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より豊かな社会を築くため、多様性が重要視されるようになった現在、自分らしい人生を歩みながら他者のライフステージの変化や多様なライフプランも受け入れ、共に協力していく“ファミリーフレンドリーな社会”を構築していくことが必要だろう。
“ファミリーフレンドリーな社会”は、妊娠や出産、子育てだけではなく、介護やスキルアップのための休職など一人ひとりがより柔軟に生きることを可能にしていく、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の実現へとつながるものだ。そのためには、個々人の意識だけではなく企業の理解や働きかけが求められている。
メルク・バイオファーマ株式会社では、こうした社会課題の解決の一助となるよう、YELLOW SPHERE PROJECT(以下、YSP)をスタート。“ファミリーフレンドリーな社会”の構築を目指し、企業や組織の垣根を越えてさまざまな活動を推進している。
今回はYSPの一環として、本プロジェクトに共感するファミリーフレンドリーな社会づくりを体現しているリーディングカンパニー6社の、株式会社イトーキ、エクスペリス・エグゼクティブ株式会社(マンパワーグループ)、パーソルキャリア株式会社、パシフィックコンサルタンツ株式会社、株式会社丸井グループ、株式会社ワーク・ライフバランスに話を伺い“ファミリーフレンドリーな社会”の実現に向けての取り組みや今後の目標について紹介する。
株式会社イトーキ|“切れ目のない支援”が社員一人ひとりの成長と活躍の鍵になる
働くことも休むことも諦めない環境づくりを
イトーキでは、社員全員が人生のどのライフステージにおいてもその人らしく生きることができ、かつ働きがいを持って長く活躍していけるよう、“ファミリーフレンドリー”な制度づくりやその拡充に取り組んでいる。
出産、育児、介護といったライフイベントに対応する休暇制度はもちろんのこと、男性育休取得100%を促進するために、管理職研修における啓蒙活動に加え、今年の7月からは「育児休業復職支援金制度」を導入している。
「3歳未満の子どもを持つ男性社員100人弱にアンケート調査を行ったところ、休業中の収入減や仕事の忙しさを理由に、育児休業が取得しにくいという背景が見えてきました。希望すれば誰でも育休を取れることが当たり前の風土になるよう、環境整備や制度の改定を進めています」と人事課の伊藤 翠氏は話す。
不妊治療、病児保育、育休からの復職時の不安解消など課題は幾つもあり、「そもそも毎日定時に帰れる環境があれば、男性社員が育休を取るよりも助かるという声もある」といったように、ニーズに合わせた新しい制度や支援を検討中だという。
一方、介護の面では社員の家族も参加できるセミナーの実施など、休業取得者の心理的負担を軽くするための新施策に取り組むという。今後、組織の中核を担う多くの人材が介護問題に直面すると予想されるが、介護を「自分ごと」として捉えている人はまだ少ない。
「介護は誰にでも訪れる可能性があり、ケアマネージャーの手を借りながらマネジメントしていくもの。ですから一人で抱え込まずに、介護休業を“仕事と介護を両立するための準備期間”として、活用してほしいです。冷静に、かつ安心して介護に向き合うためには、本人も介護される側も、職場や家族間でも基本的な知識や共通認識を持った上で支え合う必要があります。そのサポートをしたいと考えています」
リーダーシップを育む女性支援コミュニティ
ファミリーフレンドリーな社会をつくるためには、多様なライフプランに合わせて、キャリア形成においてもさまざまな選択肢や機会があることが重要になる。同社は女性活躍にも力を入れており、2022年には女性のリーダーシップ支援コミュニティ「SPLi(サプリ)」を立ち上げた。女性社員それぞれが自分の強みに気付くための講座や社内外の人材交流を兼ねたランチミーティング、イベントなどを開催している。
