誰でもゲーム開発ができる時代へ。UnityのAIマーケットプレイス新設がもたらす可能性とは

2023年6月27日、世界最大のゲーム開発プラットフォームUnityが公式アセットストアにAIマーケットプレイス「AI-Hub」をオープンさせた。ChatGPTはじめ生成AIが存在感を高めるなか、ゲーム開発の世界にもついに登場した。

世界的ゲームエンジンUnityがAIマーケットプレイスを開始

今回Unityは、ゲーム制作のためのアセット(3Dモデル、テクスチャ、効果音など)を販売する「アセットストア」内にAIマーケットプレイスを新設し、生成AIを搭載した10のツールの販売を始めた。いずれもUnity公認の高性能AIツールであり、Unityのプロジェクトに無料で追加することができる。またUnityは同時に、新しいAIプラットフォーム「Unity Sentis」「Unity Muse」も発売した。

2005年にリリースされたUnityは、「Unityを使えばゲーム制作のほぼすべてができる」と言われる、世界中のゲーム開発者に愛されているゲームエンジンだ。サードパーティが制作した多彩なアセットを揃えたストアは魅力のひとつで、これらを組み込むことでアマチュアでもプロ顔負けのゲームをつくることができる。個人であれば無料版プラットフォームが利用でき、開発したゲームはストアで気軽に販売できる。現在、モバイルゲームの7割がUnityでつくられているという。

Unity Asset Store / AI-Hub

メタバースに変わる成長株として投資家が注目

そのUnityアセットストアに「AI」カテゴリーが登場したことで、市場は大きくどよめいた。6月27日の発表後、Unityの株価は42.38ドルと15%も上昇した。

米ウェルズ・ファーゴ銀行のアナリストBrin Fitzgerald氏は、今回の値動きは「投資機会」であると指摘。投資家の間におけるメタバースへの期待値がほとんど瀕死状態のなか、新たな投資ターゲットとして現れたUnityのAIアセットに一気に注目が集まったという。

Fitzgerald氏は「Unityはデジタルツインや企業向けシミュレーション製品など、ゲーム以外でも事業を拡大していくだろう」とメモに残している。

ゲームを超えて事業拡大か?

実際Unityは、これまでもゲーム以外の商用ツールも多く開発している。例えば「Unity BIM Importer」は、建物の図面のビジュアライズやシミュレーションの可視化に役立ち、大手ゼネコンや設計事務所などで使われている。自動車メーカー向けのパッケージ「Unity Industry Bundle」は、リアルタイムレンダリングによるプロダクトデザインや生産工程でのVRトレーニング、バーチャルショールームなどができる。その他にも、医療分野や災害シミュレーションなど、幅広い分野で活用されている。

UnityのCEOであるJohn Riccitiello氏はインタビューで、「生成AIによってゲーム開発はより安いコストで、スピーディーに、高品質を実現するだろう」と述べている。さらに、ゲーム業界の規模は、生成AIによって倍以上に拡大すると予測する。その理由として、生成AI市場はすでに銀行、小売、ハイテクのたった3つの業界で1.3兆ドルに達しており、生成AI市場全体では年4.4兆ドルの成長が見込まれていることを挙げている。Riccitiello氏は、この変化を「インターネットのめざましい発展、もしくはゲームの主役が2Dから3Dに移行したような自然で大きなもの」だと言う。

すべての分野をダイナミックに変革している生成AIは、ゲーム業界でも“ゲームチェンジャー”となるのは必至のようだ。

最先端AIを搭載した10のアセット

では最後に、AI-Hubで公開されている10のAIツールを紹介する。

1.Atlas
最先端の生成3DAI技術を使って、素早くにアセットの作成や仮想世界の構築ができる。

2.Convai
プロンプトによるAIキャラクターが生成できる。また、キャラクターは人間のような自然な会話が可能に。

3.AI NPC
先進的AIによりマルチモーダルなパーソナリティと文脈認識を備えた、リアルでインタラクティブなキャラクターを作成できる。

4.Layer AI
たった数クリックだけで、ゲームアートのパターンを無限に生成することができるツール。

5.Leonard AI
2Dアセットやテクスチャを変換し、ハイクオリティの3DフルUVテクスチャマップを簡単に生成するAIを搭載。

6.LMNT
リアルな人間の声を生成する音声AIにより、没入型ナレーションやリアルなキャラクター設計などを可能にする。

7.Modl.ai
ゲームテスト用ツール。ボットを使用して開発者のカバレッジを自動化・拡大することでゲームテストを簡素化する。エラーはクラウドプラットフォーム上に報告される。

8.Polyhive
プロンプトを与えることで、ほんの数分でハイクオリティな3Dアセットにテクスチャリングすることができる。

9.Replica Studios
AIボイスメーカー。性別、年齢、感情など詳細に設定でき、 Unityのプロジェクトに直接転送することができる。

10.Zibra AI
VFXの作成を簡素化。コードは不要、リアルタイムで高度なエフェクトを生成できる。

いずれもUnityの厳しい審査を通過した公認ツールであり、キャラクター、音声、3Dテクスチャ、特殊効果の自動生成やゲームテストの自動化ツールなど幅広く網羅している。しかもすべて無料で利用できる。

文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit

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