多くの企業が、持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいるが、ほとんどの場合、取り組みにはコストがかかる。コストと、サステナビリティのバランスをどう取っていけばよいか。Airbnbの最近の取り組みは、その解決に向けてのヒントとなりそうだ。
2023年5月、Airbnbは米国マサチューセッツ州のホストが賃貸住宅のエネルギー効率を改善するための支援を開始した。このプログラムでは、Airbnbからの奨励金として、ヒートポンプの設置に最大2,000ドル(約29万2,600円)、断熱材などの耐候性アップグレードに最大500ドル(約72,800円)がホストに支払われる。
この奨励金は、同州の電力会社が支援するエネルギー効率化プログラム「Mass Save(マス・セーブ)」を補完するものだ。ヒートポンプの購入時に、マス・セーブから最大1万ドルの補助金を得ることができる。また、連邦インフレ削減法に基づき、30%(上限2,000ドル)の税額控除も受けることができる。
さらに、このプログラムに参加するホストは、Abode Energy Management(アボード・エナジー・マネジメント)社から、購入の際に無料でアドバイスがもらえる。冷暖房システムの価格には数千ドルの幅があり、専門家なしで比較、検討するのが難しいからだ。
現在、マサチューセッツ州の住宅の暖房に用いられているエネルギー源のうち、50%は天然ガスで、25%は高価格の石油によるもの。ヒートポンプを使用すると、暖房用の石油を燃やす場合に比べて、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量が3〜5倍も少なくなる。しかも、運転コストが安い。
つまり、マサチューセッツ州のAirbnbホストは、Airbnbからの奨励金や州・連邦政府の優遇措置と組み合わせることで、最低でも数千ドルかかるヒートポンプを格安、もしくは条件によっては無料で手に入れることができるのだ。しかも、コンサルタントの無料アドバイスつきだ。
さらに導入後も、コスト削減が見込めるとなると、ホストにとっては、ヒートポンプの導入を躊躇する理由は見つからないのではないだろうか。
これこそが、Airbnbの狙いなのかもしれない。同州の法律を活用し、検討プロセスを簡単にすることによって、ホストが実用的な決断をし、即座に実行に移せるように後押しする。結果的に、環境に配慮した物件が増え、企業としても持続可能な取り組みへの貢献につながる。
企業の視点からみると、関係者の狙いをうまく合致させた見事な企画であると言える。Airbnbホストをはじめ、政策を立案した連邦政府や州、電力会社やコンサルタント、ヒートポンプ製造販売業者や住宅リフォーム業者、そしてもちろん、環境問題に真摯に取り組んでいるAirbnb、多くの関係者にとって良い話と言えそうだ。
また、宿泊者の視点で見ても、Airbnbを利用するときに環境に配慮しているかどうかという観点で部屋を選べ、持続可能な社会に少しでも貢献できているという実感が得られるのは嬉しい。
今回の取り組みは、Airbnbにとって、アメリカでは初めての試みであるが、2022年には、英国とフランスで同様のプログラムを開始している。今後、世界各国に同様の取り組みが広がっていくことを期待したい。
【参照サイト】Helping Hosts in Massachusetts make their homes more energy efficient
【参照サイト】Airbnb Will Chip In for Its Hosts’ Green Upgrades
【参照サイト】https://www.boston.com/real-estate/home-improvement/2023/05/02/airbnb-will-pay-its-mass-hosts-to-install-heat-pumps/
【関連記事】Airbnb、原点に返る。「誰かの家に安く泊まる」に特化した機能をリリース
【関連記事】Airbnb、売上の一部を寄付可能に。難民や被災者と住居をつなぐ新たな選択肢
(元記事はこちら)IDEAS FOR GOOD:Airbnb、家の省エネに取り組む「グリーンホスト」に金銭支援へ