ゴールドマン、アクセンチュア、マッキンゼーのAI未来予想

ChatGPT(GPT4)が米国司法試験でトップ10%の合格点を叩き出すなど、この短期間におけるジェネレーティブAIの進化は目を見張るものがある。

この進化スピードを鑑みると、ゴールドマン・サックスやアクセンチュア、マッキンゼーなど大手金融機関/コンサルティング企業によるAI未来予測は、かなり現実的なものといえるのかもしれない。

ゴールドマン・サックスは2023年4月5日に発表したレポートの中で、ChatGPTのような大規模言語モデルが普及することで、今後10年で世界の生産性は1.5ポイント上昇し、世界GDPは7%(約7兆ドル)拡大する可能性があるとの予想を展開。その上で、AIによる自動化が進み、世界のフルタイム労働者3億人に影響が出ると指摘している。

ジェネレーティブAIの影響が顕著に出ると見られているのが、管理職や弁護士などのホワイトカラー労働者だ。一方、建設や修理作業などのブルーカラー労働には「ほとんど影響がない」と評価。米国では、現在の職業の約3分の2が「ある程度のAI自動化にさらされており」、この職業のうち4分の1から最大で2分の1の業務がAIによって完全に自動化されると推計している。

一方、アクセンチュアも2023年6月13日、自社のAIチーム/ソリューション構築に向け今後3年で30億ドルの投資を行う計画を発表したが、この中で、今後10年でAIは産業・企業を変革するメガトレンドとなり、ジェネレーティブAIの普及によって、業務の40%が影響を受けるとの予想を展開している。

また翌日には、マッキンゼーが最新レポート「The economic potential of generaitve AI: The next productivity frontier」の中で、2030〜2060年(中間シナリオ2045年)には、現在の業務の50%がジェネレーティブAIによって自動化されると予想。これにより、年間2兆6000億〜4兆4000億ドルの経済価値が付加されると推計している。影響が大きい産業はリテール、銀行、旅行・交通・ロジスティクス産業。自動化による影響が大きい業務は、マーケティング/営業、ソフトウェアエンジニアリング、カスタマーオペレーションなど。

企業経営者は労働生産性向上に関心、KPMG調査

こうした10年以上先の未来予測に対して、企業の経営者たちは現時点でどのような展望を持っているのか。KPMGの最新調査が現在の状況をあぶり出している。

KPMGが2023年5月に発表した調査レポート(調査実施時期2023年3月後半)によると、225人の米国経営者のうち、ほぼ3分の2(65%)がジェネレーティブAIが今後3〜5年で組織に、大きな、または非常に大きな影響を与えると考えていることが明らかになった。

特に経営者らが期待しているのは、生産性向上の機会(72%)や働き方の変革(65%)。人間とジェネレーティブAIが連携する労働の新時代に向かっていると考える経営者が多い傾向があぶり出されたのだ。

一方、経営者らはジェネレーティブAIに対し期待を高めているが、実際のところ、具体的な事例が乏しく、実装には至っていない現状も同調査で判明。60%が最初のジェネレーティブAIソリューションの実装まで1〜2年かかる見込みと答えている。また、ジェネレーティブAIソリューションの開発コストが高いことに加え、セキュリティやデータプライバシーの問題も障壁になっているという。

スキルが低いほどジェネレーティブAIの効果高い、MITスローンの研究

KPMGの調査からは、企業経営者らの多くがジェネレーティブAIによる生産性向上に期待を寄せていることが分かった。

ジェネレーティブAIによって生産性はどれほど向上するのか。現時点では、それを定量的に示す調査は少ないが、最近になり少しずつ増えてきている。MITスローンが2023年4日に発表した論文はその1つだ。

同論文は、米国で中小企業にソフトウェアを販売している大手企業のカスタマーセンターを対象に、ジェネレーティブAIツールの利用によって、どれほど生産性が高まるのかを分析した。

それによると、AIアシスタントへのアクセス権を持つカスタマー対応社員の生産性が14%向上したことが判明、またその生産性向上の伸び率は、スキルレベルが低い労働者ほど高いことが分かった。スキルレベルが低い労働者は、AIアシスタントを活用することで、生産性が35%改善、一方スキルレベルが高く長い経験を持つ社員の生産性はほとんど変化しなかったという。

また、生産性が向上しただけでなく、顧客センチメントも改善されたことが判明。顧客が上司を呼ぶよう要求する回数は25%減少、他の部門への転送回数も減ったことが確認された。

同論文の著者らによると、この分析結果は、カスタマーセンターに関する他の様々な問題を改善する可能性も示唆している。たとえば、カスタマーセンターでは、マネジャーが低パフォーマンスの社員に対しトレーニングを行うのが通例だが、これには1週間で最大20時間が費やされているという。

ジェネレーティブAIを活用することで、マネジャーの時間を開放できるだけでなく、カスタマー対応社員のストレス軽減にもつながり、燃え尽き症候群や高い離職率といった問題の改善につながる可能性がある。カスタマーセンターでは、毎年60%の社員が辞めており、企業は1人の社員を置き換えるために最大で2万ドルを費やすこともあるという。

同論文は、この調査結果から、ジェネレーティブAIは労働者を置き換える存在ではなく、補完する存在であると強調。著者らは、企業が労働者にジェネレーティブAIがどのように仕事を補完するのかを教えることができれば、労働者の学習スピードが高まり、大きな違いを生むようになると述べている。

著名なフューチャリストであるバーナード・マー氏は、ハーバード・ビジネス・レビュー(2023年6月27日)の論稿で、AI普及による雇用喪失懸念に言及、その懸念は杞憂であり、実際のところ、AIが人間の仕事を奪うのではなく、AIに適応した人々によって取って代わられるようになるだろうと語っている。

文:細谷元(Livit