「現状、女性管理職の比率は11%。会社としての数値目標はあるのですが、それを目的にしてしまうと、候補者を立て、引き上げる取り組みがメインになってしまう。そうではなく、SPLiは、まず一人ひとりが自分らしく輝くため、前向きに参加したい人が参加するコミュニティという点にこだわった」と人事企画室 課長 一階 裕美子氏は強調する。
営業本部ワークスタイルデザイン統括部第2デザインセンター センター長 香山 幸子氏は、活動の成果について「コミュニティへの参加者は120人を超えました。年代・職種・勤務地の枠を超えてミーティングやイベント等での交流を重ねています。また、メンバーには自らの企画でイベントを取り仕切る役割も担ってもらいました。そういった経験を経る中で『思い切って飛び込んだことで、業務以外のミッションに挑戦するという経験を積むことができた。自分の強みが見えてきたし、自信がついた』という声も出てきています」と語る。
1年目は、大きな一歩を踏み出すためのきっかけづくりをテーマとしたが、2年目の今年度は、その一歩を具体的なアクションとするために必要なスキルを学ぶ場を提供していくという。
「女性はライフイベントの影響を受けてしまいがちだからこそ、自分のキャリア形成やライフプランを自分で決めるという“オーナーシップ”を持つことが大切だと考えます。自分で判断し決められるようになれば、その先に『管理職に挑戦してみたい』『専門性を高めたい』という思いがおのずと出てくるはず。女性も男性も自分らしく働けるようになれば、将来的に育児休業の取得率は男女同じパーセンテージになっていく世界がつくれるのではないかと考えています」
ゆりかごから介護まで、それぞれの生き方・働き方を支える
今後の課題について、企画本部広報IR部 部長 川島 紗恵子氏は「どんな働き方であれ、社員全員が働きがいを感じながら、イトーキで力を発揮できることがベスト。多様な生き方・働き方に合わせてまさにゆりかごから介護まで、切れ目ない支援を整えてきています。面白いところでは、最近、独身の社員に対するサポートとして、信頼できるライフパートナーを得る機会を提供してくれるサービスも導入しました」と語る。
老舗企業も変われるという姿勢を見せたい
川島氏は、今回YSPの取り組みへ共感した理由について「ファミリーフレンドリーな社会構築のために企業が行っていることを訴求すること、そして、活動を行っている企業同士の輪が広がっていくことに意義を感じている」と語る。
「イトーキは今年で創業133年を迎えます。われわれのような老舗企業であっても、マインドチェンジは可能だということを伝えたかったのです。ほかの企業様から『古い企業体質だからなかなか変わることができない』というご相談を受けることもありますが、中にいる人たちが本質を理解し、強い信念をもって「自分ごと」としてアクションを起こすことで会社は変わることができる。私たちの取り組みをより多くの方に知っていただけたらうれしいですね。子育て中の人、介護中の人、病気を抱えながら働いている人、企業にはさまざまな状況の人たちが属しています。持続可能な未来をつくる上で、企業がそれぞれの状況に理解を示し、積極的にサポートする役割を担っていく時代になっていると感じています」
エクスペリス・エグゼクティブ株式会社|“DEIB”に必要なのはファミリーフレンドリーな企業風土
社員のプライベートにも寄り添う制度
エクスペリス・エグゼクティブは、世界70の国と地域で展開するマンパワーグループの一員だ。今回はGeneral Affairs & Human Resources Business Partnerのカーペンター・エイミー氏に話を伺う。
社員の4割が外国人であることから家族の在り方も多様な同社には、“ファミリーフレンドリーな社会”を後押しする制度や企業風土がある。就業時間を調整できる「スーパーフレックス制度」もその一つで、子どもの送迎で一時的に中抜けし、その後にまた働くといった使い方が可能だという。個人の通院や勉強にも活用しやすい制度だ。また、年に2回の「人事カウンセリング・コーチングシステム」を導入している。
