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AI(人工知能)の急速な進化を背景に、このところ大手企業によるAI関連事業への投資が加速している中で、国際的な会計・コンサルティング企業のKPMGが、AIとクラウド関連事業に5年間で20億米ドルを投資すると発表した。自社におけるAI活用を拡大することに加え、クライアントのAI活用支援を精力的に行っていく計画だ。
さらに、世界最大級の会計・コンサルティング企業であるプライスウォーターハウスクーパース(PwC)や、アクセンチュアもAIへの投資を強化する方針を表明、今後3年間で、それぞれ10億、30億米ドルの投資を行うことを発表した。これらの動きは、特にジェネレーティブAI(生成的人工知能)のビジネスへの活用に対する関心が急速に高まっていることが背景にある。
「ChatGPT」の登場で話題のジェネレーティブAI
私たちの生活や仕事において、AIを一気に身近な存在にしたのが「ジェネレーティブAI」の普及だ。
「ジェネレーティブAI」とは、既存のコンテンツから学習し、画像やテキストといった創作物やプログラミングのコードなどを新しく作成し、アウトプットすることができる人工知能のことであり、このところめざましい進化を遂げている。特に米OpenAI社の「ChatGPT」は、基本無料という手軽さもあって、一気に世界中で活用が進んだ。
ジェネレーティブAIは、問い合わせ対応やコンテンツ作成、記録の要約、データ整理、プログラミングコード作成や修正、翻訳など、多岐にわたって業務の標準化、自動化に貢献できることから、様々な分野のビジネスソリューションとしての活用にも期待が高まっている。
マイクロソフトと協働し、ジェネレーティブAI活用を進めるKPMG
各社のAI関連投資を概観してみる。
KPMGは、マイクロソフトとの協働を進め、同社のOffice365をAIでさらに効率化するMicrosoft 365 Copilotと、OpenAIのAIモデルをMicrosoft Azure上のセキュアな環境で使用できるAzure OpenAI Serviceといった、マイクロソフト社の提供するAIサービスを活用したデジタルソリューションの構築を進めるとのことだ。
Microsoft Azure上にAI対応の企業の情報を一元的に登録、管理、および配信するナレッジ・プラットフォームを構築する計画や、クライアントのデータ分析に社内のアドバイザリーGPTツールの使用を進める計画も示されている。
クラウドベースのDigital GatewayプラットフォームにAIが効率的にデータを収集することで、税務の透明性に対するニーズの高まりに対応する企業の支援も行っていく。
KPMGオーストラリアはAIアシスタント試験導入に成功
これに加え、KPMGは、ジェネレーティブAI搭載の「バーチャル・アシスタント」などジェネレーティブAIツールを日々の税務管理業務で活用し、膨大な税務データの処理効率向上を進める方針だ。
同社は今年、オーストラリア拠点で、企業向けAIアシスタント「KymChat」の試験的導入に成功。顧客データを社内から流出させることなくジェネレーティブAIの恩恵を受けられるソリューションとして、今年中にKymChatのグローバル展開を進める予定だ。
採用、買収、トレーニングでAI人材8万人確保を目指すアクセンチュア
世界中にAIに関連した1,450件以上の特許と出願中の特許を保有し、myWizard、SynOps、MyNavといったプラットフォームを提供、AIによる業務の標準化、自動化に定評のあるアクセンチュアも、先日、30億米ドルのAI関連投資を発表している。
その目的の一つとして挙げられているのがAI関連人材の確保だ。同社は、この投資により、採用、買収、トレーニングを組み合わせ、AI人材を8万人に増やすとの目標を設定している。機械学習やディープラーニング、データサイエンスなどに精通し、AIシステムを構築・運用できる人材は大幅に不足していると言われており、人材確保に意欲を見せているようだ。
AIオートメーションのリーディングカンパニーアクセンチュアもAIに30億ドル投資
Accenture公式チャンネルより
アクセンチュアは独自AIナビゲーターや研究施設の立ち上げも予定
アクセンチュアのAI関連投資は、ジェネレーティブAIの活用を促進する事前構築済みの業種別・機能別モデルの作成にも充てられる。
また、顧客のAI戦略、AI活用シナリオ、ビジネスケース、責任ある運用指針の策定や、意思決定を支援するジェネレーティブAIベースのプラットフォーム「AI Navigator for Enterprise」と、ジェネレーティブAIやさまざまなAI機能を活用したサービスを再構築するための研究開発を行う「Center for Advanced AI」の立ち上げも計画されている。
さらに、米クラウドコンピューティング企業セールスフォースと提携し、同社の世界初の顧客関係管理用AIツール「アインシュタインGPT」を企業が利用するための新たなハブも設立予定となっている。
PwCもAI関連プロジェクトに多額の資金提供を予定
10億米ドルのAI関連投資を予定しているPwCも、前述の2社と同様に、自社のAIに関連した能力の強化と、クライアントAI活用支援を促進することを目的としている。
同社も、マイクロソフトのOpenAI Azureクラウドプラットフォームの活用を行っていく計画を示しており、これに加え、OpenAI社のGPT-4とChatGPTを使用した新しいジェネレーティブAI製品やサービスを提供、また、同社の社員全体のAI教育も進めていく。
この3社以外にも、大手会計・コンサルファームとしては、デロイトがジェネレーティブAIに限定した投資額については明言を避けているものの、「プロジェクト120」と呼ばれる14億ドルの技術開発投資の一部にAI関連事業を含めている。
Googleが開発する会話型人工知能「Bard」も今年3月に登場、5月に日本語対応となり、ますます注目されているジェネレーティブAI。
加速する大手コンサル企業のジェネレーティブAI関連投資は、この技術が様々な業界を変革し、ビジネスのあり方や仕事のやり方を大きく変える可能性を示している。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)