コロナ禍を経て、日常生活のスタンダードになったオンラインフードデリバリーサービス。飲食業界にとっても一つの販路として定着し、ブランディングや差別化に積極的な店舗も増えている。業界内で注目されているのが、売り上げアップやブランディング向上などに関するコンサルティングを展開する専門代理店だ。各代理店は飲食店を成功に導くべく、デジタルスキルなどを駆使しながら、ビジネス変革のサポートに奔走する。

こうした流れを受け、フードデリバリー業界をリードするUber Eatsは、新たなモデルを生み出した。2023年2月にローンチされた「Uber Eats 認定コンサルティング 代理店制度 」は、コンサルティング事業者に対し、信頼できる基準をUber Eatsが設けることで、飲食店が適切なパートナーを見つけ出せる仕組みである。

アフターコロナの新たなビジネスモデルを探る時、今回の認定代理店制度は、一つのヒントを与えてくれるかもしれない。本記事では、Uber Eats Japan 代理店営業部の中澤英誠氏、認定代理店であるLisa Technologies 株式会社 代表取締役 CEOの西村龍紀氏、同・カスタマーサクセスグループの志水優子氏へのインタビューを通じ、業界の最新動向を探っていく。

成熟を迎える、アフターコロナのフードデリバリー

Uber Eatsが日本でサービスを開始したのは2016年。コロナ禍による営業・外出制限を経て、フードデリバリーサービスは社会に広く定着した。コロナが収束に向かう現在、業界はどのような状況にあるのだろうか。「市場はまだまだ成長する」と、Uber Eats Japanの中澤氏は説明する。

中澤氏「コロナ禍におけるフードデリバリー業界の年間売上総額は、急激に成長しました。『コロナが収束して市場は縮小する』といわれていますが、Uber Eatsは今年に入ってからも2桁成長と、依然として高成長を続けています。あるアンケートでは、約8割のエンドユーザーが、コロナ禍が終わってもフードデリバリーを利用し続けたいと回答しており、私たちも伸長が続くと考えています」

業界全体を大きく超えるスピードで、2桁成長を維持しているのがUber Eatsだ。最近は夏木マリ氏を起用したCMが話題を呼んでいるが、新たなユーザー獲得に積極的な姿勢が表れているのだろう。

中澤氏「コロナ禍で利便性に気付き、手放せないサービスとして受け入れていただいた方々が、現在のコアユーザーになっています。こうした流れを加味するならば、時間にゆとりのない子育て世代など、新たなユースケースは多いと考えました。サービス開始時は20〜40代だったユーザー層も、現在はシニア世代にまで広がっています。対象エリアも拡大しており、全体需要に占める地方の割合も増えているところです」

店舗側から来る登録・相談の問い合わせ件数も、相変わらず堅調だ。ただし“出店すれば売れた”コロナ禍とは異なり、アフターコロナでは運用と改善が売り上げを左右するようになったという。

Uber Eats Japan 代理店営業部 中澤英誠氏

中澤氏「競争率が激しくなったことで、加盟店様の売り上げにおいては二極化が生じている状況です。ただし、売り上げに悩む加盟店様であっても、Uber Eatsが持つベストプラクティスを取り入れていただくことで、大幅な改善を見込むことができます。私たちは加盟店様に向けた多彩なサポートを用意していますが、自社のリソースだけでは対応し切れない部分があるのも事実。そこで、コンサルティング会社の皆様とのパートナーシップを強化しようと、認定代理店制度の導入に至りました」

オンラインフードデリバリーなど専門的なノウハウに精通し、店舗の成功をサポートするのが、飲食店向けのコンサルティング会社の役割である。次に、飲食コンサルの現況と、Uber Eatsの認定代理店制度について、詳しく見ていく。

多様化する飲食コンサルを支える、Uber Eatsの新たな制度

オンラインフードデリバリーが定着する以前から、飲食店に対するコンサルティングサービスは存在していた。口コミサイトやSNS、SEOへの対策や業務オペレーションのデジタル化などが、その例として挙げられる。

西村氏が2017年に創業したLisa Technologiesも、かねて飲食店との関係を強化してきた事業者である。「外食にテクノロジーを」をミッションに掲げ、かつては店舗のリピート率をデータベースで分析できるサービスを提供していた。しかしコロナ禍により顧客店舗が逼迫する状況になり、主力事業をシフト。2020年にフードデリバリーの運用サポート事業にかじを切った。

西村氏「当社では現在、オンラインフードデリバリーの出店・運用をサポートする『フードデリバリーマネージャー』、フードデリバリーのフランチャイズブランドに加盟する際に適切なマッチングを支援する『huriuri(フリウリ)』を展開しています。どちらもクラウドサービスがベースですが、社員の多くはコンサルタントとして直接現場に赴き、フードデリバリーに関する支援をさせていただいています」

