「地域社会が進むチカラ」になる。MUFG PARKが挑戦する企業と地域社会の新しいエンゲージメントの形

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環境問題・社会課題への対応など、ESGを意識・実行した経営が重視される現在。持続可能な社会の実現に向け、企業が担う役割はより大きくなり、その取り組みにさまざまなステークホルダーから注目が集まる。

そうした中、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)も、持続可能な社会の実現に向けた取り組みの一環として2023年6月26日、東京都西東京市に「MUFG PARK」を開園した。元々、同グループが保有していた施設を一般開放し、「自分らしいQuality of Life(以下、QOL)を追求できる場」という新しいコンセプトをもとに再整備された公園を舞台に、社員も参画しながら地域社会の課題解決や貢献に向けた取り組みを進めていく。

また、同社は2021年4月には、「世界が進むチカラになる。」をパーパスとして定めている。今回のMUFG PARKは、そのパーパスを体現する取り組みの一環であり、全てのステークホルダーが前へと進むチカラになる“きっかけ”をつくることを目指しているという。

そんな当パークの取り組みについて、プロジェクトを主導した経営企画部 ブランド戦略グループの飾森亜樹子さんと松井恵梨さんに話を伺いながら、企業と地域社会の新しいつながりの形を探っていく。

2023年6月26日に開園した「MUFG PARK」

単なる公園ではない、MUFG PARKが“つながりを生む”理由

MUFG PARKは元々、社員研修などの用途で使われる自社の保有施設だった。今回、総面積約6.2ヘクタール、東京ドームの1.3倍の広さを誇る敷地に、「Nature」「Sports」「Communication」という三つのコンセプトエリアを設けて再整備が行われている。

「Nature」「Sports」「Communication」という三つのコンセプトエリアを軸に、各エリアには「Main Park Area」「Universal Area」「Forest Area」「Greeting Street」という名称が付けられている。頭文字をつなげて読むと「MUFG」となる仕掛けだ

まず「Nature」は、森に覆われた「Forest Area」と呼ばれる土地で構成され、西東京市の豊かな自然を体感できる。西東京市では都市化による緑被率の減少や、維持管理の困難さなどを理由に樹林地面積の減少といった課題を抱えているが(※1)、その中で「Forest Area」は多様な植物や生物が息づく貴重な自然を守りつつ、自然体験学習の場としても機能する。

「西東京市には、雑木林や農地など、武蔵野の景観が残されていますが、都市化とともに減少傾向にあるといった課題を抱えていました。そこで、私たちが保有していたアセットを生かすことで、都市のグリーンインフラとしてこの地を一般にも開放し、地域社会へ貢献したいと考えたんです」(飾森さん)

(※1)出典:西東京市「西東京市第2次環境基本計画」

また、「Sports」としては、スポーツ活動や健康増進などの目的として、サッカー・ラグビーなどで使用できる天然芝のグラウンドや、テニスコート11面を完備。グラウンドの外周には1周430メートルのウォーキング・ランニングコースも用意している。

そして、今回のMUFG PARKで、特に交流の肝となるのが「Communication」の機能だ。さまざまな用途で活用できる芝生広場「Universal Area」に加え、「Main Park Area」にはみんなで本を持ち寄り育てる「まちライブラリー」が設置されている。ここでは本を通じた利用者同士のつながりを生み出す。

「運動だけではなく、人とのつながりを促せるような文化的な要素を入れたいと考えたときに、本っていいよねという話になりました。本は好きな作家や作品などの共通点を通して、仲良くなりやすい。本をきっかけに会話が生まれて、一つのコミュニティーができると思ったんです。MUFG PARKは人とつながれるコミュニティー的な要素も大事なテーマとして掲げていたので、場との相性が非常に良いと考えて取り入れました」(松井さん)

左から、経営企画部 ブランド戦略グループ 飾森亜樹子さん、松井恵梨さん

「地域社会への貢献」と「社員のエンゲージメント向上」の両立へ

MUFGは2021年に、お客様が、社員が、地域社会が、そして次世代が前に進むチカラになりたいという思いを込めて「世界が進むチカラになる。」というパーパスを定めた。

