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バルト三国で2番目に大きな都市であり、成長著しいテック産業が根付いているリトアニア。その首都ヴィリニュスに、巨大スタートアップ施設「Tech Zity Vilnius」が建設される予定だ。2024年のオープンを目指している。
1億ユーロを投じ、リトアニアのインフラ開発企業Tech Zityによって開発されるこの施設は、5万5000平方メートルの広さに、5000人のIT関連人材が集まる予定となっている。主なターゲットはスタートアップ企業だが、最終的にはコワーキングスペースで仕事をするフリーランサーから小規模な企業まで、様々な利用者を対象とするものになる。
現在、欧州最大のスタートアップハブは、パリに今年オープンした「Station F」だが、「Tech Zity Vilnius」は、それをさらに超える規模となる計画だ。
「都市の中の都市」がコンセプト
この「Tech Zity Vilnius」プロジェクトのコンセプトは、「city within a city」、「都市の中の都市」という言葉で表されている。
仕事と生活の両面から利用者のニーズに応える複合的な施設として、オフィススペース、会議やイベント用の講堂などに加えて、短期賃貸と長期賃貸の両方に対応できる居住スペース、利用者の交流を促進し、拠点を置く企業がゲストを迎える際のニーズに応えるためのレストラン、バー、スポーツ施設、文化・教育施設も用意される。
建物は、ヴィリニュス新市街の使われなくなった工業スペースにある、旧ソ連時代の古い縫製工場を、天井高7メートルの開放的なオフィスフロアへとリノベーションし、ミシンの部品を椅子や電話ボックスに転用したり、古い換気システムを会議室のテーブルやキッチンの備品に再利用したりと、欧州でトレンドのリノベーション・プロジェクトにインスパイアされたデザインになる予定だ。
Tech Zityはリトアニアのスタートアップ施設の開発をリード
このプロジェクトのディベロッパーであるTech Zityは、かねてよりリトアニアのスタートアップ向け施設の開発をリードする存在として知られている存在だ。
これまで、首都ヴィリニュスとその周辺で、Google、Bored Pandaなどのグローバルテック企業が入っており、古い病院を改築した建物がユニークな「テック・パーク」、シード段階のスタートアップをターゲットとする「テック・ロフト」、コワーキングとイベントのハイブリッド・スペースである「テック・アーツ」、ワーケーション施設「テック・スパ」の4施設を立ち上げている。
発展に期待が寄せられているリトアニアのテックシーン
日本ではリトアニアといえば、世界遺産の広大な旧市街や「命のビザ」の杉原千畝氏が知られているものの、テック系スタートアップが活躍する国というイメージはそれほど強くないかもしれない。
2022年に投資家から2億2200万ユーロの調達を果たしたリトアニアのスタートアップ市場だが、英国の300億ドル、フランスの135億ユーロと比較すると、欧州の主要テックハブになるには、いまだ長い道のりが残されているといえる。
しかし、Tech Zityの創業者ダリウス・ザカイティス氏は、30年前に同社を起業したとき、200人程度しかいなかったリトアニアのテック・エコシステムが、今や1万8000人ほどに達しており、特にここ10年ほどのテックシーンの成長は著しいと語る。
リトアニア発でグローバルに活躍するユニコーン企業も登場しつつあり、これからの発展に大きな期待が寄せられている国なのだ。
急成長するリトアニア発スタートアップ
リトアニア発、急成長中のテック企業のひとつは、オンラインマーケットプレイスの「Vinted」だ。2008年に創業され、衣料品やアクセサリーの新品・中古品のオンラインマーケットを運営する同社は、2019年にリトアニア発のユニコーン企業となり、評価額45億ドルで約5億6200万ドルを調達した。
59カ国でサービスを提供するNordVPNで知られるNord Securityもリトアニア発のテック企業だ。同社は昨年、初の機関投資家向け資金調達を行い、評価額は16億ドルに到達し、リトアニア以外にイギリス、パナマ、オランダにも拠点を置く。
この2社はともに、Tech Zityから数百メートル離れた場所に本社を置いており、このエリアがリトアニアのスタートアップハブとして成長していくことを予感させる。
リトアニアのテックシーンは女性の活躍でも注目
リトアニアのスタートアップシーンが欧州で注目されつつある理由のひとつとして、多くの国で課題とされているテック系スタートアップにおける女性の進出が進んでいることもあげられる。
スタートアップ・リトアニアによる最近の調査では、同国のスタートアップの約38%に少なくとも1人の女性共同創業者がおり、昨年は、資金調達ラウンドに女性創業者がいた企業が、ドイツの20.3%に対し、リトアニアでは28.5%であった。
背景として、リトアニアは女性の科学者やエンジニアが58%と、それぞれ28%と29%しかいないアメリカやオーストラリアと比較しても多いことや、テック分野の女性メンタリング・プログラムである「Women Go Tech」、女性投資家を創出するための「Women Investing In Tech」といった、教育・支援プログラムが充実していることがあげられている。
リトアニアのシリコンバレーを目指す「Tech Zity Vilnius」
スタートアップ施設「Tech Zity Vilnius」計画の背景には、リトアニア政府がさらなるユニコーン企業の増加や、アクセラレーターの誘致に力を注いでいることがある。この施設が、リトアニアの首都におけるスタートアップハブとなり、ひいてはヨーロッパにおけるシリコンバレーのような存在になることを目指しているのだ。
Tech Zity社の創業者ダリウス・ザカイティス氏は、リトアニアで現在、様々な場所に散らばっているスタートアップやテック企業が、一緒になって知識や経験を交換する機会を大切にしていきたいと語っている。Tech Zity Vilniusは、若いスタートアップが課題や問題に直面した際に、先駆者たちから支援を得られる場として開発が進められる予定だ。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)