡充に向け10億ドルを投じる計画を発表、顧客企業のジェネレーティブAI活用支援を拡大するという。この一環で、マイクロソフトと提携し、Azure OpenAIサービスを通じて、OpenAIのジェネレーティブAIテクノロジーを活用することも明らかにした。また、PwCの社員6万5000人のAIスキル・能力向上に向けた投資を実施する計画についても言及している。
PwCは3月に、法務文書レビュータスクの効率化に向け、法務AIスタートアップHarveyとの提携を発表するなど、コンサルティング企業の中では、先行した動きを見せている。Harveyは、OpenAIから投資を受けており、ChatGPTテクノロジーをベースとする法務AIプラットフォームを開発している。
アクセンチュアはAIに30億ドルを投資、AI人材倍増計画
PwCの競合となるアクセンチュアも巨額のAI投資計画を発表し、注目されている。
アクセンチュアは2023年6月13日、AIプロフェッショナルチームとクライアント向けのAIソリューションの構築に向け、今後3年間で30億ドルを投じる計画を明らかにしたのだ。
AIプロフェッショナルチームの構築では、現在4万人の社員からなるデータ&AIプラクティスチームを2倍となる8万人に拡大する計画。社員への研修、新規雇用、AI関連スタートアップの買収などを通じて、AI人材を大幅に増やす構えだ。アクセンチュアでは現在、74万人近い社員が働いており、この計画が実現すれば、AI人材が全社員の10%以上を占めることになる。
この発表でアクセンチュアは、「AI Navigator for Enterprise」と呼ばれるAIプラットフォームをリリースする計画も明らかにしている。同プラットフォームにより、顧客企業は、AI活用のユースケースを定義し、それに応じたAIアーキテクチャやモデルを選定することが可能になるという。
アクセンチュア・テクノロジーのグループ・チーフ・エグゼクティブであるポール・ドーハティ氏は、今後10年でジェネレーティブAIによって業務の40%が影響を受ける可能性があり、産業・企業を大きく変容させるメガトレンドになると強気の予想を展開している。
マッキンゼーも最新レポートで、2045年頃までに、ジェネレーティブAIによって現在の業務の約半分が自動化される可能性があり、生産性向上によってグローバルで最大4兆4000億ドルの経済価値が創出されるとの予想を展開している。
セールスフォースは英国で40億ドルを投資
このほかAI投資で目立った動きを見せるのがセールスフォースだ。直近では6月12日に、同社は今年3月にローンチしたばかりのジェネレーティブAIに特化したベンチャーファンド「Generative AI Fund」の規模を2億5000万ドルから5億ドルに拡大することを発表した。
同ファンドは、すでにCohereやAnthropicに加え、You.com、Hearth.AI、Humane、Tribbleなど複数のAIスタートアップに投資を行っている。セールスフォースは、「倫理的なAI」への投資を優先することで、同ファンドの差別化を図る。
たとえば、同ファンドがすでに投資を行ったTribbleは、マーケティング自動化AIを開発するスタートアップだが、最近プライバシー強化を促進するPrivate AIと提携。この提携により、Private AIのプロダクトであるPrivate GPTを活用し、OpenAIのChatGPTにデータが送信される前に、個人情報を削除する取り組みを行っている。
またロイター通信6月29日の報道によると、セールスフォースは英国で、AI取り組みとデジタル変革の促進に向け、今後5年で40億ドルもの投資を行う計画を発表。今回の40億ドル投資計画は、同社が2018年に英国で発表した25億ドルの5カ年投資計画を拡張するものという。
大手企業のAIへの関心が一層高まる中、投資資金がOpenAIやAnthropicなどのジェネレーティブAIプラットフォームだけでなく、それらを支えるインフラ分野にも流入する可能性が高まっている。
Crunchbase2023年7月6日のレポートによると、2023年上半期に爆発的な勢いでジェネレーティブAI投資が増えたが、下半期もこの勢いは続く見込みで、それに伴いジェネレーティブAIプラットフォームを支えるインフラスタートアップにも資金が集まりつつあるという。
たとえば、GPUによるAIコンピューティングソリューションを提供するCoreWeaveは、2023年4月に、NVIDIAなどから1億ドルを調達しており、評価額は20億ドルに達したといわれている。またCNBC6月1日の報道によると、マイクロソフトはコンピューティングリソース確保に向けCoreWeaveと契約を締結。数年の提携となり、その規模は数十億ドルに達するとみられている。
2023年下半期、企業のAI投資はどこに向かうのか、今後の投資動向にも注目が集まるところだ。
文:細谷元(Livit)