GAFAMから「MATANA」へ ビッグテック企業に仲間入りした半導体メーカー”NVIDIA”の注目投資先はAIとドローン

「ビッグテック企業」の再定義

ビッグテック企業を総称する言葉として、日本では主にGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)、海外でFAANG(Facebook、Amazon、Apple、Netflix、Google)が使用されているが、2022年頃からこれらを再定義すべきという声があがるようになっている。

海外では、FAANGに代替案の1つとして挙げられているのが、マイクロソフト、アップル、テスラ、アルファベット(グーグル)、NVIDIA、アマゾンの頭文字をとったMATANAだ。メタとネットフリックスに代わり、テスラとNVIDIAが追加されたバージョンとなる。

2022年に登場したMATANAだが、テック企業の直近時価総額を見ると、妥当な分類であることが分かる。

2023年6月27日時点における世界の時価総額ランキングでは、1位アップル(時価総額2兆9140億ドル)、2位マイクロソフト(2兆4430億ドル)、3位サウジアラムコ(2兆800億ドル)、4位アルファベット(1兆5000億ドル)、5位アマゾン(1兆3060億ドル)、6位NVIDIA(1兆ドル)、7位テスラ(7640億ドル)、8位バークシャー・ハサウェイ(7299億ドル)、9位メタ(713億ドル)、10位TSMC(519億ドル)となっており、サウジアラムコを除くトップ7の企業でMATANAが構成されていることになる。

このMATANA企業の中で、現在最も注目されているのは、最近時価総額1兆ドルの大台にのったNVIDIAだろう。ジェネレーティブAIトレンドを追い風に、AI開発用GPUの売上が上昇、それに伴い株価も急騰した。

こうした状況下、NVIDIAの投資戦略に変化が起こりつつあるといわれている。

PitchBookは、Wedbush SecuritiesのNVIDIA担当アナリスト、マット・ブライソン氏の話として、最近NVIDIAがジェネレーティブAIへの投資を加速しつつ、別の成長見込みのある分野にも注力しており、投資が多様化していると伝えているのだ。ブライソン氏は、NVIDIAの投資動向は、特にこの数カ月で大きく変化したと指摘している。

NVIDIAの投資動向、ジェネレーティブAI領域

NVIDIAによるジェネレーティブAI領域における投資として直近注目されたのは、AIスタートアップCohereへの投資だろう。

Cohereは、ChatGPTを開発したOpenAIに対抗する主力競合の1つと目されるジェネレーティブAI企業。2023年6月にシリーズCラウンドで2億7000万ドルを調達し、評価額は約22億ドルに達したといわれている。NVIDIAは、この調達ラウンドに、オラクルやセールスフォースとともに参加した。

CBinsgtによると、Cohereの創業は2019年で、これまで4回の調達ラウンドを実施、計4億3500万ドルを調達している。

Cohereは、コピーライティング、検索、要約などを可能にするエンタープライズ向けのAIツールの開発に特化。企業がジェネレーティブAIを利用する上で懸念しているデータ漏えい問題に注力することで、競合との差別化を図っている。

CNBCによると、Cohereの顧客には、ストリーミングプラットフォームを提供するグローバル企業やアパレル企業が含まれる。顧客企業は、カスタマーサービスの効率化やコンテンツモデレーションの向上で、CohereのAIツールを活用しているという。また最近、会話型コマース/AIチャットボットを開発するLivePersonとのコラボレーションを通じて、ビジネス向けにカスタマイズされた大規模言語モデルの提供にも乗り出している。

Cohereの創業者らがグーグルと強いつながりを持っている点も同社が注目される理由の1つとなっている。CEOのエイダン・ゴメス氏ともう1人の共同創業者ニック・フロスト氏は、もともとグーグルのAI開発部門Google BrainでAI開発に携わっていた経歴を持っている。

次世代チップやドローン領域にも投資

投資活動を多様化するNVIDIAは、ジェネレーティブAI領域のほか、次世代コンピュターチップやドローン分野にも投資を行っている。

Ayar Labsは、シリコンバレーに拠点を置くチップ開発スタートアップ。同社は、シリコンフォトニクス技術を活用した次世代コンピュターチップを開発している。同社のシリコンフォトニクス技術は、チップやサーバー間のデータ転送に電気ではなく光を使用するもので、データ転送時間を短縮するだけでなく、使用電力の縮小が可能で、AI開発にかかるボトルネックの解消につながるとして注目を集めている。

Ayar Labsは2022年4月にシリーズCラウンドで1億3000万ドルの大型調達を実施したが、このときNVIDIAはインテルなどとともに、同ラウンドに参加し、資金を投じている。

ロイター通信2023年5月24日の報道によると、Ayar Labsは、ジェネレーティブAIトレンドに伴う高効率コンピューティング需要の高まりに対応するため、新たに2500万ドルを調達したという。

一方ドローン領域では、NVIDIAは2023年2月末に発表された米ドローン開発SkydioのシリーズEラウンドに参加。Skydioは同ラウンドで、2億3000万ドルを調達、評価額は22億ドルに達した。

ドローン市場はもともと中国DJIがシェアの大半を占める状況だったが、地政学的な緊張の高まりから、米国におけるDJIのシェアは大きく衰退しているといわれる。特に、政府のドローン調達においては、安全保障上の懸念から、中国製品を排除する動きが加速、これが国産Skydioの追い風となっている。

Techcrunchによると、こうした要因を背景に、Skydioは過去3年で30倍の成長を遂げ、米国最大のドローンメーカーになったという。Skydioのドローンは、米国防総省の各部門で使用されているほか、全米の州交通部門の半数以上、そして47州・200以上の公共機関でも導入されているという。

NVIDIAといえばGPU開発企業として知られるが、同社はハードウェアだけでなく、産業向けデジタルツイン構築プラットフォーム「Omniverse」を開発するなど、ソフトウェア領域でも存在感を増している。MATANA企業の一角として、今後ますます注目度が高まってくるはずだ。

文:細谷元(Livit

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