「適正テスト」など採用面接で候補者を評価するAIツール続々。「人の心×ジェネレーティブAI」の課題と可能性

クリエイティブ業界を席巻する「ジェネレーティブAI」 

学習したデータに基づいて高品質なテキストや画像、その他のコンテンツを生成することができる「生成(ジェネレーティブ)AI」。仕事でガッツリ活用していなくても、画像生成AIのStable Diffusionや派生アプリにイラストを作成してもらったり、ChatGPTにふとした疑問を投げかけてみたりしてそのパワーを体験した人は多いのではないだろうか。

たとえば今では誰もが使っている印象があるOpenAIのChatGPT が一般利用向けにリリースされたのは、2022年11月。全世界で1億人のユーザーを獲得するまでに2カ月しかかからないかったという普及スピードは、同9カ月のTikTokや同1年間のGoogleに大きく差をつけてIT業界イノベーション史上最速といって間違いないだろう。

AIが「認識」までしかできなかった時代から、一般事務員や銀行員といったいわゆる「事務職」や、交通手段や店舗などのオペレーションに携わる職業が将来は不要になると言われてきた。しかしAIが「生成」もするようになると、美術や文学、コーディングといったアートや技術の業界も騒然とし始めた(ちなみにこうして文章を書く仕事など、真っ先にAIに取って代わられるとされている)。

一方でAIを「アーティスト」として活用するにあたり、著作権や情報漏洩の問題などクリアする課題は山積しており、生成AIの普及スピードと裏腹に議論はまだ始まったばかりの感もある。指数関数的に加速するAIの発達を私たち人間が後追いしている、という印象がぬぐえない。

「人の心×AI」の相性は?

「では、AIに取って代わられない職業は?」という話題になった際に、真っ先に上がるのは当然、そのAIのオペレーションに携わるIT系の業種。それと同列に「AIが代われない」とされているのが、教師や心理士、介護職といったいわゆる人同士の触れ合いが大切になる援助職だ。

教育も医療も介護も、人のウェルビーイングという数値化しにくいものを扱う職業である以上、どうにもこうにもAIが代われない部分は残るだろう。

本日の主役の心理学に限って言えば、それはあくまで「科学」であるという面もある。「黙って座ればピタリと当たる」的なスピリチュアルと混同されることも多いが、一度でも大学などで心理学を勉強したことのある人は、社会心理から臨床心理に至るまで全て「データ」と「エビデンス」が基礎であることを知っている。「文系なのになぜこんなに統計を扱わなければならないのだ」と泣いた経験のある元心理学専攻学生は筆者だけではあるまい。

特に職業への適性を測るために人の能力や人格をデータで可視化しようという試みには、私たちが思っているよりもずっと長い歴史がある。中国の皇帝は紀元前2200年の時点ですでに、官吏が公職に適しているかどうかを判断するための適正テストを3年ごとに実施していたという。

現代における心理測定学は、1887年にケンブリッジ大学の研究所で創設されたとされている。その後20世紀初頭の教育や軍事目的のためのスタンフォード・ビネー式や陸軍アルファ・ベータ・テストのような知能テストの作成を経て、今日では項目反応理論(IRT)や構造方程式モデリング(SEM)のような、高度なコンピュータ・アルゴリズムと複雑な数学的モデルを用いたテストが主流になっている。

「適正テスト」の活用と限界

みなさんの中にも、就職試験に際してなんらかのパーソナリティテストを受けた、または採用の担当として活用しているという方もいるかもしれない。

アメリカではFortune 500にランクインする企業の80%が、採用活動に何らかの適正測定テストを利用しているという。人材の将来の企業への貢献度という極めて測定・数値化しづらいものを短期間で見極めなければいけない採用プロセスにおいて、指標の一つとして適正テストは頼られる存在のようだ。

ただ同国で最も活用されているテストはユング心理学に基づいた1962年初版のMBTI(マイヤーズ=ブリッグス・タイプ指標)であることもあり、現代の労働市場における特定の職業への適性を正確に測定しているか否かには常に疑問が投じられている。

ニューヨーク・タイムズによると、そういった適正テスト市場は米国だけでも年間20億ドルのマーケットを形成しており、さまざまな角度から人材の価値を測るツールが日々開発されている。

候補者を評価するAIツールの新顔 

そんな中、最近注目を浴びているもののうちの一つが、米ミルウォーキーに本社を置く16年の歴史を持つTalent Select AI社が開発した同名の測定ツール。候補者による自己分析や回答という指標を完全に排除した、NLP(自然言語処理)を活用するタイプの分析ツールだとのこと。

同AIモデルは、面接で候補者が発言した内容の中からテキスト部分のみを分析対象にすることが他との最大の違い。発した言葉の選択と会話の文脈を照合し、心理と性格特性を分析できるというが、音声やビデオを使用しない理由は、候補者の外見やアクセントが評価プロセスに入り込む余地があると特定の人種や民族に対する偏見が生じるリスクがあるからだ。

積極性やリーダーシップからライティングやプレゼンテーションのスキル、共感性や粘り強さまで、同社独自の指標も含めた総合的な評価を提供する中で、現在までの研究により入社後のパフォーマンスと相関関係があると証明されている特性を特に正確に測定するという。

同社CTOのWill Rose氏は、「候補者が特定の役割や企業文化に適合するかどうかを言葉だけで判断することにより、採用後の仕事のパフォーマンスを予測することができます」と語り、また、面接と別に心理測定テストを行う必要がないことは、雇用者にとっても求職者にとっても時間と気力体力の節約となり、両者のエクスペリエンスの向上にもつながるとプロモートしている。 

同社の見積もりによると、このツールを利用することで候補者を採用するまでの時間が50%以上短縮され、過小評価され見過ごされがちなグループから採用される候補者が80%増加する。また、同ツールを利用したユーザーの98%が「誰を採用するかという決定により自信が持てるようになった」とレビューしている。

ちなみに同社CEOのStuart Olsten氏は1975年から人材派遣会社を経営してきた筋金入りのヒューマンリソース専門家。以下COOのHeather Thomas氏、顧問委員のMichael Campion博士など、人事に関わる経験や研究歴の長い専門家が経営に携わっていることからも、AIフィールド発の他のツールと一線を画すのではと期待が寄せられる要因になっている。

「採用お助けAIツール」続々…メリットと危険性 

同製品以前にも採用をサポートするAIツールは数多くリリースされ、利用も普及している。

まずは募集の段階を助けてくれる、候補者調達ツール。オンラインの履歴書やSNSプロフィールなどのビッグデータを解析して一致する可能性の高い候補者を見つけてくれるArya、hireEZ、Fetcherなどが人気だ。

次のステップ、候補者の中からより有望な人に絞り込んでくれるスクリーニングツールは、提出された履歴書やその他のデータを解析するBeamery、Humanly、Pomatoなどが人気。

数はまだ少ないものの、オンライン面接を自動的に行って動画を解析し、最終的な採用の意思決定までしてくれるMyInterviewやTalocityといったツールもあり、世界の採用担当者はどんどん採用の作業を効率化しているようだ。

実際、どうしても個人的な好みや当日の機嫌といった主観を完全に排除することはできない人間よりも、AIのアルゴリズムで客観的にデータを解析した方が、候補者の将来の企業への貢献度を正確に予測できると見る風潮もある。

ポーランドに拠点を置きAIカスタマーサービスツールを提供するTIDIO社が最近行った調査によると、Z世代の採用担当者の29%が将来採用の仕事はAIに取って代わられると考えており、採用プロセスにAIを導入することにメリットがあると回答した率は、全世代の求職者のうち89%、採用担当者の95%といずれも高い値を示している。

また、採用担当者のうち実に79%が「採用活動は人間が直接かかわらなくてもよい」と考えている一方で、求職者の56%は「最終的な決定は人間がすべきだ」と考えており、ものすごく平たく言って「AIの方が正確だし別に俺たちがやらなくても」という採用側と、「最後まで人間と一言も話せずに機械に不採用を言い渡されるのはさすがにちょっと納得がいかない」と感じている(かもしれない)求職者側の温度差も浮き彫りになっている。

その他、回答者が感じているAI採用プロセスの危険性に関しては、「ユニークな長所や経験を持つ人材の見落とし」「アルゴリズムによりおかしな偏見が生まれる可能性」「候補者によってAIが操作される可能性」などが挙げられており、現状では「AIの採用活動における活用はある程度までは明らかにメリットがあるが、最終的には人間が意思決定を行うなどハイブリッドが望ましい」というあたりが平均的な印象のようだ。

日本の採用活動の伝統芸である「手書きの履歴書必須」は海外では非効率的で求職者に無用な苦労をかけるガラパゴス的習慣と驚かれることも多いが、AI採用ツールが発達すれば採用側も求職側も「手書き履歴書」から解放される日が来るかもしれない。

もっとも日本の場合は逆に、「手書き履歴書分析AIツール」などという独自の文化が発達する可能性も捨てきれない気もするが…。 

文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit

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