家庭教師よりもChatGPT、米国では子供を持つ親の96%が「ChatGPT活用に前向き」と教育現場での利用拡大へ

ChatGPTを利用する学生増加、成績が上がったとの報告も

ChatGPTなどジェネレーティブAIの活用模索が様々な分野で進められているが、米国では学生がAIを活用するケースが増加しており、学習のあり方が大きく変化している。

どのような変化が起こっているのか、米学習プラットフォームIntelligent.comが2023年5月末に発表した最新調査で、その様子が明らかになった。同調査は、2023年5月2〜10日にオンラインで米国内の学生(16〜24歳)3017人、学生を持つ親3234人を対象に実施された。

調査の結果、ChatGPTと家庭教師(tutor)の両方を利用した学生のうち、85%が家庭教師に比べてChatGPTの方が学習ツールとして優れていると回答、また学齢期の子供を持つ親の96%がChatGPTとの学習が子供たちにとって優れた結果を生むと考えていることが判明したのだ。

学習におけるChatGPTへの高い信頼は、教育産業の構造にも大きな変化をもたらしつつある。同調査では、学生の39%と保護者の30%が、家庭教師サービスを完全にAIプラットフォームに置き換えたことが明らかになった。

この状況は、オンライン学習企業Cheggなど教育分野の企業に多大な影響をもたらしている。Cheggでは、学生・親のChatGPT利用の増加を受け、新規顧客数の成長率が鈍化し、株価が50%近く下落する事態となった。

CNBCは5月2日、Cheggのダン・ローゼンスワイグCEOによる決算発表での発言を伝えている。ローゼンスワイグCEOによると、今年初めには新規アカウントの成長にChatGPTの明確な影響はなく、新規登録は予想通り拡大したが、3月以降学生のChatGPTへの関心が著しく高まっており、新規顧客成長率に影響が出るだろうと述べていた。

家庭教師や既存のオンライン学習プラットフォームに取って代わりつつあるジェネレーティブだが、どのような点が評価されているのか。

上記Intelligent.comの調査では、ChatGPTの間違いを修正できる能力が学習精度を高める点、学習に落ち着いて取り組める点、学習進捗度や理解度に対するリアルタイムのフィードバックが可能な点などが評価された。

また、ChatGPTを活用し始めてから実際に成績が上がったという声も多数報告されている。

同調査では、学生と親ともに95%がChatGPTを学習で活用するようになって以来、成績が向上したと回答。科目別では、数学と化学・生物学で学生・親の60%以上がChatGPTを利用していると回答しており、いわゆる理系科目でのChatGPT利用が多いことも明らかになった。このほか外国語学習では50%、英語、アート・音楽で約40%ほどがChatGPTを利用している。

教育現場でChatGPT禁止から活用へ、大きな方針転換

ChatGPTがリリースされた当初、米国では多くの学校でChatGPTを禁止するところが多かった。しかし、最近になり教育現場でもChatGPTを学習に取り入れるべきとする動きが強くなっており、これが学生のChatGPT利用増加に繋がっていると考えられる。

2022年11月末にChatGPTがリリースされ大きな話題となったが、その後すぐに米国最大の学区であるニューヨーク市が、同区における公立学校でのChatGPT利用の禁止を発表した。これに続き2番目に大きい学区であるロサンゼルス統一学区でも、学校ネットワークからOpenAIウェブサイトへのアクセスをブロック、またボルチモアやシアトルなどの学区でも同様の措置が講じられたといわれている。

ニューヨーク市教育局の広報担当ジェンナ・ライル氏はワシントンポスト(1月5日)で、「このツールは質問に素早く簡単に答えることができるかもしれないが、学問的思考、批判的思考、問題解決能力の発達に寄与しない」とChatGPTを禁止した理由を述べていた。

ニューヨーク市は、米国最大の学区であると同時に、教育現場での方針形成においても、大きな影響力を持っているものと考えられる。そのニューヨーク市が最近、学校での利用禁止から、今後はChatGPTを活用すると、大きく方針転換したのだ。

フォーブス(5月18日)の報道によると、ニューヨーク市の教育責任者デビッド・バンクス氏が教育ニュースサイト「Chalkbeat」のオピニオン記事でこの決定を発表した。記事のタイトルは「ChatGPT caught NYC schools off guard. Now, we’re determined to embrace its potential」と、教育現場でChatGPTのポテンシャルを生かす方針を表明するものとなっている。禁止のときと同様に、ニューヨーク市の学区がChatGPTを活用する方針を表明したことで、今後他の地域でもAI活用に方針転換する学区が増えてくることが見込まれる。

大学でも増えるChatGPT利用

米国の大学でもChatGPTを授業に取り入れる動きが増えているようだ。

米国心理学会(APA)は3月27日に発表したレポートで、大学の心理学授業でChatGPTがどのように活用されているのかを報告している。

カーネギーメロン大学の心理学教授であるダニエル・オッペンハイマー氏は「人間の知性と愚かさ」に関する授業を担当しており、学生にChatGPTが生成したテキストと人間が生成したテキストを比較するように促しているという。

また、テンプル大学の心理学者キャシー・ハーシュ=パーセク教授は、心理学の成績優秀者を対象にしたレポート課題で、ChatGPTの利用を義務付けている。最初の草稿をChatGPTで作成し、批判や修正、追加の意見を加えて二次草稿を編集することが学生の課題となる。

ハーシュ=パーセク教授は、「本当に優れた論文とは、情報を統合するだけでなく、仮説を支持する要素も含まれている。ChatGPTを活用することで、学生はより良い質問を考え、それを弁護する能力を磨くことができる。本当の科学者になるために、この能力が役立つことになる」と述べている。

学習での活用方法、プロンプトの重要性

ChatGPTを使った学習方法を伝えるコンテンツが増えていることも、学生のChatGPT利用増加の背景にある。

これらのコンテンツは、ChatGPTが時折間違った事実を示すことや「幻覚」症状になることを踏まえ、ChatGPTをどのように活用すべきかを伝えている。

たとえば、英語圏の学生を対象にした学習支援サイトStudysmarterでは、ChatGPTを学習で利用する際に、ファクトチェックする方法の1つとして、ChatGPTへのプロンプト入力時に、情報ソースを示すよう指示することを挙げている。また、学習に有益なプロンプト例も複数紹介している。

プロンプト例では、ChatGPTに有名人として振る舞いつつ、学習トピックを説明させる例、ステップ・バイ・ステップで問題の解答を導き出す例などが紹介されている。たとえば、1つ目の例として、ChatGPTにスヌープ・ドッグを演じつつ、相対性理論を説明させるプロンプトが紹介されている。好きなアーティストと難しい学習トピックを結びつけることで、学習効果が高まることが期待される。

AIを活用した学習においては、プロンプトをいかに最適化するのかというプロンプト・エンジニアリング的な発想が重要であることも示されている。AIを活用し学習する学生は自然とプロンプト・エンジニアとしての技能を磨くことも可能だ。

現在ChatGPTだけでなく、画像や動画生成を可能とするジェネレーティブAIも急速に発展している。今後はテキストだけでなく、画像・動画生成AIを学習に取り入れる事例も出てくるはずだ。

文:細谷元(Livit

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