Lisa Technologies 株式会社 代表取締役 CEO 西村龍紀氏

同社のカスタマーサクセスグループに所属する志水氏は、現場でコンサルティングに従事する一人だ。自身が飲食店スタッフの出身であり、その経験を生かして各店舗の課題解決に当たっている。

志水氏「『キッチンやホールでどのような問題が生じているか』『フードデリバリーに適切なリソースを割けているか』など、課題は店舗様ごとに異なります。例えば高齢の店主様ですと、デジタルデバイスを十分に使いこなせず、Uber Eatsへの登録自体が障壁になっているケースもあります。そうした個別の事情に向き合い、適切なサポートを施していくことが、私たちの役割です」

アフターコロナにおいては、店舗側から求められるニーズもさらに多様化している。イートインでの集客が復活する中、フードデリバリーにどのような価値を期待するかは、店舗によって異なるからだ。

志水氏「飲食業界では人手が不足しており、適切にリソースを配分しながら利益率を高めることが最重要課題です。例えば、アイドルタイムにオペレーションを簡略化した商品だけをデリバリーで展開し、少ない労力で売り上げを上げるといった手法などが、求められるようになっていると感じます。また、フードデリバリーへの出店には認知度向上という側面もあり、必ずしもイートインと切り離して考えることが正解ではありません。経営全体の観点に立ち返り、適切にオンラインフードデリバリーを運用していくことも、私たちに求められる動きです」

Lisa Technologies 株式会社 カスタマーサクセスグループ 志水優子氏

他方、多くの飲食コンサルがデリバリーに参入したことで、店舗側には信頼できるパートナー探しが困難になるという、新たな課題も生じている。そこでUber Eatsが始めたのが、「Uber Eats 認定コンサルティング代理店制度」だ。

中澤氏「良くも悪くも、誰もが名乗るだけで参入できてしまうのが飲食コンサルです。知識やノウハウを持たないまま、顧客店舗の売り上げを高めることなく、報酬を受け取る事業者も存在します。業界の健全性を保つために、Uber Eatsが公認の代理店を設けることが、プラットフォーマーとしての責任だと考えました」

こうした背景から、今回の認定代理店制度では、段階的な審査基準が設けられている。認定代理店になるためには、コンサル経験の有無は問われないが、前提条件として飲食店とのネットワークを備えていなければならない。真摯に加盟店の課題に向き合うかを審査するためだ。条件をクリアした代理店はビジネスプレゼン審査を経て、正式な認定を取得する。

コンサルティング認定代理店となる条件や活動内容

中澤氏「さらにその後、各代理店様は四半期ごとのパフォーマンスにより、『Trial』『Official』『Silver』『Gold』のランクを付与させていただきます。名刺へのUber Eatsのロゴ記載、Uber Eatsのホームページ内での紹介など、ランクに応じたインセンティブを受けることができます」

厳格な審査制度の一方で、パフォーマンス向上のための支援は手厚く用意されている。各代理店にはUber Eatsの専任担当者がつき、定例会を通じた情報共有、トレーニングを受けることが可能だ。

中澤氏「例えば、Uber Eatsが新規機能を追加する際には、いち早く代理店様に情報を提供し、加盟店様が迅速に導入できる体制を整えています。また、トレーニングではUber Eatsが日本独自で構築したフレームワークを、レベルに応じて共有していきます。一方でフレームワークではカバーできない、加盟店様ごとの個別課題に対しては、直接相談いただき、私たちがデータ分析・アドバイスすることも可能です。当社の知見を代理店様に活用していただくことが、認定代理店制度の最大のメリットだと考えています」

四半期毎にパフォーマンスによって認定代理店のランクが振り分けられる

ビッグデータ活用で可能になる、ケース別の課題解決

では、認定を受けた代理店は、具体的にどのようなサービスを提供できるのだろうか。Lisa Technologiesのケースを見ていこう。

西村氏「認定代理店はUber Eatsよりオリジナルダッシュボードが提供され、注文数やメニュー数、写真数、リスティング広告の設定状況など、細かな項目をデータ上で把握することができます。これらをもとに、フレームワークをベースにしながら新たな改善施策の提案を行うことが、基本的なフローです」

Uber Eatsより提供されるオリジナルダッシュボードのイメージ

志水氏「当社の場合、まずは店舗の魅力をエンドユーザーに分かりやすく伝えることを念頭に置き、ページを構築していきます。その後はリピーターを獲得できるように、ヒーロー画像といわれる看板写真に季節性を盛り込むなど、中長期的に伴走を進めていきます。さらに実店舗に追加してバーチャルレストラン(※)で運営する業態の提案や、huriuriを活用したフランチャイズ加盟など、利益を高める提案も行う場合があります。その際はオペレーションも煩雑になるため、タブレットで一括管理できるアイテムを導入するなど、効率化をサポートすることも必要です」