「仕事の話はもちろんですが、プライベートの相談もできます。ワーキングファーザーもいますので、例えば新米パパとしてどう家事を一緒に行っていくべきか?といった相談にものることで、ワークライフバランスを取りつつ、その先のキャリアやライフプランを考えられるようなサポートを行っています」
そのほか、同社が家族を大切にしていることが分かる取り組みに「ファミリーデー」がある。子どもやパートナー、親などが職場を訪問できるというものだ。また、家族も参加できるBBQやキャンプ、チャリティーイベントなど、常に社員の家族と共にあることを重要視している。
こうした家族を大切にする企業風土は、世界各国から人材が集まり、多様な文化を受け入れていることから生まれているようだ。
さらに柔軟性を持った働き方を模索
カーペンター氏は今後の課題について、「社員の精神的なバランスを保つためには、仕事もプライベートも横断的にサポートできる体制が必要です。弊社は50人ほどなので、現在は一人ひとりにフォーカスできる体制ですが、今後社員が増えたときにはもう少し細分化されたシステムが必要だと感じています」と、企業の拡大に沿ったサポート制度の拡充が重要だとしている。
そして、マンパワーグループでは全世界で女性管理職の比率を50%まで引き上げる目標がある。どうすれば女性管理職が増えるのか、社員からは「柔軟な働き方が必要不可欠」との声が上がっているという。多くの女性に妊娠・出産・子育てといった選択肢がある中で、各人にマッチした働き方を模索することは、個人のウェルビーイングにもつながり、企業としての成長を後押しするものであるため、今後さらに議論を深めていきたいとしている。
社員同士の信頼関係を大切にする“DEIB”を推進
カーペンター氏は「“DEIB(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン・ビロンギング以下、DEIB:マンパワーグループにて定義)”を推進していくためには“ファミリーフレンドリーな社会”が重要であると考えています」と、今回YSPに共感した理由を説明する。
エクスペリス・エグゼクティブを含むマンパワーグループでは、人を大切にする経営を行っており、“DEIB”に積極的に取り組んでいる。“DEIB”とは、多くの企業が掲げているDE&IにBelonging(帰属意識)を加えたものだ。ダイバーシティは個を尊重するため、どうしてもチーム、メンバーシップなどの組織における帰属意識が薄れる側面がある。そうした状態にならないよう、マンパワーグループでは“DEIB”を掲げている。
多様性と公平性を担保し、その上で活躍できる土壌を用意できることこそが、帰属意識の先にある“信頼関係”が生まれる状態だと考えているという。それに貢献しているのが「人事カウンセリング・コーチングシステム」や「ファミリーデー」といった取り組みだ。ビジネスだけではなく、企業は人で成り立っているという考えの下、社員の働きやすさやライフプランを描くことのできる職場環境の提供に邁進(まいしん)している。
エグゼクティブの人材紹介業であるエクスペリス・エグゼクティブでは、社員のみならず候補者の人生の悩みに触れる場面も多いという。さまざまな事情から家族にフォーカスしなければならない候補者もいるため、自社のみならず、社会にファミリーフレンドリーな企業が増えることを願っている。
ファミリーフレンドリーな社会の先にあるウェルビーイング
最後に、改めて“ファミリーフレンドリーな社会”を構築するために必要な企業姿勢について伺った。
「人材紹介会社だからこそ、候補者はウェルビーイングを体現する職場を求めていることが分かっています。今後、それらをケアしていない企業には人が集まらないでしょう。まずは一人の人間として、経営層も一般社員も他者への共感が大切です。ワーキングマザー・ファザーをはじめ、外国人やLGBTQ、障がい者など、多種多様なニーズにフォーカスしない限り企業の生産性は上がりません。ウェルビーイングを生み出すためにも企業や個人といった単位の垣根を越え、互いに“ファミリーフレンドリーな社会”を構築するという意識醸成が重要なのではないかと考えています」
パーソルキャリア株式会社|ヘルスリテラシーを高め、誰もが活躍できる社会へ
女性の健康と向き合う取り組み
