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女性の社会活躍支援を行うMONA company(モナカンパニー)社は、日本初(※1)、国産の使い捨てタイプの月経ディスク「MOLARA(モララ)」を2023年2月に発売した。
日本ではほぼ見かけない生理用品だが、アメリカでは一般的に流通しており、「最大12時間使える」「空気に触れずムレやかゆみが軽減される」「お風呂やプールに入れる」「性行為が可能(※2)」といった特徴がある。
現在、公式サイトを通じた通信販売で、1箱9個入り6,435円(税込・送料別、単品購入の場合)で販売されている。1個あたりの単価は約700円と高価だが、定期便のほかに毎月100箱ほど新規購入があるという。
モナカンパニーの創業者、兼代表取締役の向井桃子さんに、モララ誕生までの道のりや商品の使い心地、反響を聞いた。
※1 2023年1月末時点、モナカンパニー社調べ
※2 生理期間の性行為によるリスクが軽減されるわけではなく、推奨はしていない
使い捨て月経ディスク「MOLARA」は何がすごい?
「月経ディスク」とは、ゴム製のリングに薄いフィルムが付いた半円型の生理用品だ。膣の中に入れて恥骨の裏に引っ掛けるように装着すると、フィルムに経血が溜まる仕組み。
最大12時間、交換せずに使用することができ、膣の奥に入れることから空気に触れず、ムレやかゆみ、ニオイを軽減する。装着した状態でお風呂やプールに入れるほか、推奨はされていないが性行為も可能だ。衣服への影響がないため、ピタッとした衣服を着る際にも向いている。
近年はナプキン・タンポン以外に、吸水ショーツや月経カップといった多様な生理用品が売られるようになったが、それらと比較した優位性が上記の特徴となる。
このように利点が多い一方で、ハードルに思える点もある。使い方にコツがいるためスムーズに装着できなかったり、膣の奥に押し込むことを「怖い」と感じる人がいたりする。1個あたりの単価が約700円という価格帯も、毎月使用するには現実的でない。
とはいえ、これまでの生理用品と比較して圧倒的に交換回数が少なく、入浴や性行為が可能といった点は画期的。女性視点で「使ってみたい」と思う魅力は十分にあると感じた。
人気番組「令和の虎」に出演!2000万円を調達
モララを開発した向井さんは、現在34歳。モナカンパニーの創業者兼代表取締役であり、2児の母でもある。以前は飲食業界に勤務していた向井さんが起業した背景には、コロナ禍による飲食業界への打撃があった。
「当時、2人目を妊娠中だった私はコロナ禍で一番先にシフトを削られました。給料がガクンと下がり、副業で販売していたパーティー向けのアクセサリーも売れなくなった。これはまずい、何か毎月必ず必要とされる消耗品、かつオンライン販売できるものはないかと探し始めて出会ったのが月経ディスクでした」(向井さん)
友人の一人がアメリカから取り寄せて月経ディスクを使用していると知り、自身でも使ってみると非常に快適だった。そこで、月経ディスクの開発に着手することに。アメリカからの輸入販売も考えたが、日本の医療機器(※3)の輸入基準の高さから断念したという。
※3 月経ディスクは日本では「医療機器」に当たる
当初は初期費用を1,000万円と見積もっていたが、あれよあれよとコストがふくらみ、想定の約5倍かかることがわかった。しかし、ここで断念したくないと、資金調達の手段としてYouTubeの人気番組『令和の虎』に出演した。
審査員の厳しいツッコミにも真摯に対応し、事業にかける想いを精一杯ぶつけた向井さん。その甲斐あって事業の新規性や将来性、熱意が伝わり、見事2,000万円の調達に成功したのだ。番組のコメント欄にも、向井さんの人柄や受け答えを評価する内容が見られた。
「出演した2022年1月当時、『令和の虎』の視聴者は、ほぼ男性でした。しかし、出演後の反響はすさまじく、無名ブランドの新規性の高い商品にもかかわらず、発売後すぐに約1000箱が売れました。その後は、毎月新規で約100箱が売れています」(向井さん)
番組を見た男性がパートナーに伝えたり、プレゼントしたりしてモララの購入につながった。「パートナーが生理で困っている様子を見ていたが、何をしたらいいかわからなかった」というコメントも届いたという。
コストが高くても国産にこだわったワケ
資金調達にも成功し、トントン拍子で起業したようにも見えるが、月経ディスクの製造工場を探す段階では苦労が多かったという。日本初のアイテムであり、なかなか関係者の同意を得られなかったのだ。
「決定権を持つトップは、たいてい男性ばかり。女性社員は共感してくれても、決定権を持つ男性社員と話すと『日本では9割の女性がナプキンを使っているんでしょ? それなら必要ないよね』と言われてしまう。工場を探すのに、結局1年ほどかかりました」(向井さん)
海外工場もリサーチしたが、結果的にコストが高い国内工場での生産を決めたのは、品質に妥協したくなかったから。
「日本で初めて売るものであり、体の中に入れるもの。それなら国産のほうが安心だろうと。月経ディスクの認知率が低い状況で、『品質は大丈夫なの?』と疑われて敬遠されてしまうのが一番もったないと思いました。まずは高くてもほしいという方に届けようと」(向井さん)
現在ターゲットとしているのは、年収700万円以上で、タンポンや月経カップなど膣に挿入する生理用品を使っている女性。市場は18万人ほどとニッチではあるが、定期便を利用する顧客も徐々に増えているという。
女性ライターが実際に使ってみたら……
生理に何らかの課題感を持つ女性にとって魅力的な要素が多い月経ディスクだが、「本当に装着できるのか」という疑問は拭えない。今回、筆者が身をもって体験してみた。
普段の生理でナプキン、タンポン、吸水ショーツを使い分けている筆者は、膣に生理用品を挿入することには慣れている。しかし、モララの場合は奥まで押し込み、恥骨に引っ掛けなければならない。
お風呂場でしゃがんだ状態で試したところ、挿入は成功。ただ、指で奥に押し込む段階で「怖い」という気持ちが生じた。やや手前の状態で指を止め、恥骨の位置を指で確認した。そこからリングを恥骨に引っ掛けようと試みたが、うまく引っかからない。というか、膣の中で指がうまく動かせない。筆者はこの段階で無理だと判断し、取り出してしまった。
この恐怖感は、「月経ディスクが奥まで入りすぎて取り出せなくならないのか」という不安からきている。しかし、この不安は自身の体を深く理解していない無知から生じるものだと、向井さんの話を聞いてわかった。
「こういった失敗は、初心者の多くが経験します。以前10名の女性に体験したもらった際、5人は挿入に成功して、2人はまったく漏れなかった、3人は漏れてしまったという結果でした。そして残りの5人は怖くて挿入できませんでした。恐怖感があるのは、ごく普通の感覚です。
その上で知っていただきたいのは、膣の奥にある子宮口は直径約2~3mmだということ。(※4)月経ディスクを膣の奥に押し込んでも、子宮口より奥に入ってしまうことはありません。失敗を防ぐために、”これ以上は入らない”ところまでしっかり押し込んでから、リングを持ち上げてください」(向井さん)
※4 出産後半年以内の場合は子宮口が開放していることがあるため、この限りではない
向井さんのアドバイスを聞いて、「次の生理時にもう一度トライしたい」と思えた。というのも、向井さんは莫大な資金を投じてモララを開発したわけで、商品への自信がなければ、こんなチャレンジはしないはずだから。それほど快適なら、ここであきらめずに試してみたいし、恐怖感が払拭できれば成功する気がする。
このようにモララの使用には知識やコツが求められるが、日本製で品質にもこだわっている。将来的に、日本のみならず海外にも販路を拡大できるポテンシャルがあると向井さんは考えている。
「例えば、湿気が多く気温が高いシンガポールでは、ムレやすいナプキンや吸水ショーツを避ける人が多いそうです。そういった気候による悩み、あるいはトイレに行きづらいといった職業柄の悩みなど、生理の課題を抱える世界中の人に届けたいと思っています」(向井さん)
向井さんの挑戦は始まったばかりだが、賛同者や利用者は確実に増えている。今後の展開にも期待したい。
写真提供:モナカンパニー
<取材協力>
モナカンパニー 代表取締役 向井桃子
「モララ」製品サイト:https://monacompany.jp/shop/
取材・文:小林香織
編集:岡徳之(Livit)