開園のオープニングセレモニーでグループCEOの亀澤宏規さんも「近年の社会課題を踏まえ、金融機関は何のために存在しているのか議論を重ねた結果、会社はあくまでも社会の一部であり、事業活動を通じて社会のために貢献していく、そして社会が存続し続けることで次世代の人々へも新たな価値を提供していきたい」と、パーパスを定義した背景に触れている。中でも今回のMUFG PARKは「地域社会が進むチカラ」になることを目指しており、パーパスと連動した取り組みであることが分かる。

加えて飾森さんは、MUFG PARKを通して「銀行が変わってきた」という企業変革の姿を見せながら、社員の挑戦も促したいと話す。

「先行きが不透明な時代に、全てのステークホルダーに信頼してもらうためには、現状に満足するのではなく挑戦する姿勢を示す必要があります。とはいえ、銀行はこれまで培ってきたお客様との緊密な関係性を前提として成り立つのも事実です。そこで、変えないもの、変えるものを見極めた上で、新しい挑戦もできるという姿勢を見せることが、よりお客様の信頼につながると考えているんです。中でも今回のMUFG PARKは、社会の課題に直接触れながら本業以外で社員が挑戦する場にしていきたい。つまりは『社員が進むチカラ』になりたいと考えています」

飾森さんが「社員が挑戦する場」でもあると話すように、「社内アンバサダー」と呼ばれる同社の社員がボランティアとして参加し、MUFG PARKの開園に向けた準備を進めてきた。若手からベテラン、さらにグループをまたいで、準備期から300人以上の社内アンバサダーが協力したという。

このように、社員の参加によって地域社会への貢献だけでなく、社員のエンゲージメント向上にもつなげたいと話す。

「社員一人一人が、身近な社会課題に対して主体的に考え、思いを行動に移すことで地域や社会に貢献する。MUFG PARKはそんな場にしたいとも考えていました。社員自身が自分の普段の業務、例えば銀行員としての仕事だけではなく、社会課題をきちんと捉えながら、挑戦する場としても使ってほしかった。それが結果的に社員自身の内面的な成長につながるだろうし、自分が社会に役立っているという自信や誇りにもなります。現グループCEOの就任時、エンゲージメント経営を掲げましたが、地域と企業のつながりだけでなく、企業と社員のつながりをより強める場にしたいと考えています」(飾森さん)

2022年7月から、「自然」「食」「スポーツ」「健康」「防災」をテーマに社内アンバサダーが5チームに分かれ、5回にわたりMUFG PARKオープン後に実施するイベント企画のワークショップを行った

余白を残し、ハードとソフトの両面からプレイスメイキングを促す

社員の参加を促すために、MUFG PARKの開園に向けた準備のプロセスに、彼らをどう巻き込むか、頭を悩ませたと話す松井さん。

ただ、「自分らしいQOLを追求できる場」というコンセプトが決まったことで、オープン前から、社員や地域の方を巻き込んでプレイスメイキングの取り組みを展開しようと考えた。

このコンセプトを設定した背景を、松井さんは次のように話す。

「今後、一般開放したときに運動場だけだと、利用者はスポーツをする方だけに絞られてしまう。そうではなく、いろいろな価値観や志向をお持ちの方々に来てもらって、リフレッシュして帰ってほしい。そう考えたとき、自分らしい使い方をしてQOLを上げてほしいと思いました。その結果、この場が皆さんの進むチカラになればと思い、『自分らしいQOLを追求できる場』というコンセプトを設定しました。自分らしさを重視するためにも、思い思いに居心地の良い場所をつくる『プレイスメイキング』の考え方がキーワードになると考え、オープン前の2年間、自然や食、健康やスポーツなどMUFG PARKを活用したさまざまなテーマのプレイベントを開催しながら、社員や地域の方を巻き込んでいきました」(松井さん)

また、飾森さんは「ハードウエア」と「ソフトウエア」という言葉を使い、プレイスメイキングの重要性を補足する。

「通常、こうした施設はハードウエアをつくっておしまいになってしまいがちですが、ハードウエアとソフトウエアの両面がありますよね。何をどこに配置してどういう施設をつくるかだけでなく、どんなコンテンツを提供するかも、その場のにぎわいに大きく影響してきます。特に自分たちが居心地の良い場所を、自分たち自身でつくれる仕掛けがあることで、場として発展していくと思いました。そうした、たんにハードとしての『場』だけでなく、新しいソフトをつくる意味でのプレイスメイキングをオープン前から進めてきました」(飾森さん)