パーソルキャリア DI&E推進部 マネージャー兼コミュニティ「はたらく女性の活躍と健康を考える会」代表 松尾 れい氏に話を伺う。
松尾氏は、自身が長年PMS(premenstrual syndrome : 月経前症候群)や生理痛といった女性特有の症状で悩んできたことから、女性のヘルスリテラシー向上に寄与すべく、社内そして社会へと発信していくコミュニティ「はたらく女性の活躍と健康を考える会」を設立。まずは社内向けに有識者を迎え各種セミナーを開催している。
パーソルキャリアが独自に行った調査「女性の働き方とヘルスリテラシーに関する調査」によると、女性特有の症状を自覚している人は約75%。そのうち仕事に支障があると回答した人は約半数に及ぶ。PMSや生理痛は個人の問題として片付けられてしまう場合が多いが、女性活躍が叫ばれる昨今においては向き合わなければいけない社会課題といえるだろう。
同社の活動は広がりを見せ、社内でアブセンティーズムやパフォーマンスへの影響を検証する複数の実証実験にも取り組んでいる。会社が費用を負担するオンライン診療と低用量ピル処方のプログラム(50人限定)や、1on1にてヘルスコーチングを受けられる行動変容プログラム(30人限定)のほか、メルマガの配信、有志社員によるヘルスリテラシーに関する勉強会も実施。社外に向けては、女性の健康と「はたらく」を考えるイベントの開催や、企業の枠を超えた先進事例の記事を発信している。
「専門家による1on1では、その症状から病院へ行くことを促し、適切な治療へとつながったケースもあります。取り組みへの参加を機に自分の体と向き合い、仕事もプライベートも楽しみながら自分らしい生き方、働き方につなげていってほしいです」
相手を理解して引き上げるインクルーシブ・リーダーシップ
各種セミナーなどには男性社員も参加しており、女性の健康に対する理解は深まってきている一方で、見えてきた課題もある。
パーソルキャリアでは2日間の「生理休暇」が設けられており、そのうち1日は有給扱いだ。しかし、その名称から取得がしづらく、生理痛による休みであっても通常の有給消化を充てる社員が多いという。こうしたことからも、マネジメント側の適切な対応が求められている。
現代は一人ひとりが持つリーダー性を引き上げて組織を底上げする“インクルーシブ・リーダーシップ”が必要となってきている。松尾氏は、女性の健康問題を入り口にダイバーシティへの理解と組織との対話を促すことは “インクルーシブ・リーダーシップ”の発揮にも役立つと考えているという。
「相手が何を考え、何を求めているのかを知り、個人の体調やライフプランについての対話をする中で、強みを生かす業務や働き方が見えてくることもあるでしょう。現状、弊社の取り組みは女性の健康課題にフォーカスしていますが、スキルや経験もさまざまで、病気と闘っている人もいれば、子育てや介護と両立して働いている人もいます。誰もが活躍しやすい環境づくりのため、今後は“インクルーシブ・リーダーシップ”を加速させるセミナーも開催したいと考えています」
優しい社会をつくりたい
松尾氏は「“ファミリーフレンドリーな社会”は、一人ひとりを理解して尊重するという意味で、私たちの取り組みが目指す世界と同じなのだと思います」と、YSPへの共感を語り、次のようにも付け加えた。
「みんなで優しい社会をつくっていきたい。会社である以上、常に組織としてどうパフォーマンスを向上させていくかを考えなければならず、なかなか最優先のメッセージとして伝えられていませんが、それでも根底にはそうした思いが強くあります。“ファミリーフレンドリーな社会”の構築が進むと、一人ひとりが『こうありたい』を周囲に伝えやすくなり、結果としてみんなが生きやすくなると考えています」
社会の当たり前を目指して頑張るフェーズ
最後に、どのような未来を描いているのか、さらなる意気込みを伺う。
「弊社は人材会社として『はたらいて、笑おう。』を掲げているからこそ、仕事と健康を結び付けて発信していくことが大事です。「はたらく」に健康の軸を取り入れながら、多様性にあふれるメンバーを認め合う。そうすることによって一人ひとりがウェルビーイングに活躍できる社会を実現したいと思っています。まずは社内での取り組みから得たナレッジを、コミュニティを通して社会に還元していきたいです。社会課題への取り組みは、特別な発信をせずに済むことがゴール。今は当たり前ではないからこそ注目され、こうして発信していくことが必要です。未来の当たり前を目指して頑張るフェーズだと思っています」
ファミリーフレンドリーな社会は、実に多様な状況や価値観に対応することが求められ、一律に決まり切った答えがあるわけではない。そのため、まずは社員の悩みや求めていることを知ることから始める必要がありそうだ。いずれの企業もアンケートや1on1の実施により社員の声に耳を傾け、その声をもとに職場環境の改善や制度設計に取り組んでいることが分かる。残る3社のアクションも見ていこう。
パシフィックコンサルタンツ株式会社|段階的に取り組む働き方改革で業界を先導
成長と幸福(ウェルビーイング)を感じる“新しい働き方”に向けて
生活に欠かせない技術分野を幅広く擁する総合建設コンサルタントのパシフィックコンサルタンツ。業界に根付く長時間労働を改善すべく、2010年ごろより始めたワークライフバランスへの取り組みを皮切りに、さまざまな働き方改革に挑んでいる。
今回は人事部新しい働き方推進室長 油谷 百百子氏、同推進室 チーフコンサルタント 飯島 玲子氏、経営企画部広報室長 中川 伸司氏の3人に話を伺った。
パシフィックコンサルタンツでは、まず徹底したノー残業デーや管理職の意識改革に努めた後、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン以下、D&I:パシフィックコンサルタント社にて定義)経営に乗り出した。同社のD&Iの取り組みは、2017年に経済産業省が実施する「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出されている。年齢や性別だけでなく経験や知識、専門性といった個人の違いを強みに、多様性を尊重し生かす意識が根付いたという。
そして現在は「新しい働き方」を築くため、“多様なメンバーがチームとなり成長と幸福(ウェルビーイング)を感じる「Team Pacific!」”と銘打ち、66もの施策を実施。同社では以前から両立支援の窓口やフレックスタイム制(育児・介護従事者)、男性育休100%宣言などを実施しているが、さらに遠隔地勤務の試行や勤務間インターバルの意識強化など“ファミリーフレンドリーな社会”の構築に貢献する施策を進めている。
課題を掘り起こすことからスタートしたD&Iの取り組み
同社のD&Iの取り組みは2013年からスタートした。しかし、当時は多様性に関するデータがなかったことから、現状把握から始めたという。
飯島氏は「取締役、女性、外国人、各分野のエース、50代のベテランなど、100人へのヒアリングや従業員アンケート調査を行い、D&Iにおける当社の課題はどこにあるのかを探ることから始めました。分かったことは、年代や性別によって課題が異なることです。例えば、20代の女性には働き続けられない壁がありました。夫や自身の転勤で夫婦別居になるかもしれないという不安と、妊娠・出産・育児を阻む長時間労働です。30〜40代は男女問わず多忙で子育て中の方も多く、ワーク・ライフ・バランスを必要としていました。50代以降では介護の話が出てきます」とヒアリングの結果を明かす。
結果は想像できた内容だとしながらも、リアルな言葉や数値を基に「D&I推進方針」という羅針盤をつくったことで、メンタリング(中堅女性)、姉サポ(若手女性)、イクボス育成、育休前後面談、テレワーク試行、フレックスタイム拡大などが実現できたといい、その後の「新しい働き方」施策へとつながっている。
油谷氏は「コロナ禍で浸透したテレワークに加えて、子育てや介護をしている方々からはフレックスタイムを活用できて『とても助かる』という声も上がっています」と語る。女性社員の出産・育児による離職はなくなり、男性の育休取得者は約8割(平均取得日数は51日)と新たに訪れる求職者も同社の働きやすさに注目している人が多いという。
企業連携による社会への広がりを期待
中川氏は、YSPへの共感ポイントについて次のようにメッセージを寄せている。
「実施している取り組みは社内で確実に広まり、働きやすさにつながっています。先輩から後輩へと伝わる風土もできつつあります。今度は社外へ何らかの形で発信していきたいと考えていたところ、今回の機会を頂きました。同じ思いを持った企業と連携することで、社会への広がりが見えてくることを期待しています。こうした発信の機会から、誰もが柔軟な働き方や自分らしい生き方がかなえられる社会を目指していきたいですね」
対話を大切にした経営
最後に、パシフィックコンサルタンツが“ファミリーフレンドリーな社会”を構築するために大切にしたいことと、今後の展望を伺う。
飯島氏は「一人ひとりとの対話が大切です。上司の方々は、傾聴スキルを持つ必要があります。困っていることや目指すキャリアに耳を傾けること。その意味で1on1はとても有効なツールです。現在ではD&IにEquity(公平性)も加わっていますが、公平性を保つために必要な要素は人によって異なるからです」と、対話の重要性を訴えた。
油谷氏は「多様な価値観を取り入れていくことが企業の成長につながりますので、改めてD&I経営に立ち返りたいと考えています。そして健康経営の視点も重要です。弊社には常駐の保健師がいて、健康診断の後にはアルバイトも含めて全員と面談を実施しています。このような取り組みも発信し世の中に広めていきたいです」と、“ファミリーフレンドリーな社会”の構築のためにも健康づくりに注力したいとしている。
株式会社丸井グループ|男性育休推進によるイノベーションを期待
9日間の独自男性育休プラスアルファを推進
人事部ワーキング・インクルージョン推進担当課長 後藤 久美子氏は「女性だけが育児や家事を頑張るのではなく、男性にも同じように家庭生活に向き合ってもらう。ひいてはそれが女性活躍につながりますので男性育休を推進しております。1週間程度ではただの休暇になってしまう可能性があるので、最低でも1カ月以上取ってほしいですね。年に2〜3人半年以上取得する社員がいますので、仕事の引き継ぎ方や長期取得のメリットなどを事例として周知し、“長期で取っても大丈夫”という意識付けを行っています」
丸井グループでは男性育休に力を入れており、独自に有給休暇と同じ扱いになるものを9日間(出産立ち会いなどによる休暇が2日間、育休が7日間)設けている。もちろんそれにプラスし、国からの補助対象となる「産後パパ育休や育児休業(※)」を利用した1カ月以上の取得を促している。
男性育休の推進は、丸井グループが取り組む「『多様性』を活かす組織づくり」における女性活躍に直結し、“ファミリーフレンドリーな社会”をつくり上げるピースとなるからだ。
※出典:厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001006151.pdf)
属人化しない支え合えるチーム体制づくり
同社の男性育休の取得率は100%だが、1カ月以上の長期取得は3割ほどにとどまっている。その理由を探るべく実施した社内アンケートでは、「メンバーに迷惑をかけてしまうから」という答えが約半数を占めていたという。
「育休に限らず、自分や家族にいつ何があるか分からないので、“お互いさま”と支え合えるチーム体制づくりに取り組んでいます。例えば、業務を属人化させずに可視化を進めることもその一つです」
1カ月以上取得した男性は、その後の働き方にも変化が見られるようだ。1週間のみ取得した男性に比べ、以前より残業しないよう意識したりリモートワークをうまく活用したりするなど、生産性を維持しながら積極的に育児をしている様子があるという。
社会にムーブメントを起こすための協働
後藤氏は、今回YSPに共感した理由を「社会全体で課題解決に挑む必要性を感じているからです」と話す。
「一社だけの取り組みでは限界があるので、どれだけ社会にムーブメントを起こせるのかが鍵になります。例えば、弊社の女性社員のパートナーの会社が育休に対して後ろ向きだった場合、女性社員はワンオペでつらい思いをするかもしれません。パートナーの職場環境によって状況が大きく変わってしまうからこそ、社会全体で進めていくことが必要だと考えています」
