求められる「クライメート・フレンドリー」商品 CO2を減らすクラッカーに、水を節約するエナジーバイツで消費者も気候変動抑制に貢献

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3月20日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、産業革命前からの気温上昇幅が今後1.5度を超える可能性が高いとし、それを避けるには、2030年までにCO2排出量を半減する必要があるとした「第6次統合報告書」を発表した。

時を同じくしてアントニオ・グテーレス国連事務総長は、とりかえしがつかなくなることがないよう気候変動に対処するために、私たちに残された時間がわずかであると、コメントした。

産業界では、各セクターがさまざまな方法でCO2を削減しようと努める。中でも、商品回転率が高い消費財(Fast-moving consumer goods=FMCG)セクターの一部は革新的な動きを見せる。

市場調査会社グローバルデータによれば、過去12カ月(2022年)の間に、約35%の企業が活動のあり方の見直しを行ったという。中には、倫理的でサステナブル、かつ画期的な商品を産み出したところもある。「クライメート・フレンドリー・スナック」だ。

FMCGセクターと気候変動とは切っても切れない関係

クライメート・フレンドリー・スナックが属するFMCGセクターと気候変動は、深く関わり合う。同セクターは食品セクターと共に、CO2排出の主要源となっている。米国科学振興協会の学術誌『サイエンス』に掲載された食品の環境負荷の低減についての論文によれば、その割合はCO2排出量全体の26%にもなるという。

Photo by Pixabay

一方、気候変動がもたらす猛暑、ハリケーン・洪水などの異常気象は、同セクターで利用する原材料の供給や物流に影響を与え、価格の上昇を招く。また、いつ見舞われるかわからない異常気象に備え、どのタイミングで、どの商品を、どれだけ用意するかという問題も生じる。簡単にいえば、FMCGセクターは自分で自分の首を絞めているといえる。

消費者の健康と環境問題は一心同体

FMCG企業が気候変動への対抗策を講じる原動力になるのが、消費者の需要だ。

消費者情報を提供するニールセンIQパートナー・ネットワークの昨年5月の記事には、米国の大多数の消費者が、サステナビリティを以前にも増して重要な関心事と捉えていることが取り上げられている。特に注目すべきは、66%が「環境問題が現在と将来の自分の健康に悪影響を及ぼしている」と感じていること。これは、個人の健康とサステナビリティの関係が密であることを意味する。

アーンスト・アンド・ヤングは、世界20カ国以上、1万6000人の消費者行動の調査を行った結果をまとめた「EY・フューチャー・コンシューマー・インデックス」の第11回目の調査結果を2021年に発表した。

それによると、調査開始後初めて、消費者の「優先事項」に変化が見られた。環境を優先する人が価格を優先する人を上回ったのだ。68%が環境により配慮するといい、63%が自分が商品を購入することで社会に影響が出ることをより意識しているという。また30%が環境を守るために買い物を控えるとしている。58%がよりサステナブルな方法で製造された商品なのであれば、よりお金をかけて購入してもいいと考えている。

また、投資家からの圧力もある。2020年、総資産約11兆米ドル(約1500兆円)を代表する投資家連合が大手ファストフード企業6社に対し、肉と乳製品のサプライチェーンにおけるCO2削減策と目標、そしてその公開を迫ったのは良い例だ。

気候変動を抑制するカギを握るサプライチェーン

商品の生産には大量の資源が消費される。特にサプライチェーンは重大な責任を負う。

Photo by Clark Gu on Unsplash

総合コンサルティング会社アクセンチュアは、「未来に向けた、レジリエントと責任あるサプライチェーンの構築」と題された、「UNグローバル・コンパクトーアクセンチュアCEOスタディ」という報告書を2021年に出している。

それによれば、世界のCO2排出量の60%が、サプライチェーンからのものだという。気候変動に対抗するためのカギは、サプライチェーンが握っているのだ。

しかし、マッキンゼー・アンド・カンパニーは、それには大きな障害があると指摘する。企業はサプライチェーンに関わる全社と直接取り引きしているわけではないのだ。

原料を提供する農家と直接取り引きするムーンショット

今年3月、アウトドア・ブランド、パタゴニアの食品・飲料部門であるパタゴニア・プロビジョンズにより買収されることが決まったのが、サステナブル・スナック・ブランドの1つ、ムーンショットだ。

ムーンショットは2019年、「食品の力を使って、気候変動に取り組む」というビジョンのもと設立された。小麦を使い、3種類のフレーバーのクラッカーを製造・販売している。

ムーンショットのFacebookより

同社は、大量のCO2排出が問題視されるサプライチェーンを短くするよう努めている。主原料は小麦粉。小麦の生産農家と製粉所間の距離はわずか3.2km。製粉所からクラッカー工場までは136kmだ。工場近くで育てられた小麦を使用し、輸送に関わるCO2を削減する。

サプライチェーンの透明性も高い。小麦やひまわり油を提供する農家と直接つながりを持ち、原料の出どころが把握可能だ。健康な土壌で大切に育てることを奨励し、通常より高い仕入れ値を支払う。オーガニックの認証を受けた、質の高い原料だけがムーンショットのクラッカーになる。