ハードウエアとしての「場」の形自体も、当初はいろいろな構想があったようだ。ただ、プレイスメイキングを促すために「Nature」「Sports」「Communication」という三つのコンセプトに落ち着いた。

「NatureとSportsは元々、この土地にあったもので、そのまま守っていきたかった。そこに新たな要素としてCommunicationを追加しました。地域のにぎわいやコミュニティー形成につながる部分であり、そこに『まちライブラリー』を入れたり、芝生広場でさまざまなイベントを開催したりしながら、人同士がつながるきっかけを提供したいと考えています」(松井さん)

館内は壁面にぎっしりと本が並んでおり、現在の所蔵は約8,000冊に上る。貸し出された本には利用者の感想などが記入されており、本を通じて「つながり」を感じられる工夫が施されている

さらに、飾森さんは「あえて余白を残すようにした」と補足する。

「『自分らしい』をコンセプトに掲げたときに、いろいろな使い方ができた方がいいよねということで、余白を残しました。そのため、自由にカスタマイズ可能な芝生広場など、あまり設備を置かないようにしました。何かやりたいときに、レンタルして、それを各自が持ってきて、自由に使える場のほうがいい。最初考えていた形よりも、だいぶシンプルになりました」(飾森さん)

「Main Park Area」には広大な芝生広場があり、来園者は自由に過ごすことができる

MUFG PARKでは今後、自然散策イベントや野菜収穫体験、スポーツフェスティバルなどを通じた自己実現を促すプログラムを用意し、コンテンツを充実させていく予定だ。

「近隣の農家さんと共同で焼き芋大会なども開催したいと考えています。このようにパークだけで完結するのではなく、パークをハブとして、地域のイベントをたくさんやっていきたい。そのためにも、今後は地域のサポーターをもっと増やしていきたいんです。私たちだけでつくるのではなく、やはり地域の皆さんと一緒に育てていきたいと思っているので。そのためにも、サポーターを増やす取り組みとしてリアルの場で集まるサロンなども検討しています」(松井さん)

地域社会とのエンゲージメントを高めることが、持続可能な社会の一歩に

MUFGでは、MUFG PARKのほかにも、保有施設を活用して積極的に地域・社会への貢献に向けた取り組みを行っている。

例えば大阪ビル1階にある「Gallery Lounge(大阪賑わい施設)」では、地域の街の歴史を学べるコンテンツなどを備えた憩いのスペースを運営。2022年度から地域の協力団体と協働し、地域貢献のイベントを定期的に開催している。

また、名古屋ビル1階にある「貨幣・浮世絵ミュージアム」では、日本および世界各国の珍しい貨幣や、歌川広重の貴重な版画など所蔵品を展示。地域の方の社会科見学や修学旅行、生涯学習などに幅広く活用しているそうだ。

今回のMUFG PARKも、西東京市とのつながりを強めながら地域社会に貢献する取り組みの一つではあるが、こうしたモデルを今後はほかの企業、地域へと広げていくことが使命だと話す。

「MUFG PARKのような企業と地域社会とのつながりを強めるモデルが、現在の日本社会には必要だと考えています。こうしたつながりがあることで、企業は社会課題を正確に捉えながらサステナブルな社会の実現に貢献できる。社会の一員である企業には、やはりその責任があります。MUFG PARKは企業と地域社会がコミュニケーションを取るための一つの形であり、西東京市発で、この場でとどまるのではなく、いろいろな企業がやってくださるように共感を呼ぶまでが使命だと考えています」(飾森さん)

持続可能な社会の実現に向け、企業と地域社会がつながりを強める新たな形の一つであるMUFG PARK。公園というリアルな場を通じて、直接、地域の方とつながり、声を聞く取り組みには「手触り感」があり、テクノロジーを追い求める現在において大事なことを思い出させてくれる。

今後も、こうした保有施設やこれまで活用されていなかった場を企業が再定義して地域貢献を行う動きが、西東京市から全国に広がってほしい。

取材・文:吉田祐基
写真:水戸孝造

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