YSPは妊活のサポートから始まった取り組みとしてファミリーフレンドリーな社会の構築を目指し、さまざまな活動を行ってきた。一方で、丸井グループでは育休に関する取り組みを推進しており、違った形でのファミリーフレンドリーな社会を構築する活動を行っている。今回のような企業同士の連携を行えることは、さらなるファミリーフレンドリーな社会構築の実現を加速させられるのではないだろうか。
男性育休の長期取得7割を目指す
丸井グループでは、2025年度のKPIとして「1カ月以上の男性育休取得率を2割にする」ことを掲げており、2022年度には前倒しで達成した。今後は、7~8割を超えるような目標に再設定する予定だ。
「マネジメント側には、部下のパートナーの妊娠が分かった時点で長期取得を前提とした声掛けをするよう働きかけているところです。新たな気付きを得て職場に戻ってきてくれることは、多様性の観点からもイノベーションが起きやすい組織になるとプラスに捉えています」
原則、育休を取得した社員は元のポジションに戻るが、同社では戦略的に部署異動を実施しており、半年に一度はチーム内の誰かが異動する仕組みがある。こうしたことからも人材の出入りに柔軟性を持った組織づくりが行われているため、長期休暇の取得による現場での混乱は少ない。取得前には不安があった社員も、復帰後はスムーズに業務に当たっているという。
「若い世代ほど男性育休を長期で取りたいとの声も上がっており、徐々に世の中が変わりつつあることを実感しています。“ファミリーフレンドリーな社会”をテーマに考えると、男女どちらか一方に負担がかかるのではなく、平等に仕事も育児も頑張りましょうという姿勢が大切です。それを後押しできる企業でありたいと思います」
株式会社ワーク・ライフバランス|「すべての人にライフはある」を社員全員の共通認識に
全ての人に優しい、理由を言わなくても休める制度
株式会社ワーク・ライフバランスは、働き方改革関連法案が成立する10年以上前から企業の働き方の変革に取り組み、ワークだけでなく「すべての人にライフはある」という考え方の下、「それぞれのライフを諦めない」「多様性を力に変える」という企業風土が根付いている。その経営企画室長でワーク・ライフバランスコンサルタントの大畑 愼護氏に話を伺う。
申請理由を問わない休暇「新しい休み」はその象徴ともいえる制度で、有給休暇以外に年間36日分の休みが全社員に一律付与されている。
「15分単位で取得することが可能で、不妊治療でも旅行のためでも理由は問いません。介護、子どもの不登校対応、資格の勉強などさまざまなことに活用いただいています」
ほかにも社長による「全社員との面談」や社員自身がメンターを選ぶ「メンター制度」があり、本人が望めば、私生活に起こる出来事も気軽に相談できる環境があるという。
近年は、不妊症・不育症に悩む社員のサポートにも力を入れており、体外受精・顕微授精10万円、その後の胚移植2万円を補助する「不妊治療奨励金」を設けている。加えて不妊治療への理解促進のために、全社で毎年1回、不妊治療に関する研修を行うほか、不妊治療と仕事の両立に関する相談窓口として男女2人の相談員を配置している。
ライフに関する会話が気軽にできる会社に
「『新しい休み』や不妊症・不育症に関する制度ができたのは、全社員が参加する全員経営会議がきっかけでした。不妊治療により休みが足りなくなる、お金がかかるといった課題が当事者から上がったのです」と大畑氏は語る。
同社は以前からフレックス制を導入しており、残業ゼロ、勤務間インターバルを守ること(終業から次の始業まで11時間空ける)、早朝と深夜には働かないことの3原則を守れば、基本的に働く時間は自由に決められる。仕事は必ず複数担当制(2~3人1組)で取り組み、「朝メール・夜メール」という情報共有ツールを活用して、仕事のタイムマネジメントや私生活の事情、体調の変化等も共有できるようにしているという。
