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あなたは香水をつけていますか。つけているのだったら、なぜつけているのですか。
香水の原料ともなっている精油を使い始めたのは、古代エジプトやメソポタミアの人々だったといわれている。中国やインドでも使われ、古代ギリシャやローマの時代になると、本格的に医療に用いられるようになったそうだ。
私たちは今、さまざまな技術革新を経た最先端医療を受ける一方で、先人が実践した香りのメンタル面での治癒力に、改めて目覚め始めている。
香りに助けを求める、ストレスに苦しむ人たち
少し前まで、香水をつける理由は、体臭を抑え、良い香りで周囲の人に良い印象を与えたり、人を引き付けたりするためというのが一般的だった。しかし、市場調査会社エキスパート・マーケット・リサーチ(EMR)の2022年の分析によれば、人々が香水をつけるのは自らのウェルビーイングに配慮し、気分を変え、ストレスや不安を軽減するためだという。
仕事上では従来のストレスに加え、コロナ禍でテレワークが浸透した結果、仕事とプライベートとの線引きが難しくなったり、自宅であってもくつろげなかったりと、人々はさらにストレスを抱えるようになった。アメリカ心理学会の調べでは、病院を訪れる患者の75%以上がストレスと関係する病気や症状のため、来院している。主な死因のうちの6つまでもがストレス関連だ。
コロナが教えてくれた嗅覚の重要性
コロナに罹った際、人によっては嗅覚を失うという症状に見舞われた。医師は、嗅覚が長期間働かない患者に嗅覚トレーニングを薦めている。
元来、五感を活用できる順に並べた場合、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚となる。しかし、「ニューヨーク・タイムズ」紙は、医療関係者や研究者はコロナ禍を経て、嗅覚の重要性を見直したと伝えている。ウェルビーイングにおいて香りがいかに重要か、香りがいかに心身の健康を支えているかが、コロナのおかげでわかったわけだ。
そんな状況下で、最近広まりを見せているのが「ファンクショナル・フレグランス(機能性を持つ香り)」だ。
大手香料メーカーであるインターナショナル・フレーバー・アンド・フレグランス(IFF)が2005年に発表した、香りが感情に与える影響についての報告書「エフェクツ・オブ・フレグランス・オン・エモーションズ:ムーズ・アンド・フィジオロジー」によれば、私たちの日常的な感情の75%までもが香りの影響を受け、良い香りをかぐことで気分が引き上げられる可能性は40%もあるという。
香りは嗅覚を刺激し、脳内の大脳辺縁系での反応を誘発する。大脳辺縁系は感情や欲求などの情動に関与し、「情動脳」とも呼ばれている。
一目置かれる、ファンクショナル・フレグランスの草分け
ジュネーブ大学のブレイン・アンド・ビヘービア・ラボラトリーの研究を用いて、ファンクショナル・フレグランスを作っているのが、2017年創立のニュー・コーだ。同研究は認知機能と嗅覚が密接な関わりにあることを前提に、ある特定の香りのグループが引き起こす神経学的反応のマッピングに焦点を当てている。これを再現した香水の人気ぶりは大変なものだ。
現在、同社の香水は4種類。うち3種類が、緊張を和らげ、ストレスを軽減し、心を穏やかにしたり、心のバランスを整えたりと、癒しや安らぎを与える効果を持つ。そのものずばりの名の「ファンクショナル・フレグランス」はクリーンでウッディ、スパイシーなノートで、香水をつければ、瞬時に心を落ち着かせることができると謳われている。英国では、小売店で在庫が確保できないほどの売れ行きと、その人気ぶりを英国版の「ヴォーグ」誌が伝えている。
ベストセラーの「フォーレスト・ラング」は、樹木が発散する化学物質、フィトンチッドに接し、健康を促進する森林浴を再現したものだ。特許取得済みの技術を用い、ベチバー、シダーウッド、パインを配合し、フィトンチッドを再現している。
人間の体の70%を占め、マイナスイオンを発し、私たちの体のバランスを正常に保つのが、水だ。「ウォーター・セラピー」は、海や水辺にいるような感覚を再現している。カルダモン、ローズなどのほか、海藻や塩によって、マリンノートを創り上げている。
ラインナップ唯一の、集中力やエネルギーレベルのアップ、活気を取り戻すための香水が、「マインド・エナジー」だ。温かで、コショウのような爽やかな香りで、神経回路を刺激し、知的能力など、さまざまな能力を向上させる働きがある。
香水の重ねづけで、どんな感情もサポート