原料を栽培する農家は、リジェネラティブ(環境再生型)農業を取り入れている。ムーンショットでは、これを「健全な表土は、健全な食料を育て、地球を健全するのに役立つ」と説明する。現在、多くの農地で土壌有機物レベルが昔と比べ、低下している。土壌有機物レベルを上げてやり、大気中のCO2を土壌に移動させることを可能にするのが、リジェネラティブ農業だ。

梱包・包装についても、外箱は100%リサイクルされた紙でできており、食べ終わった後に、再びリサイクルできる。内袋は、今のところリサイクル可能な素材を使っているが、将来的には家庭で堆肥化できるものにするという。

1箱食べれば大気中の18~21gのCO2を除去できるクラッカー、エアリー

エアリーのFacebookより

シリアル製品の生産・販売を手がけるポスト・ホールディングス傘下のブライト・フューチャー・フーズが2021年に発売を開始したクラッカーが、エアリーだ。種類は6種類。「『食』を通して、気候変動を逆転させる」ことを同社の使命とする。

食品セクターが、全CO2排出の26%を占めることを前提に、「CO2を排出しないようにではなく、実際、大気中のCO2を除去する食品を作ろう」と開発を行った結果できあがったのが、エアリー。1箱食べると、空気中のCO2を18~21g減らすことができるという。

CO2を18~21g減らすというのは、ビーチボール約2900個分の新鮮な空気を増やすということと同じに当たる。この実現には、種をまくところから、消費者の手にわたるまでの全段階でCO2排出量を抑え、相殺する。

例えば、小麦の栽培には科学者と農家が協力し、最新の炭素農法を活用している。二酸化炭素回収・貯留に長けた農家を選び、不耕起栽培、間作物の植え付け、輪作、デジタル技術を用いた精密農業を実践。農家でのライフサイクルアセスメント(LCA)を行い、CO2の回収を定量化している。

また、第三者に依頼し、エアリーを生産する際の全工程のライフサイクル分析を行っている。工程上発生するCO2を相殺するために、林業や農場での炭素隔離プロジェクトからのカーボンクレジットに投資する。

CO2排出をさらに抑えるために、農場では電力使用を抑える。生産工場では、太陽光や風力などによるクリーンなエネルギー源を利用する。サプライヤーのカーボンフットプリントを極力削減するために、工場の近くで原料を調達するよう努める。

エアリーのFacebookより

栽培時に必要な水がアーモンドの78分の1というスイカの種スナック

原料の見直しという根本的な問題解決の道を選んだのが、フォーサ・フーズだ。

2021年にエナジー・バイツ3種類を発売した。一口サイズのミューズリーバーといってもよいもので、オーガニック天然素材5種類でできている。主原料は、スイカの種。タンパク源として一般的なナッツではなく、スイカの種で代用しているのだ。

スイカの種はアーモンドに負けず、タンパク質だけでなく、多種のミネラルを豊富に含んでいる。環境負荷もナッツ類と比較して低い。栽培のために必要とする水の量をアーモンドと比較すると、スイカの種は78分の1で、ピスタチオとでは94分の1で済む。

世界銀行によれば、世界の真水の70%が農業に使われているそうだ。ナッツと家畜は、育成時に水を必要とする食品の上位に入っている。フォーサ・フーズのウェブサイトによれば、食料供給のために、私たちは湖、河川、地下貯水池などの貯水池から水を調達しているという。

水の枯渇は、気候変動に通じている。国連水関連機関調整委員会(UN-Water)によれば、気候変動は主に「水の危機」であり、気候政策立案者は水を行動計画の中心にすえる必要があるとしている。

消費者にとって何を食べるかは非常に大切だと、フォーサ・フーズはメッセージを送る。エナジー・バイトのような食べ物で、気候変動抑制に協力するというチョイスもあるのだ。

CO2排出量が少ない食品を認定システムも稼働

このように、クライメート・フレンドリー・スナックが、次々と誕生しつつある中、CO2排出量が少ない食品を認定する「クライメート・フレンドリー」という認証も登場している。食品のサステナビリティに関する世界でも指折りのデータベースを持つ、独立系調査会社ハウグッドによるものだ。

3万3000以上の原材料のCO2排出量について、業界平均的な影響プロファイルを開発。GHGプロトコルや、2013年の気候変動に関する政府間パネルによる地球温暖化係数推定値など、検証された情報に従って、温室効果ガスの排出量を計算する。これらの詳細を、最終的なカーボンフットプリントの分析に統合する。

そして審査対象の製品を、ほかの全製品と比較し、カーボンフットプリントが少ない上位30%に入れば、「クライメート・フレンドリー」認証が与えられる。1年ごとに再審査を受けなくてはならないので、その信ぴょう性は高いといえそうだ。

ハウグッドの「クライメート・フレンドリー」認証を与えられたクライメート・フレンドリー・スナックも出てきている。クライメート・フレンドリー・スナックの製造各社は、世界のCO2排出量の60%を占めるサプライチェーンの問題を真剣に受け止め、その透明性を実現している。今後も、手軽に気候変動抑制の手助けをする機会を消費者に与え続けてほしい。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit

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