2022年に初めて消費者支出が減少傾向を示したスマホのアプリ市場。2023年に入って以降、一転して回復傾向がみられ関心が注がれている。

アプリインテリジェンスプロバイダのdata.ai がこのほど発表したレポートによると、今年上半期のモバイル消費者支出はプラス成長に転じたことがわかった。全世界のアプリ内支出は、前年比5.3%増の675億ドル(約9兆4千万円)に達し、ダウンロード数も3.2%増加した。

成長続きの市場、2021年から2022年

これまでずっと成長傾向にあったアプリ経済。2022年初めに発表された2021年をまとめた報告によると、iOSとGoogle Play、それに中国市場でのサードパーティAndroidアプリ市場全部を合せた総消費額はこの年1700億ドル(約24兆円)を記録。前年比19%の伸びで、成長率はと前年と比較してわずか1パーセンテージポイント及ばなかったものの、まずまずの成長率をキープした。

ダウンロード数は2300億アプリと過去最大の記録に達した。これは前年比5%の成長率で、前年の伸び率7%からやや減少。ダウンロード数をけん引したのは新興国で、インドやパキスタン、ペルー、フィリピン、ベトナム、インドネシア、それからエジプトだった。

アプリ利用時間の増加

レポートではまた、ダウンロード数の増加と共に、人々がアプリを使用する時間が増えたことも指摘していた。

これまで人々の娯楽の中心的存在であったテレビの視聴時間よりも、アプリの使用時間が長くなり、昨年アメリカでは1日平均テレビ視聴時間が3.1時間、モバイルデバイスの利用時間が4.1時間となった。さらにその傾向が顕著なのはブラジル、インドネシア、韓国市場で、ユーザーは1日に平均5時間以上モバイルのアプリを利用していることがわかっている。

報告書で取り扱った国のうち、同年のトップ10(ブラジル、インドネシア、韓国、メキシコ、インド、日本、トルコ、シンガポール、カナダ、アメリカ、ロシア、イギリス、オーストラリア、アルゼンチン、フランス、ドイツ、中国)市場を合計した平均利用時間は、1日4時間48分で、2019年から30%増加している計算となった。

この平均利用時間は2022年には3%増の1日平均5時間に上った。この年に利用時間の急増が見られたのはサウジアラビア、オーストラリア、シンガポール市場で、それぞれ前年比60%以上の伸びを見せている。

人気アプリのジェネレーションギャップ

利用時間が多いのは主に、ソーシャルメディア、写真、動画アプリの3種類で、2021年の統計でアプリ利用時間10分のうち実に7分をこの3種類に費やしている計算となった。また、アメリカのZ世代の統計では、これらの3カテゴリーに加えてエンターテインメント系のアプリが特に人気だった。

このランキングは2022年の統計で、ソーシャルメディア、ショートビデオ、動画シェアアプリに置き換わり、合計で全利用時間の49.2%とその割合が減少、利用アプリのカテゴリーが多様化していることがわかる。

また、2021年のアメリカでの統計を世代別に見てみると、Z世代が最もよく利用するアプリはインスタグラム、TikTok、スナップチャットとNetflix。一方でミレニアル世代は、フェイスブック、メッセンジャー、AmazonとWhatsAppだったことがわかっている。

X世代とベビーブーマーを合わせた統計では、ウェザーチャンネル、アマゾンのアレクサ、NewsBreak(地域ニュース)とRing(玄関の呼び鈴とセキュリティカメラのアプリ)であり、世代別の好みがそれぞれに異なり興味深い。

この傾向は2022年も同様で、Z世代は動画やUGC、マインドフルネス、それに友達探しアプリの利用が多く、それよりも年配の世代は、実用的アプリ(アマゾンやウォールマート、ウェザーチャンネル、ペイパルなど)が継続的に人気だ。

モバイルアプリ、消費者支出

アプリ利用時間の増加と共に増えたのが消費者支出だ。2021年のアメリカは、新型コロナウイルスのパンデミック真っただ中。自宅に居ながらにして自分自身で買い物や仕事、ゲーム、エンターテインメントを模索しなければならなかった時期でもあり、消費者支出は430億ドル(約6兆円)、前年比30%、104億ドルの増加を見せ、世界平均以上の伸びを見せていた。

