ウェブサイトへのトラフィックが若干下落したChatGPT
今後年平均35.6%で成長を続け、2030年には1093億ドルに達すると予想されるジェネレーティブAI市場(Grand View Research予測)。ChatGPTを開発するOpenAIだけでなく、OpenAIの元研究者らが立ち上げたAnthropic、アルファベット傘下のAI企業ディープマインド、イーロン・マスク氏が新たに立ち上げたxAIなどの参入により、競争は激化する見込みだ。
現在、ジェネレーティブAI市場で最も利用者が多いとみられているのがOpenAIが展開するChatGPT。Exploding Topicの7月13日時点のまとめによると、ChatGPTの現在のユーザー数は1億人以上という。しかし後発組の追い上げなどの影響で、ChatGPT利用者の増加率は若干停滞気味となっている。
ChatGPTウェブサイトへの訪問回数は、ChatGPTがリリースされた2022年11月から右肩上がりで増加してきたが、直近6月のデータでは、訪問回数が前月比で減少したことが判明したのだ。ChatGPTがリリースされた2022年11月の同ウェブサイトへの訪問回数は1億5270万回、以降同年12月2億6600万回、2023年1月6億1600万回、2月10億回、3月16億回、そして4月に18億回に達したが、現時点ではこれがピークとなり、5月には変動なしの18億回、6月には16億回と前月に比べ2億回減少した。
Similarwebのデータ(2023年7月27日時点)によると、国別で見たChatGPTウェブサイトの利用者割合は、米国が12.12%で最大となっているが、米国における利用者は17%減少したという。2番目は、インドで、利用者割合は7.61%だが、インドも利用者の増減はマイナス2.38%となっている。また、利用者割合4.17%で3番目に位置する日本もマイナス4.34%と減少傾向にある。
ウェブサイトへのトラフィックが停滞している理由の1つとして、OpenAIが5月にローンチしたChatGPTのスマホアプリの影響も考えられるが、Sensor Towerのデータなどでは、モバイルアプリのダウンロード数も6月初旬をピークに下降傾向であることが判明している。
Bard史上最大のアップデート
OpenAIが開発するChatGPTへの有力対抗馬として長らく注目されているのがグーグルの「Bard」だ。
7月13日のアップデートにより、機能が拡張されたことで、ChatGPTに対する競争力が向上、ChatGPTのユーザーがどれほど流入するのかが注目されるところとなっている。
この最新アップデートにおける注目点の1つは、巨大市場である欧州連合(EU)での展開が開始されたことだ。
ChatGPTを脅威認定したグーグルは2023年2月に急遽Bardを発表。その後3月から米国と英国で早期アクセスプログラムを開始した。さらに5月以降、日本語サポートなどを追加しつつ、グローバル展開を目指したが、EU規制当局が懸念を表明したことを受け、EU域内でのBardのリリースを見送っていた。今回、規制当局に求められていた情報の提供を完了したことで、EUでのリリースに至ったものと思われる。EUの他には、ブラジルでもBardの提供が開始された。
グーグルは、今回のアップデートを「最大の拡張(biggest expansion)」と呼んでおり、欧州展開以外にも目玉となるアップデートを発表している。
まず、Bardが対応できる言語数の拡張だ。アップデートにより、アラビア語、中国語、ドイツ語、ヒンディー語、スペイン語など世界40以上の言語に対応できるようになった。これに関連して、Bardが生成したアウトプットを各言語で音声化することも可能となった。右上に表示されるスピーカーアイコンをクリックすることで、アウトプットされたテキストを音声化してくれる。
Bardのアウトプットスタイルを変更することも可能だ。シンプル、ロング、ショート、プロフェッショナル、カジュアルの5つの選択肢から、必要に応じてスタイルを変更できる。現在、この新機能は英語での利用に限定されているが、今後他の言語でも利用できるようになるという。
ChatGPTを意識した機能の実装
ChatGPTを意識したアップデートもいくつか実装された。
1つは、Bardとのやり取りをピン留めする機能の追加だ。これまでBardでは、やり取りを記録することができず、過去のプロンプトやアウトプットを確認することができなかった。やり取りの記録機能はChatGPTではデフォルトで利用可能になっている。Bardに追加されたこのピン留め機能は、言語に関係なく誰でも利用できる。
ChatGPTでは7月6日に、有料ユーザー向けにPythonを利用できる「Code Interpreter」のベータ版がリリースされ大変注目を集めた。この機能は、ChatGPTにCSVファイルなどを読み込ませ、Pythonで様々な処理ができるようになるもの。データ分析やグラフ作成作業などをほぼ自動化できる機能で、コミュニティでは、その活用可能性を模索する取り組みが広がっている。
グーグルはこれに対抗し、Bardが生成したPythonコードをGoogle ColabとReplit(ブラウザ上で利用できる統合開発環境の1つ)にエクスポートする機能を実装した。また他のシェア機能も拡充し、アウトプットをGoogle DocsやGmailのドラフトにエクスポートする機能が追加された。
今回のアップデートで最も目を引いたのは、Bardとグーグルレンズの統合かもしれない。これにより、Bardに画像ファイルをアップロードし、その画像を分析させ、商品検索やキャプション生成、さらには旅行計画策定などができるようになった。現在この機能は英語のみに限定されている。日本からは、グーグルアカウントで使用言語を日本語から英語に変更することで利用することができる。
Bardは無料で利用可能だ。一方、ChatGPTもGPT3.5は無料で利用できるが、GPT4、プラグイン、Code Interpreterなどの目玉機能を利用する場合、月額20ドルのサブスクリプションプランを購入する必要がある。無料という条件で、BardとGPT3.5を比べると、Bardに軍配が上がるのかもしれない。実際様々なメディアでは、BardとChatGPTの比較がなされ、分野によってはBardがChatGPTを凌駕していると報告されている。
アップデート後のBardの幻覚症状
グーグルBardといえば、他のチャットボット同様に時折、幻覚症状に陥る問題が指摘されていたが、最新アップデートでは改善したことがうかがえる。
2023年5月末、「What is the book “The Inflation Wars: A Modern History” by Peter Temin about?(ピーター・テミンによる『The Inflation Wars: A Modern History』は、どのような書籍か)」というプロンプトをBardに入力すると、このような書籍は存在しないにも関わらず、これはインフレの歴史と政策が論じられた書籍であるとの回答を生成した。
今回のアップデートにより、この質問に対しどのような回答が生成されるのか試してみた。
結果は以下に示す通り、Bardは「これは書籍ではありません。幻覚症状により、生成してしまった誤った情報です」と誤りを認めたのだ。さらには、このトピックに興味がある場合、ピーター・テミン著「Did Monetary Forces Cause the Great Depression?」などがオススメであるというレコメンドまで示した。実際に、この書籍が実在するかを調べたところ、MIT経済学部のワーキングペーパーとして、1973年4月にピーター・テミン氏によって執筆されたものであることが確認できた。
ChatGPTを含め多くのジェネレーティブAIツールは、これまで一般消費者向けに展開されてきたが、今後は各社、プライバシー機能を強化しつつ、エンタープライズ向けの展開に注力することが見込まれる。OpenAIのChatGPT、グーグルのBard、AnthropicのClaude2など、各社・各AIツールのアップデートから目が離せない。
文:細谷元(Livit)