デリバリーにおいてコンサルタントが求められるのは、加盟店が求める成果に結び付けること。「独自の戦略を、加盟店とともに構築していくことがポイントになる」と、西村氏は語る。

西村氏「イートインの場合、いかに来店してもらい、満足してもらうかが、最も重要なポイントになるでしょう。一方でフードデリバリーは、デジタル領域での勝負。『そもそもPVを獲得できているか』『カートに追加しても注文が確定しないのはなぜか』と、各コンバージョンを細かく分析するマインドが必要です。しかし、多忙な飲食店のスタッフさんに、そこまでの運用を強いることは現実的ではありません。そこに代理店が提供すべき価値があるのではないでしょうか」

志水氏「私たちの力だけでは解決できない課題も多く、Uber Eatsさんとの連携は重要になります。忙しい店舗では、デリバリーを限定したいという要望をいただくケースが多いですが、単純にサービスを縮小するだけではユーザー満足度も下がってしまう。そうした際にUber Eatsさんに相談すると、ユーザー満足度を維持しながらオペレーションの負荷を下げる方法を提示してもらえます。Uber Eatsが蓄積してきたノウハウにアクセスできることは、私たちのアドバンテージになっています」

手厚いサポートを提供するUber Eatsだが、それは「加盟店の売り上げ向上という根源的な目標を、代理店と共有しているから」だと、中澤氏は語る

中澤氏「『Uber Eats 認定コンサルティング代理店制度』において、当社と代理店様の間での金銭授受は生じません。代理店様が加盟店様に請求するコンサルフィーも、全てお任せしています。適正なコンサルティングで加盟店様の売り上げを上げることが、必然的に私たちの売り上げにつながるからです。需要と供給がバランスを崩し、プラットフォーマーだけが利益を搾取することは、Uber Eatsの望む世界ではありません」

※バーチャルレストラン…客席を持たず、デリバリーに特化させた業態。すでに店舗を持っている場合、同じ家賃支出の中で収益を上げることができる

補完し合うパートナーシップが、飲食業界をアップデートさせる

認定代理店となり、自社の事業も成長させているLisa Technologies。顧客との契約の解約率が、3%から1.2%に減ったことも、認定取得後の変化のようだ。志水氏にとって最大のメリットは、数字に基づいた提案力だったという。

志水氏「当社も数字に基づいた分析を重視していますが、Uber Eatsには10万店舗以上のアクティブな加盟店から集約したデータがストックされています。これはどんな代理店もアプローチできないサンプル数です。データを活用することで、提案における説得力を強化し、実際のコンバージョン率も高められました」

中澤氏「Lisa Technologiesさん以外の認定代理店様からも、『新規顧客の獲得につながった』『大手企業とのつながりを持てた』といった声を頂いています。すでに契約している加盟店様からの紹介で、取引先が広がったというケースもありました。信頼獲得から始まる関係構築が、事業における好循環を生むのではないでしょうか」

Uber Eatsと連携し、ネットワークを拡大する。そのことは自社の事業成長だけでなく、飲食業界全体にもプラスの効果をもたらすと、西村氏は考えている。

西村氏「飲食はデジタル化が遅れてきた業界。コロナ禍により強制的にDXを迫られた形ですが、生活者視点で考えるならば、良質な味とサービスをより多くの人に届けられるようになったわけです。今後Uber Eatsと代理店が連携を強化すれば、業界全体をさらにアップデートできるでしょう。健全な競争と業界全体の底上げは、最終的に生活者に還元されるはずです。そうした循環は、社会にとっても良いことだと考えています」

中澤氏「私たちプラットフォーマーは定量的な情報を集めるのは得意ですが、数字の裏側にはさまざまなお店のストーリーが存在します。当社のリソースだけでは、そうした定性的な部分にまでアプローチし切れていません。代理店様にご活躍いただくことは、個別の声をヒアリングしていただくという意味でも、大きな効果をもたらしてくれます。それぞれの強みを組み合わせながらベストプラクティスを生み出していくことが、認定代理店制度の目指すゴールです」

こだわりやホスピタリティなどを重視する飲食業界と、オンラインフードデリバリーというメガトレンド。両者をつなぎ、最善策を見いだすことが、個別の事情に耳を傾けられる代理店の使命なのかもしれない。業界を変えていく認定代理店に、挑んでみてはいかがだろうか。

認定代理店制度に関する問い合わせ先
Uber Eats Japan 合同会社
東京都港区六本木1-9-10アークヒルズ仙石山森タワー
「Uber Eats 認定コンサルティング代理店制度」
問い合わせフォーム

その他、Uber Eatsに関する情報は「Uber Blog」で紹介中。

取材・文:相澤優太
写真:水戸孝造