帝国データバンクは、2023年6月までに発生した「人手不足倒産」について調査・分析を行い、結果を公表した。
■2023年上半期は110件発生。年半期ベースで過去最多
従業員の離職や採用難等により人手を確保できず、業績が悪化したことが要因となって倒産した「人手不足倒産」は、2023年上半期(1-6月)に累計110件発生。
前年同期から約1.8倍に急増したほか、2013年に集計を開始して以降、年半期ベースで初めて100件を超え、過去最多件数を更新した。
月別の発生状況をみると、直近の2023年6月は、単月で過去最多となった4月(30件)に次ぐ23件となるなど、ポストコロナに向けて経済活動が本格化するなかで、「人手不足倒産」は増加基調がみられる。なお、現状の発生ペースで推移した場合、2023年通年でも過去最多の2019年(192件)を更新すると予想されるという。
なお足元では、従業員の転退職による倒産も増加している。
従業員や経営幹部などの退職・離職が直接・間接的に起因した「従業員退職型」の人手不足倒産は2023年上半期に33件判明、前年同期(25件)を上回り、年上半期で過去最多だった。「人手不足倒産」と同様、「従業員退職型」の倒産も通年で過去最多(2019年:71件)に達するペースで推移しているとのことだ。
業種別では「建設業」が急増が顕著。「運輸・通信業」も大幅増
2023年上半期の「人手不足倒産」を業種別にみると、「建設業」が45件で最も多く、全体の約4割を占める結果に。前年同期(15件)の3倍に達するなど急増ぶりが顕著で、現場の職人のほか、施工管理など有資格者の不足や退職により事業の継続が困難となったケースが目立っている。
また、「運輸・通信業」(20件)も、前年同期から2.2倍に増加。従来から続く慢性的なドライバー不足に加え、「2024年問題」やドライバーの高齢化も課題となっており、帝国データバンクは「人手不足リスク」がさらに高まる可能性があるとしている。
このほか、「小売業」(8件)は半数を「飲食店」(4件)が占め、人手不足で十分な営業日時が確保できずに倒産に至ったケースも。「サービス業」(21件)では、システムエンジニアの人材不足が続く「ソフトウェア業」で倒産が目立っている
人材確保が企業経営の重しに。倒産は今後も高水準を維持する可能性
5月に新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが「5類」に引き下げられ、ポストコロナに向けた経済活動・社会生活の正常化が急速に進むなか、人手不足感は高まっている。
帝国データバンクが実施した調査では、2023年4月において正社員の人手が「不足している」と感じている企業の割合は51.4%、非正社員では30.7%と、それぞれコロナ前の水準に戻りつつある状況に。
4年ぶりの行動制限の無い夏季シーズンを迎え、急速な需要増加による人材獲得競争が予想されるなか、足元では賃上げ機運の高まりによる人件費の高騰が企業に重くのしかかる。
建設業や運輸業などコロナ禍前より人材不足に悩む業種において、賃上げに踏み切れない、人材確保が困難な状況にある中小企業を中心に、「人手不足倒産」は高水準で推移していく可能性があると帝国データバンクは考察している。
<参考>
帝国データバンク『全国企業倒産集計2023年上半期報 別紙号外リポート:人手不足倒産』