エデニストは、1980年代から香りの感情への影響を研究してきた日本の高砂香料工業とパートナーを組んでいる。
エデニストの香水は、「オードパルファム・アクティブ」7種類と、「ライフブースト」6種類の2タイプがある。どちらも、各々、脳波、fMRI(磁気共鳴機能画像法。MRIを用いて脳活動を調べる方法)、バイオセンサー(酵素などの生物学的な素材が特定の物質とだけ反応する性質を利用し、物質の検出などを行う)など、科学的な検査法、テクノロジーを用いた検査、被験者を対象とした実験で、その効果を証明している。
オードパルファム・アクティブには、特許取得済みのエデニストならではのストレスを解消するアコード(香りの調和のこと。複数の香料を調香した際のバランス)「ディストレス・アコード」が含まれている。オードパルファム・アクティブは、このアコードが10%、リラックス成分の内訳としては3分の2超で構成されている。
ライフブーストは、各々の名の通り、脳内の「ハピネス」「エナジー」「ドリーミネス」「ウェルビーイング」「リラクゼーション」「セダクション」という情動と関連づけられた部分に働きかけ、各々を向上させる。
オードパルファム・アクティブをベースに、ライフブーストを重ねづけするようにできている。時間が経つにつれ、気持ちが変化した場合、ライフブーストも変えて重ねづけすれば、一日を通して、快適に過ごせる。2タイプのどれを選んでも、かち合うことはなく、お互いが調和するように創られている。
エナジーヒーリングと香水を融合
バイラオは、エナジーヒーリングと香水を融合させたウェルビーイング・ブランドだ。香水の90%近くが天然素材で構成されており、成分は科学的に証明されている。
ポジティブな感情に導く、植物や花などのエッセンスを用いたマスターパフューマーが調香した香水は、現在7種類。香水の各ボトルには、クリスタルが1個ずつ入っている。香水をつける者のエネルギーを浄化・増幅させ、いきわたるようにするパワーストーンだ。各方面のエネルギーをまとめた、統合量子医学(IQM)を実践するルイーズ・ミタ氏によって、エナジーチャージされている。
今年に入ってから、そんなバイラオにエスティ・ローダーの起業支援・初期投資部門、ニュー ・インキュベーション・ベンチャーズが出資。少数株主となった。
高級ブランド、ロシャスのファンクショナル・フレグランス
歴史あるフランスの高級ブランド、ロシャスは香水でも評判が良い。そのロシャスによる「ガール」は、自分自身のウェルネスを気遣う新世代の女の子のためのフレグランス。ヴィーガンで、90%責任を持って調達された天然由来成分でできており、「自分自身を知る」ための香水だ。ガールにはほかに、「ガール・ブルーミング」「ガール・ライフ」といったバリエーションもある。
ニッチ・ブランドながら高品質な香水を市場に送り出すイニシオは、「イニシオ・パルファン・プリヴェ」のヘドニスト・コレクションの1つとして、数カ所の研究施設と提携し、天然成分を配合した「ムスク・セラピー」を開発した。
ホワイトサンダルウッドが幸福感を、ブラックカラントがエネルギーを与えてくれる。ウェルビーイングを促し、ストレスを緩和。脳のドーパミン受容体が刺激され、幸せな気持ちになれる。一瞬のうちに、生理的・感情的な反応を起こし、効果が上がるよう配合されている。アロマセラピーの効果を、香水で享受できるといわれている。
ジボダンがけん引する、香りで健康増進を図る時代
世界的に有名なコンサルタント会社で編集者を務めるフィオナ・ハーキン氏も、エデニストの創立者、オードリー・セメラロ氏も、ファンクショナル・フレグランスの発展は止められないだろうと予測している。両者とも、未来のファンクショナル・フレグランスは、人を元気づけるだけでなく、実際、健康増進に役立つようになると、英国版「ヴォーグ」誌に話している。
世界最大のフレグランスメーカー、ジボダンは、すでにこの2人が予測する未来のフレグランスの実現に近づくための開発を進めている。
昨年9月、シニア世代(55歳以上)が感情的・行動的・身体的にメリットを感じながら歳を重ねられるよう、「シルバー・ラディアンス・ディスプレイ」プログラムを立ち上げた。その第一段階として、挙げられている3つのテクノロジーのうちの1つが、気分と睡眠を向上させるためのフレグランス探求「ドリームセンツ」だ。質が高く、時間も十分な睡眠は健康とは切り離せない。ジボダンのこの試みが、健康増進に役立つ、将来のファンクショナル・フレグランスの第一歩なのかもしれない。
文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit)