住まいに愛着を編み込む。life knit designで積水ハウスが生む新たな価値

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人生100年時代がスタンダードになった日本社会において、住まいが担うべき役割は大きいといえる。災害や事故に対応する安全性、空間としての快適性はもちろん、ライフステージの変化に対応するフレキシブルな構造や間取り、資材やエネルギー効率を含めた環境配慮、健康や学び、他者とのつながりなど、住宅はさまざまな価値を備えるからだ。

創立60年以上の歴史を持つ積水ハウスは、2020年度から始まった新たな30年を、安全・安心を確立した「第1フェーズ」、快適性を追求した「第2フェーズ」に次ぐ「第3フェーズ」と位置づけ、「人生100年時代の幸せ」を追求。“「わが家」を世界一 幸せな場所にする”というグローバルビジョンを掲げ、住まいから「幸せ」という新たな価値を提供している。そして今回、新たなデザイン提案システム「life knit design(ライフ ニット デザイン)」を発表した。人生100年時代において、お客様に提供してきた良質な住まいを、さらに、 「長く住み続けたい家」づくりへのアップデートを目指し、“愛着”を軸に据えた住まいをつくり上げていくという。

人々が望む価値は、どのような形で空間へと具現化されていくのか。積水ハウスの新たな挑戦を追う。

人生100年時代において、“長く住み続けたい住宅”とは何か?

2023年6月20日、パークハイアット東京にて「life knit design発表会」が実施された。life knit designとは、積水ハウスが6月30日より始動する新たなデザイン提案システム。住まい手一人ひとりの“感性”をデザインするという点が、これまでにない提案手法だ。冒頭では代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの仲井 嘉浩氏(以下、敬称略)が、改革に踏み出した背景について述べた。

積水ハウス 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 仲井 嘉浩氏

仲井「積水ハウスは創業以来、耐震性や防火性能を中心とした“安全・安心”、省エネ性能やユニバーサルデザインといった“快適性”を、価値として提供してきました。一方のソフト面では、仕切りのない大空間リビング『ファミリー スイート』をはじめ、お客さまの生活への提案強化に努めています。これら設計・プランニングの力を、さらに強化するために踏み出したのが、『life knit design』です」

life knit designが目指すのは、「人生100年時代の幸せ」だ。一つの家に住む期間がより長くなったことにより、住宅への“愛着”の重要性は増していく。愛着を持って住宅が適切に維持管理されることは、循環型社会への貢献にもつながる。現代の多角的なニーズを愛着という概念に集約させた点に、life knit designの特徴があるといえるだろう。

仲井「どうすればお客さまが住まいに愛着を抱いていただけるかを、私たちは考え抜きました。そして生まれたキーワードが、“感性”です。はやりのような表面的な要因ではなく、より深く心が引かれ、『家を大事にしたい』と感じるためには、住まい手が持つ感性の反映が必要になります。自分の感性が映し出されたデザインに日々触れることにより、わが家に対する愛着が深まっていく。『時間と共に愛着を編み込む住まい』という思いが、life knit designという名の由来になっています」

一人ひとりの価値観の源泉ともいえる感性は、データや言語では表現されにくい領域でもある。ハウスメーカーと住まい手が感性を起点に家づくりをする点は斬新だが、具体的にどのような形で実現できるのだろうか。次に、積水ハウスが提示したアプローチ方法を見ていこう。

6つの感性フィールドから、お客様の感性を映し出す家づくり

life knit designでは「時間と共に愛着を編み込む住まい」を「お客様の感性を映し出す美しく普遍的な空間」、 「まちなみに美しく調和し、時を経るほどに愛される外観・外構」で実現する。

インテリアのデザイン提案において積水ハウスが抜本的に見直したのが、従来の“テイスト型”の手法だった。

仲井「これまで私たちは、例えば『和』『洋』『モダン』というように、20のテイスト分類に基づくインテリア提案をしてきました。しかしこの方法でははやり廃りが大きく、お客さまの多様化する嗜好にも完全にはフィットしません。そこでlife knit designでは、従来のコーディネーション手法の刷新と普遍的なマテリアルの厳選を実施。インテリア雑誌や当社のお客さまの実例、展示場のデータベースから、約6,600点のインテリア画像を分析しました。そして空間における色や素材、形などから受ける印象を言語化し、導き出したのが“6つの感性フィールド”です」 

「6つの感性フィールド」とは、
・静 PEACEFUL(しなやかな空気感)
・優 TENDER(さわやかな空気感)
・凛 SPIRIT(緊張感のある空気感)
・暖 COZY(暖かみのある空気感)
・艶 LUXE(贅沢な空気感)
・奏 PLAYFUL(心躍る空気感)
のことを指す。

モデルルームのようなサンプルではなく、住まい手側から見た感性の“ニュアンス”に近いといえるだろう。いずれもシンプルな空間が想定されており、そこに家具や小物、アートなどを加えていくことで、個々の感性が具現化されていくことが可能になる。業務役員 R&D本部 デザイン設計部長の矢野 直子氏(以下、敬称略)は、6つの感性フィールドの詳細を、「器」という言葉を用いて解説した。

積水ハウス 業務役員 R&D本部 デザイン設計部長 矢野 直子氏

矢野「住まいは、人生に寄り添う“暮らしの器”です。長く住み続けるためには、その時々の『好き』『心地良い』を反映できる、普遍的な美しさを備える必要があります。今回の6つのフィールドは、お客さまだけの感性を深掘りする起点となるよう、シンプルに設定しました」

膨大なインテリアからの画像分析は、AIではなく人の手により行われた。分析結果は日本カラーデザイン研究所による3次元の言語イメージスケールにプロット。すると6つの感性フィールドが、従来のテイストによる表現よりも広がりのあるシステムであることが判明したという。各フィールドはそれぞれが独立しながらも、自然な形で重なり合っていることがポイントになる。 

3Dでプロットされた6つの感性フィールド

矢野「例えば『暖に寄った艶』というように、お客さまの微妙なニュアンスにも焦点を当てることで、従来のような形にはめ込む提案から脱却することが可能になります。それぞれの感性フィールドにおいては、基本となる壁、床、天井などの素材群も追求しました。環境評価やメンテナンスなどの厳正な基準を設けつつ、職人の技や経年変化などを踏まえた価値観やこだわりを重ねることで、暮らしを豊かに彩っていきます」

住まい手と担当者が感性を共有する、新たなツールの開発

では、住まい手側はどのようにして自身の感性を探り、デザインを選択していくのだろうか。6つの感性フィールドは、住まい手が望む素材や形状、色彩などを営業・設計担当者が読み解き、コミュニケーションを図ることで、マッチングされていくという。具体的に用いるのは、6月1日に利用が開始された「インテリアコミュニケーションツール」だ。

インテリアコミュニケーションツール

矢野「『インテリアコミュニケーションツール』は、お客さまと当社担当者が感性を共有し、的確な提案へと導くツールとして開発されました。デジタルデバイスで閲覧できる同ツールには、積水ハウスがこれまで手掛けた暮らしの空間の写真36枚を搭載。それを『好き』『嫌い』と直感的に選択しながらベストな5枚に絞り込み、どこが気に入ったのかを書き込むことで、嗜好が可視化されます。感性は家族一人ひとりでも異なりますが、おのおのがツールを利用することで、互いの共通・相違を把握することも可能です。住まい手の選択結果は、積水ハウスの複数の担当者に共有され、ズレのない提案プロセスが実現されていきます」

デジタルツールだけではイメージがしづらい立体的な質感に対しては、リアル空間での感性の共有も必要だ。同社はこれまで展開してきた全国79カ所の仕様打合せためのショールームを刷新。「life knit atelier(ライフニットアトリエ)」と施設名称を統一し、全国84カ所でオープンさせる。

矢野「『life knit atelier』は、お客さまに実際の素材に触れていただくことで、感性を一緒に探る創造の場。アトリエ内に設置される『マテリアルビュッフェ』では、素材の質感はもちろん、つくられた背景や機能性などに理解を深めていただくことで、愛着を深めるきっかけをつくっていただけます」

マテリアルビュッフェ

life knit atelierでユニークなのは、「感性コラージュボックス」だ。6つの感性フィールドの 素材や色の組み合わせ方から印象を伺い、実際に素材に触れていただくことで、 これから始まる家づくりのイメージを共有する。そこからより具体的なイメージを具現化していくため、 感性フィールドに近い展示場や実例見学など を取り入れながら、プラン提案へと進んでいく。

感性コラージュボックス

矢野「life knit atelierは今後、感性フィールドに近い展示場の開設、お客さまの実例物件の見学を取り入れながら、より具体的なイメージを共有できるよう進化させていきます。つまり、インテリアコミュニケーションツールにより初期段階の打ち合わせを濃密にしつつ、life knit atelierで実例を見学しながらプランを擦り合わせることで、的確な仕様決定を実現するのが、私たちの新たな提案プロセスなのです」

life knit designではプランニングにおいても、「住まい手が長きにわたり『愛着』の持てる場所や空間を提供すること」を目指す。積水ハウスには現在、約3,000人の一級建築士が在籍するが、そのうち独自の厳しい審査を経た279人のチーフアーキテクトが、トップクリエイターとして設計に関与。彼らを含め営業・設計・インテリアコーディネーターなど住まいづくりにかかわる全員が感性を基軸にした空間を実現していく形だ。

矢野「life knit designの思想を共有するのは、社内の設計者だけではありません。minä perhonenの創設者・ファッションデザイナーの皆川 明氏には『人の想い、街の風景、日々の暮らしが色を重ねるように想い出と喜びを紡ぐ』というコンセプトをいただき、“色相”を意味する『HUE(ヒュー)』というコラボレーションモデルハウスを、駒沢公園ハウジングギャラリーにオープンしました。建築領域にとどまらない、多彩なクリエイターとのコラボレーションによりlife knit designを育んでいくことで、私たちはこれからもお客さまの感性価値の提供を果たしていきたいと考えています」

感性とテクノロジーの融合が、人々の幸せを実現する

今回発表されたlife knit designは、システム化によって忘れられがちになる“感性”と、システムの可能性を広げる“テクノロジー”が融合された点において、私たちに多くのヒントを与えてくれる。発表会を終えた後、仲井氏と矢野氏は個別インタビューにて、開発において重視してきた考え方を語ってくれた。

矢野「画像の解析をAIに頼らず、半年間を費やし人の手で行ったのは、既存の概念だけでは捉えきれない感覚にこだわりたかったからです。住まいは、長く使われることを前提として建てられます。美しく端正な空間にこそ普遍性が宿り、そこに家具やアート、日差しなどが加わることで、愛着が少しずつ育まれていく。そして家族の変化をも許容する、シンプルな“器”こそ、私たちが提供すべきものだと考えました」

life knit designは、積水ハウスの第6次中期経営計画における重点課題の一つとして位置付けられている。同社は今後、どのような形で社会的価値を育んでいくのだろうか。

仲井「住宅は長い歴史の中で、さまざまな変化を求められました。これからもお客さまの価値観、社会のニーズは多様化し、機能や役割は目まぐるしく変わっていくでしょう。現在は、AIやDXなど利便性が求められる時代。しかしテクノロジーを取り入れながらも、感性を重視することの必要性も増していくのではないでしょうか。life knit designは、そんな未来へと近づくための改革です。積水ハウスは“『わが家』を世界一 幸せな場所にする”をグローバルビジョンに掲げていますが、それらを因数分解すると、健康、つながり、学びなどの要素が見えてきます。家の中でさまざまな体験が可能になる。そんなハウスメーカーを目指し、私たちは今後も研究開発を続けていきたいと考えています」

感性や愛着といった概念を中心に、新事業を具体化しようとする積水ハウス。life knit designにより、私たちの住まいに対する価値観、日本の暮らしはどのように変化していくのだろうか。愛着に満ちたそれぞれの住まいが形づくる未来を楽しみにしたい。

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