「われわれが目指すのは、時間的制約を抱えるメンバーがいてもチャレンジしたい仕事に挑むことができ、時間当たりの生産性で評価をして、誰もが『自分はこの会社のメインストリームを進んでいるのだ』と実感できる組織です。心理的な面も含めてお互いどういう状況で仕事をしているのか、サポートが必要かどうかを常に把握するということを大事にしています。それは生産性を上げるために社員が互いを育成し合うという風土にもつながり、業績向上にもつながっています」
仕事だけでなく、ライフのことも話す文化があるので、業務上のコミュニケーション量も増え、お互いさまの風土がつくられる。例えば病気を患ってしまったとしても「やれるときにしっかりやればちゃんと評価するから、安心して治療に取り組んで」と言ってもらえる環境があるため、「この経験があるからこそ、自分も誰かの支えになれる」という声もあるという。
働き方改革に必要なのは固定観念を覆す新しい体験
大畑氏は、今回YSPに共感した理由を「企業同士の横連携を強化することによって、1社だけでは抜け出せない商習慣や旧来の働き方から一斉に抜け出していくムーブメントが起こせるのではないかと期待したから」と語る。具体的には、「勤務間インターバル」を多くの企業に広めていきたい考えだ。
「勤務間インターバルが当たり前になれば、ライフの時間が充実します。男性も子どもが起きているうちに帰宅できるようになったり、睡眠の質がよくなったりします。そうすると、今現在の働き方について考えたり、短い時間でどうやって成果を出すかという新しい世界が見えてきます。」
大畑氏自身は 3児の父であり、第3子出生後、1年間の育児休業を取得した。
「家族5人でフィジーに移住し、その後職場復帰しました。この体験で、決められたハシゴを登るだけがキャリア形成ではない、ジャングルジムのようにジグザグに登ってもキャリアは続くのだと分かり、これまでの固定観念が消えていきました。さまざまな可能性を考えられる多様な人材が増えることは、会社にとってもメリットがあるはずです」
どう生きたいのかという人の思いが社会を変えていく
最後に、改めてファミリーフレンドリーな社会の実現に必要なアクションとは何かについて伺う。
「私自身、厚生労働省のイクメンプロジェクトの推進委員会に参加し、育児・介護休業法の改正に携わり、社会は思いのある一人ひとりが変えていくものなのだと知ることができました。どんな人生を歩みたいのか、どんな夫婦関係でいたいのか、どんな家庭を築きたいのか、そのためにどんな社会になるといいのか、一人ひとりが考えて声に出すことから一緒に一歩を踏み出せるといいなと思います。弊社としても、引き続き企業・組織に対して働き方改革コンサルティングの提供を通して、YSPでも掲げられている『新しい命を宿す為の努力を、皆が応援する社会へ』の実現に貢献していこうと考えています」
女性活躍、男性育休、健康課題、働き方改革など、各社の第一ステップとなるアプローチは異なるものの、それぞれのアクションは包括的なものへと進化し、多くの社員の働きやすさへとつながっている。全ては“ファミリーフレンドリーな社会”の構築へ寄与し、多様で柔軟な一人ひとりの働き方・生き方をかなえていくものだ。
少子高齢化により労働力不足が指摘される今、働きやすい企業に人材が集まることは必至である。制度を導入するだけでなく、社員とのコミュニケーションを重視した各社の課題解決に向けた取り組みは、今後の企業の在り方の一つの道しるべとなるだろう。そして一社でも多くの企業とこうした思いを共にすることが、DE&Iを実現させることにも寄与すると願っている。
YELLOW SPHERE PROJECTについて
妊娠を希望してもなかなか叶わないという“社会課題”に対し、製品やサービス提供にとどまらず、妊活や不妊治療をする人々を支援し応援するプロジェクトです。目指すところは、より多くの人に適切な情報を伝えて、サポートの輪を広げ、人々の充実した暮らしという未来をつくることへの貢献です。新しい命を宿す為の努力を、皆が応援する社会へ。それが、YELLOW SPHERE PROJECTの先にある未来です。
https://www.merckgroup.com/jp-ja/yellow-sphere-project.html