コロナ禍にもかかわらず、もしくはコロナ禍ゆえに好調だったアプリ消費は、2022年に統計開始以来初めて陰りを見せた。20〜21年が19%プラスであったものが21〜22年は2%マイナスの1670億ドル(約23兆5500億円)にとどまったのだ。一方でダウンロード数は11%プラスの2550億ダウンロードを記録し、ダウンロードは増えたものの支出額が抑えられた形だ。

この支出の減少傾向は、ゲームアプリのダウンロードがほぼ単独でけん引していたアプリ消費に、サブスクがより収益を上げる分野として台頭してきたことにも表れている。2022年の統計で、ゲームアプリでの消費が5%マイナスであったのにもかかわらず、ゲーム以外の消費は6%アップ。これは配信サービスと出会い系アプリ、ショートビデオアプリによるものだった。

減少と回復の分析

またこの減少は、パンデミック後の急成長への短期的修正であったのか、市場がピークに達した兆候なのか、当初は明らかでなかったものの、このほどの2022年後半からの回復傾向からの分析で、経済の停滞やインフレによる消費者が倹約傾向であったことと前述の短期的修正の組み合わせの結果であったことが判明した。

パンデミックを経て、消費者心理にも変化が表れたともいえるだろう。起床時間のうちのほぼ3分の1をアプリ使用に費やしている現代人は、ゲームへの課金の代わりにより生活に密着したアプリを使用し始めている。なかでも多いのが、ソーシャルメディアやコミュニケーションのアプリに19.5%、ショートビデオに17%、動画シェアリングにアプリ使用時間の12.7%を費やしている計算だ。

ソーシャルメディアは、中国のWeChatをはじめWhatsApp、Facebook、メッセンジャーやLINEなど、ショートビデオはTikTokや中国のアプリ、動画シェアリングはYouTubeやbilibiliといったアプリがシェアのトップを占めている。これらのアプリ上での広告消費も増加傾向にあり、2022年には前年比14%アップの3360億ドル(約47兆円)を記録。

今後、ソーシャルメディア上での広告は減少が予測され、TikTokやYouTubeなどでの広告が主流になると予測されているが、data.aiは今後経済の逆風のもと、全般的に減少傾向になるであろうと警告している。

2022年の低迷から回復へ

2022年のダウンロード数は、ゲームが900億、ゲーム以外は1650億で前年比それぞれ8%と13%のアップ。中でも人気が高かったのは、ドライビングやハイパーカジュアルのシミュレーションゲーム各種。これに、個人ローンやBNPL(後払い決済)、クーポン&リワード、家計簿系アプリのダウンロードが急増した。

消費者の財布に関連するアプリ使用やダウンロードが増加する中で、減少傾向を顕著にしたのが暗号資産や投資アプリで、前年比55%のマイナスの急減を見せた。

一方で2023年の回復の兆しは、22年末から徐々に見えてきている。この時期は、年末商戦による新しいデバイスの入手、それに伴うダウンロード数のアップ、休暇シーズン中のアプリやゲーム支出の増加といった典型的な消費傾向がある。その後も今年上半期にかけて消費者の支出は増加傾向にあり、2023年6月末までの数字で675億ドルのアプリ支出と、全世界で768億のアプリダウンロードを記録している。

2023年上半期の消費者支出トップはTikTokで、半年で21億ドル(約2963億円)を計上。そのほか、Disney+、YouTube、デュオリンゴがトップの座を占めている。また、仕事効率化アプリやビジネス関連、ニュースや雑誌も成長傾向にある。

同報告書によると、全世界でのダウンロード数トップ3はTikTok、インスタグラム、Facebookで、消費額のトップ3はTikTok、YouTube、Tinder、月間アクティブユーザー数ではFacebookがトップ、次いでWhatsApp、インスタグラムの順となった。

AI搭載のアプリで真価が試されるアプリ市場

なお今後、最も注目を集めるのがChatGPTに代表されるAI関連のアプリだ。OpenAIは5月にアメリカでiPhone向けアプリをリリース。公開から6日間で50万ダウンロードを記録し、その後ダウンロード可能国を徐々に拡大。7月にはアンドロイド版アプリもリリースすると発表し、日本でも事前登録すれば、公開と同時に通知が受け取れるようにセットされ、市場での期待値は高い。

2022年の低迷から再度成長に回復しつつあるアプリ市場。パンデミックにより生活様式が一変してから元の生活に戻りつつある中で、新たなAIによるテクノロジーの発展も目覚ましい今日この頃。価格に敏感な消費者が、どのようなアプリに支出をしていくのかがアプリ市場の将来のカギになりそうだ。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit